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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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184.飛竜

 ヴェラトス砦から約五百メートル離れた位置。


 荒野にワイバーンが降り立っていた。


 ワイバーンとは何か。

 その問いに簡単に答えるならば、小型のドラゴンと答えるのが妥当だろうか。

 全長約五メートル。巨大な翼を持つ爬虫類の魔物。それがワイバーンである。


 ワイバーンの飛行速度は他の追随を許さないほど速く、最速の生物との呼び声が高い。


「君のために、一番大人しい子を選んだんだ」


 そう発言したのは、飛竜騎兵部隊の副隊長。

 若い女で、名をディナと言う。


「ありがとうございます」


 とアルゴは礼を述べた。


「うんうん。君は素直な子だね。素直な子は好ましいね。ワイバーンにもすぐに乗れるようになるさ……と言いたいところだけど、ワイバーンはとっても気難しいんだ」


 ディナは、ワイバーンの鱗を撫でながら続ける。


「ワイバーンは魔物だからね、基本的に人には懐かない。そこを私たちは、魔術や薬やらで強引に従わせてるってわけ。それでも、ワイバーンに乗って飛べるようになるには、短くても一年程度の訓練が必要となるんだ。今回の作戦では、君は後ろに乗ってもらうだけだけど、それでもワイバーンとある程度の信頼関係は築いてもらわないといけない。本当は、三月(みつき)は欲しいところだったんだけど……」


「そこを何とか、一月でお願いします」


「うん、分かってるよ。そう命令を受けてるからね。さーて。―――ローザ!」


 ローザと呼ばれ、ワイバーンは起き上がった。


「ワイバーンは頭がいいんだ。この通り、自分の名前を理解している。あ、ちなみにローザは女の子ね。年齢は……人族で言うと二十歳ぐらいかな」


 その説明を聞きながら、アルゴは上に目を向ける。

 ローザと目が合った。


 ローザの瞳がアルゴを見下ろしている。

 獰猛な肉食獣のような目だ。


「ローザ! この子はアルゴくん! 今回の作戦で、君の背に乗ることになる! 仲良くしてあげて!」


 それを聞いてもローザは無反応。

 そもそも意味を理解しているのか、アルゴには分からなかった。


「ローザ! 伏せ!」


 その指示にローザは従った。

 後ろ足を曲げ、地面に腹と顎を付ける。


「アルゴくん。まずは触れてみよう」


「わ、分かりました」


 緊張した面持ちで、アルゴはそっと右手を伸ばした。

 そろりと手を伸ばし、ローザの顎に触れようとする。


「グアアアアアアアアアアッ!」


 耳をつんざく咆哮。


 ローザが上げた咆哮に、アルゴは怯んでしまった。

 アルゴは手を引っ込めて、僅かに後退。


「ハハハ……。まあ、最初はこんなもんだから」


 苦笑を交えてディナがそう言った。


「び、びっくりした……」


「アハハッ! なにその可愛い反応! 君、それですごく強いんでしょ? まいったな。お姉さん、ときめいちゃうじゃないか」


「ハハ……。面目ないです……」


「よしよし。じゃあ次は、私と一緒に触ってみようか」


「一緒に?」


「うん」


 と頷いて、ディナはアルゴの右手首を掴んだ。

 そして、そのままローザの顎へと押し付ける。


 今度は触れた。

 ざらついた鱗の感触を指先で感じる。

 そして、ゆっくりと指先を滑らせる。


 ローザは大人しくしている。


「すごよ、アルゴくん。この調子なら、何とかなるかもしれない」


 と、ディナが笑みを見せた時。


 アルゴの体に衝撃が駆け抜けた。


「なッ!?」


 突然起きた事象に、アルゴは驚いて身を退いた。


「ど、どうしたの!?」


 ディナにそう尋ねられるが、アルゴにも分からない。


「グアアアアアアアアアアッ!」


 ローザの咆哮。

 それと共に、ローザは両翼を大きく広げた。


「え、な、なになに!? ローザ! どうしたの!?」


 ディナにも理解できないローザの行動。


 次にローザは、アルゴへと首を伸ばした。

 アルゴは右手を伸ばした。自然と腕が伸びていた。


 アルゴの伸ばした腕に、ローザの頬が触れる。

 そしてローザは、すりすりと頬を擦りつける。


「うっそ……どうなってるの……?」


 目を丸くするディナ。


 この時、アルゴは理解した。

 アルゴとローザの間で契約が交わされたからだ。


「多分ですけど、俺が邪竜を倒した経験があるからだと思います。ワイバーンは邪竜の眷属……のようなものだったので、邪竜を倒した俺が主になった……みたいな」


「じゃ、邪竜? 君は……何を言ってるのかな?」


「邪竜エレボロアス。俺がかつて、ダンジョンで倒した邪竜の名です」


「ほ、本当の話……?」


「はい」


「……なんだろう、驚きすぎて言葉が出てこないや」


「驚かせてしまってすみません」


「い、いや……」


「グウウッ」


 とローザが小さく鳴いた。


「乗ってもいいの?」


「グウッ」


 そのローザの鳴き声を肯定と受け取り、アルゴはローザの背に飛び乗った。


「グアアアアッ!」


 ローザは咆哮を上げ、翼をはためかせた。


 風が乱れ、砂が飛び取る。


 そして、ローザの体が浮く。


 即座に上昇を始め、あっと言う間に二十メートル以上上昇。

 翼をはばたかせ、数秒間滞空。

 その後、滑空。


 アルゴは全身で風を浴びた。


「ハハ……すごい」


 途轍もない速度だった。

 自分の体が風になったと錯覚してしまった。


 ディナは地上からその様子を見ていた。


「アハハハ~。なにこれ……夢?」

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