表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/250

190.雷矢

 驚いた。

 大将軍が人外の存在であることは既に理解している。

 その正体は、化け物や魔物に類するこの世界には存在しないはずの者たち。

 それを理解していながらも驚いた。


 キリルの正体は弓だった。

 生物ですらない。人を殺すために造られた武器だ。


 アルゴがそのことに気を取られている隙に、千の氷槍がアルゴに降り注ぐ。

 その氷槍を捌き終えた時、アルゴは状況を確認した。


 ガブリエルの姿が消えていた。


「……逃げられたか」


 弓と化したキリルとマティアスの姿も見えない。

 だが、それほど離れてないように思う。

 強い殺気を感じるのだ。


 その殺気を辿り、遠くへ目を向ける。


 見つけた。

 マティアスが居る。

 マティアスは建物の屋根の上に居る。


「弓を……つがえている……?」


 マティアスが黄金に輝く弓をつがえていた。

 実態のない雷の矢が、黄金の弦を引き絞っている。


「あれは、よくないものだな……」


 一目見て理解した。

 あの雷の矢の殺傷能力を。


 アルゴは魔剣を構える。


 あの矢は簡単には避けれない。

 ならば、真向から迎え撃つ。


 雷の矢の放電が激しさを増す。

 空気を焼き、黒煙が細く上がる。


 その雷は、使用者であるマティアスの体すらも焼いていた。

 マティアスの体の表面から黒煙が立ち上っている。


 マティアスはいま、凄まじい痛みに耐えていた。

 体が悲鳴を上げている。

 このままでは命に関わる。


 それでもマティアスは弓を手放さなかった。

 呼吸を止め、十分に狙いを定める。


 マティアスは強く念じた。


 見ていてください、閣下。

 私が、あなたの仇を取って見せます。


 そして、矢が放たれた。

 雷の速度を以って、アルゴに襲い掛かる。


 その矢の速度は、常人には捉えられない。

 だが、アルゴは捉えていた。

 目で捉えるのではない。

 己の感覚の全てで捉える。


「斬る!」


 そう強く言葉を放った瞬間、驚くべきことが起こった。


 矢の軌道が急に変わった。

 矢が直角に曲がったのだ。

 それで終わりではない。

 矢は軌道を変えながら空を進む。


「そんなもの、意味ない!」


 軌道が変わったとて、終着点は変わらない。

 終着点はアルゴだ。

 だからアルゴは惑わされない。


 だがこの時、アルゴにも一つだけ見落としがあった。


 矢が空を進む速度が徐々に上がっている。

 そのことに気付いたのは、矢が魔剣の間合いに入った時だった。


「―――なッ」


 矢が魔剣の間合いに入った瞬間、矢を叩き斬るつもりだった。

 しかし、予想より速い矢の速度に、アルゴの反応が一瞬遅れる。


 アルゴは魔剣を振るのではなく、防御として利用した。

 魔剣の刀身で矢を受けた。


 激しい雷撃。


 魔剣越しに、絶大な力がアルゴに押し寄せる。


 空気が弾け、アルゴは後方へ吹き飛ばされた。


 アルゴは後方の建物の壁に叩きつけられた。

 それでも威力を消せず、壁を突き破って建物内に侵入。

 建物内の家具を粉砕し、アルゴは停止した。


「……うっ」


 メガラに力を与えられてから、戦闘でこれほどダメージを受けたのは初めてかもしれない。

 だがそれでも、致命的なダメージではない。

 体は魔力で防御した。

 雷の矢は魔剣が受け止めてくれた。


「でもあぶなかった……。魔剣じゃなければ死んでたかもな……」


 アルゴは家具の破片を払いながら立ち上がった。


「ありがとう……ヴォルフラム」


 魔剣に感謝し、建物の外へと出る。

 慌てることはない。

 矢の追撃がきたとて、次は捌ける。

 その自信があった。


 敵もそれを理解しているのか、矢の追撃はなかった。

 その代わり、敵は別の戦術を取ったようだ。


 世界が一変していた。

 凍てつく氷の世界。

 地面と建物が凍り付いていた。


「これは……あの女の人の力か……」


 おそらくこれはガブリエルの力。

 この不安定な足場では戦いずらい。

 逆に敵には遠距離攻撃があるため、不利益はそれほどないだろう。


「なるほど、考えたな」


 アルゴは頭を振って息を吐いた。


「でも、こんな程度じゃ、意味ないですよ」


 敢えて強気に発言し、己を鼓舞する。


 アルゴは氷の地面を走った。

 バランスを失うがすぐにコツを掴む。


 すぐに氷の上で滑る感覚を掴む。

 むしろ、砂の地面であった時よりも移動速度が上がっていた。


 マティアスとガブリエルの気配を辿り、氷の世界を進む。


 見つけた。


 マティアスとガブリエルは、建物の屋根の上に居る。


「今度は逃がさない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ