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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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182.最高の戦士

 ヴェラトス砦に、ネロが率いる軍が合流した。

 進軍の準備が整いつつある。


 ヴェラトス砦、ネロ専用の個室にて。


 部屋に居るのは三人。

 アルゴ、ネロ、そしてクロエだ。


 三人は、過去を懐かしむよう語り合っていた。


「あの時のネロりんは、本当にすごかったニャ! 骸骨の軍勢に立ち向かう勇士! あれは中々のものだったニャ!」


「クロエの方こそ、あの時の君の姿は、私の心に深く刻まれている。あの時は見事だった」


「ニャハハ! ありがとニャ!」


 ネロとクロエは友人関係となっていた。

 二人は、大将軍アレキサンダーを討伐するために共に戦った同志だ。

 共に死地を潜り抜け、その絆は強固なものになっていた。


「だが、やはりアルゴ、君の活躍はすごかった。君が居なければ、アレキサンダー討伐は敵わなかっただろう」


「俺は皆で頑張った成果だと思ってます。俺と、ネロさんとクロエさん、それからメガラの」


「そうだニャ! 皆の成果だニャ! アルくん、良いこと言う!」


 ぞこでネロは、咳払いをして姿勢を正した。


「だが忘れてはいけない。私たちは、多くの犠牲のお陰でここに居る。多くの命が戦場で散った。それを、忘れるべきではない」


「だニャ……」


「はい……」


「すまない。暗い雰囲気にしたかったわけではないんだ。だが……」


「分かってるニャ。ネロりんの言う事はもっともだニャ。クロエたちは、それを忘れるべきではない。これまで散った仲間のこと、そしてこれからもそれは続くということを」


「……ああ。その通りだ」


 真剣な様子でそう言ったあと、ネロは手を叩いて話題を変えた。


「さて、これからのことを説明しておこう。アルゴは理解しているだろうが、クロエは少々理解が不足しているようだからな」


「あ、あとでちゃんとメガちゃんに訊こうと思ってたんだニャ! 本当だニャ!」


「では丁度よかった。盟主様のお手を煩わせるわけにはいかないからな」


「むう。ネロりん意地悪だニャ。クロエは傷ついたニャ! アルくーん! 慰めて!」


「よ、よしよし……」


「ハハッ。悪かったクロエ。そう不貞腐れないでくれ」


 そう言ってネロは懐から地図を取り出し、机の上で広げた。


「ここが現在地、ヴェラトス砦だ」


 ネロは指で現在地を指し示し、ゆっくりと右に動かしていく。


「そして、ここがアガム砦。ルタレントゥム中西部に位置する、私たちが落とすべき砦だ」


「この砦の兵士たちは、そこを攻め落とす準備を進めているってことニャね」


「そうだ。アガム砦より東に約三十キロ進めば、魔都エレウテリオンがある。つまり、アガム砦を落とせば、魔都エレウテリオン奪還は叶ったも同然」


「ニャるほど。けど、それは敵も理解しているはず。敵はアガム砦に相当な戦力を集めているんじゃニャい?」


「ああ。アルテメデス帝国が、大軍をアガム砦に集結させているという情報が入っている。かなり厳しい戦いになるだろうな……」


 難しい顔をするネロに、アルゴは尋ねる。


「勝率は、どのぐらいなんですか?」


「アルテメデス帝国は、東の連合軍との戦いにも大きな戦力を裂いている。だがそれでも、アルテメデス帝国は大軍をアガム砦に動員できる力がある。アガム砦に集結する帝国の兵数は、概算で五万。対して我々混成軍の兵数は四万と少し。勝率は高くない。甘く見積もって五割。厳しく見れば三割……と言ったところか」


「三割……」


 あまりにも低い勝率に、アルゴは言葉を失う。


 そのアルゴの肩に、ポンと軽い衝撃。


「ニャハハ。でもその勝率は、アルくんが居なかった場合の話でしょ?」


 そう言って、アルゴの肩を軽く叩くクロエ。


 ネロはクロエに答える。


「ハハッ。君は前向きだな、クロエ。だが……その通りだ。アルゴ、君が鍵になる」


 ネロは真っ直ぐにアルゴを見つめた。

 期待と希望が込められた視線を。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ヴェラトス砦の作戦会議室には、軍の幹部、各国の首脳陣が集まっていた。


 パルテネイア聖国軍の将軍、ゲオルグ・サボドギンは声を響かせる。


「皆々様! 私の聖国軍が居れば安心ですぞ! 負けは万に一つありません! これは聖王が採択された聖戦! 我々には女神の加護がありますぞ!」


 ゲオルグは、赤毛で六十代の男だ。

 太っていて、軍人という印象は受けない。


 声に熱を込めて言うゲオルグだったが、それに対する周囲の反応は冷ややかなものだった。


 しんと静まり返る作戦室。


 その空気に切り込んだのは、ルタレントゥム残党軍の将軍、ネロ・ブラウロンだった。


「ゲオルグ将軍、よろしいですか?」


「お? お……おお、おおッ! 話を進められよ!」


 ネロは頷いたのち、視線を若い兵士に向けた。


 若い兵士は、慌てて声を上げた。


「改めて、作戦を皆様に共有したいと思います!」


 若い兵士は、手に持った差し棒を机上の地図に向けた。


「我々の目標は、ルタレントゥム中西部に位置するアガム砦であります! 本日より一月後、我々は軍をここへ進めます! その上で、最も大きな障害となるのは、やはりアルテメデス帝国の大将軍でありましょう! 大将軍『万雷(ばんらい)』のキリル・レグナート。この者が、アガム砦に着陣したという情報が入っております!」


『万雷』のキリル・レグナート。

 それを聞いて、作戦会議室が騒がしくなった。


「皆様も御存じの通り、万雷の強さは、たった一人で軍の戦力に並びます! この者の雷の魔術は、超高火力、超広範囲、であります! そのため、無策でアガム砦に突っ込めば、我々は大きな被害を被るでしょう!」


 若い兵士は、少し間を置いて続ける。


「そこで、我々混成軍が選りすぐった魔術師百名の出番であります! 魔術師百名の結界魔術で、上空に大規模な防御結界を構築し、万雷の雷を防ぐ! その間に、我々の軍はアガム砦に接近する! という作戦であります!」


「その結界魔術は、どれほどの耐久力なのですか?」


 そう尋ねたのは、イオニア連邦議会義長、イヴェッタ・ラヴル。

 獣人族の老婆だ。

 イヴェッタは、かつては武人であったが今は違う。武官ではなく文官。

 その長である。


「はッ! 万雷の雷を受け続けた場合、結界の耐久時間は、三百秒から六百秒程度と思われます!」


 イヴェッタは、怪訝な様子で尋ねる。


「それは……短すぎないでしょうか? その間にアガム砦に接近できるのでしょうか?」


「はッ! おそらくそれは不可能であります!」


 その答えを聞いて、イヴェッタは首を傾げる。


 すかさず、ゲオルグが口を開いた。


「ご安心なされよ、イヴェッタ議長。私の飛竜騎兵がおりますゆえ」


「飛竜騎兵……ワイバーンを駆る騎兵、でしたか?」


「左様でございます。飛翔する魔物、ワイバーンを手懐ける技術は、パルテネイア聖国にしかないでしょう。そのワイバーンを駆る飛竜騎兵が五十騎。その者たちが、空よりアガム砦に接近し、万雷を討つ。完璧な作戦ですな」


 それを聞いて、ネロは右手を上げた。


「ゲオルグ将軍。その件について、一つ意見よろしいですか?」


「勿論ですとも。聞きましょう」


「飛竜騎兵が万雷を討てなければ、我々の軍は崩れます。飛竜騎兵が本作戦の肝心要。失敗は許されません。ですから、我々は最高の戦士を飛竜に騎乗させるべきです」


「ご心配なく、ネロ将軍。飛竜騎兵らは、パルテネイア聖国軍随一の猛者たち。あれ以上の戦士は他におりますまい」


「飛竜騎兵の練度の高さは、私も承知しております。ですが、最高の戦士ではありません」


「む? それ以上の発言は気を付けられよ、ネロ将軍。聖王の名を穢すつもりがないのであればな」


「私は、貴方がたを貶すつもりもなければ、愚弄するつもりもない。それは信じて欲しい」


「むーう……。いいでしょう……して、その最高の戦士とやらは何処へ?」


 それを聞いてネロは、会議室の片隅に目を向ける。


「アルゴ、前へ」


 名指しされたアルゴは、やや硬い動きで前へと歩き出した。


 ネロは続ける。


「この者は、盟主様の騎士アルゴ。大将軍クリストハルトを討ち、同じくアレキサンダー討伐に大きく貢献した人物です。この者こそが、私が知る限りの最高の戦士です」


 ゲオルグは、顎を擦りながらアルゴをしげしげと眺めた。


「ネロ将軍、私も聞いておりますよ。めっぽう強い少年兵が居ると。この少年がそうなのですね?」


「はい、そうです。正確には兵士ではありませんが、今はそこは置いておきましょう。ともかくこの者の強さは、私たちの常識を超えております。ですから、この者を飛竜に騎乗させるべきです」


「だが、飛竜を駆ったことなどないでしょう。飛竜を操るのは、長い修練が必要。そんな時間はないでしょう」


「分かっています。そこは貴方がたの騎手に頼らざるを得ません。騎手とアルゴ、二人を騎乗させるのです」


「二人乗りにすると? それでは、飛行速度が落ちてしまいますな。飛竜の長所を潰すことになりますぞ?」


「それでもです。それでも、アルゴを乗せるべきです」


「存外、頭が固いですなあ、ネロ将軍。世界は貴方の理屈では動いてないのですよ。人にはそれぞれ領分がありましょう。空は飛竜騎兵の領分。我々に任せればよろしい」


 それにネロが反論しようとするが、その瞬間、バチンと音が響いた。


 それは、扇子が机に打ち付けられた音だった。


「頭が固いのはお前よ、ゲオルグ」


「ミ、ミレト様……」


 たじろぐゲオルグに、ミレトは続ける。


「この坊やの実績は、お前も知るところなのじゃろう? であれば、つべこべ言わずにネロの言う通りにせえ」


「ミ、ミレト様がその少年をお認めになられるとは……」


「まだ反論するかえ?」


 殺気がこもったミレトの視線に、ゲオルグは怯んだ。

 まさに蛇に睨まれた蛙。


 ゲオルグは、深々と頭を下げた。


「い、いえ……。反論はありません。ご随意に……」


「と、いうわけじゃ。盟主様、何か言いたいことはあるかえ?」


 話を振られたメガラは、溜息を吐いて返答。


「特にはない。余もアルゴが飛竜に騎乗することに賛成だ」


「おや、それだけかえ? 自分の騎士が重責を担うというのに……。冷たいのう、盟主様」


「情でこの戦に勝てるのか?」


「いいや」


 メガラは、肩をすくめるミレトを一瞥し、ネロに目を向ける。


「話を進めてくれ、ネロ」


「はッ。それでは―――」


 そうして、作戦会議は続く。

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