180.誇り高き民族
アルゴはメガラに連れられて、ヴェラトス砦の最上階に来ていた。
後ろにはリリアナがいるが、リリアナは何も喋らない。
リリアナは、メガラの護衛に徹しているようだ。
最上階の通路にて、メガラは足を止めた。
「アルゴ、お前もお前だ。あの女にノコノコとついて行くな」
「……ごめん。どうしても二人で話したいって言われたから……つい」
肩を落とすアルゴの様子を見て、メガラは軽く溜息を吐いた。
「まあ……反省しているのならよい。それに、余も悪かった。あの女の危険性を説明していなかったな」
「危険性?」
「ああ。アルゴ、外を見てみろ」
そう言われ、アルゴは窓から外を眺めた。
外には大勢の兵士の姿。
ヴェラトス砦に存在する兵士の数は、五千を超える。
ルタレントゥム残党兵、イオニア連邦兵、アスガルズ王国兵、パルテネイア聖国兵からなる混成兵団である。
その中でパルテネイア聖国兵はよく目立つ。
翼の紋様が描かれた黄色い兵装を纏っているため、一目でパルテネイア聖国兵だと分かる。
パルテネイア聖国兵の種族は人族が多い。
「パルテネイア聖国の人族は、大陸中央部や東側の人族に比べ色素が薄く、青い瞳を持つ者が多い。魔族からすれば大した違いはないように思うが、彼らにとってはそうではない。パルテネイアの者たちは、パルテネイア人であることに誇りを持っている。白い肌と青い目は彼らの誇り。彼らは、自らのことをアステリアと称する。古代語で星々の民という意味だ。ということからも分かる通り、パルテネイア人は誇り高い民族なのだ」
「誇り高い……民族」
「その誇り高い民族を動かしているのは……こうして戦場に駆り出しているのは、誰だと思う?」
「それは確か、パルテネイア聖国の偉い人……聖王だっけ? その人なんじゃないの?」
「表向きはな。だが、聖王を操っている者が居る。その者こそが『異界の魔女』ミレト・ガラテイアだ」
「あの人が?」
「男を篭絡し、意のままに操るのは、あの女が得意とするところ。証拠はないさ。だが十中八九、あの女は聖王を誑し込んでいる」
「……」
「だから気を付けろ。あの女は頼もしくもあるが……その反面、恐ろしい女なのだ」
「分かった。気を付けるよ」
「うむ。それでよい」
メガラは満足げに頷いて、続けて言う。
「さて、余はこれから軍議に参加せねばならん。アルゴ、リリアナ、お前たちもこい―――と言いたいところだが、今日はよい。二人とも、今日はもう休め」
それに対し、今まで黙っていたリリアナが口を開いた。
「盟主様、それには及びません。私は、盟主様と共にいきます」
「リリアナ。お前は本当に頭が固いな」
「そ、そうでしょうか?」
「休めと言ったら休め。これは命令だ。他の連中には、余が休むと命じたと言っておく」
「命令……ですか。それでしたら……了解しました」
それを聞いてメガラは少し笑い「では行く」と言って歩き出した。
アルゴは、メガラの小さな背中を見つめ、声を上げた。
「メガラ! ありがとう!」
メガラは足を止めず、右手をヒラヒラと振って反応。
アルゴはリリアナに視線を移し、頭を掻きながら言う。
「メガラに気を使わせてしまいましたね……」
「はい。あの方は本当にお優しい」
「それじゃあ、あの時の約束を……やりますか?」
それは、ベリアル城でベリアルと戦う前日にした約束。
ここを出たら二人で話をしよう。
お互いのわだかまりが解けるまで。
「はい。随分と、時間が経ってしまいましたね」
「ははっ、そうですね。お互い、忙しかったですから」
そう言ってアルゴは、柔らかく笑った。
「ええ……とっても……」
リリアナは顔を僅かに俯けた。
赤くなる顔を誤魔化すように。




