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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第六章

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179.魔性の

 プラタイト西の荒野には、ヴェラトス砦をはじめ、数多の砦、監視塔が存在する。

 それらは全てアルテメデス帝国によって建造されており、プラタイト西の荒野は実質的にアルテメデス帝国が支配する土地であった。


 しかし、盤面が大きく変わってしまった。


 今、その土地を支配するのはアルテメデス帝国ではない。


 現在実行支配してるのは、パルテネイア聖国とその周辺国からなる聖国勢力である。

 聖国勢力は、アルテメデス帝国の砦や監視塔を次々に落としていった。

 聖国勢力に押され、アルテメデス帝国は防衛ラインを後退。


 そしてまた、盤面が大きく変わろうとしている。


 聖国勢力は、さらに東へと軍を進めるつもりであった。

 東に存在するのは、ルタレントゥムの中心部だ。


 今まさに、戦場が変わろうとしていた。 



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ヴェラトス砦は、言わずと知れた不落の要塞である。

 砦の主は、アルテメデス帝国大将軍アレキサンダー・ローグレイウッド。


 それは、ヴェラトス砦周辺域に住む者にとっての常識だった。

 だがこの世に不変がないように、常識もまた変化する。


 ヴェラトス砦は現在、聖国勢力に支配されている。

 そして、砦の現主はミレト・ガラテイアである。


 ガラテイア家は、ルタレントゥム魔族連合を代々治めていたエウクレイア家の分家筋にあたり、その血筋のミレト・ガラテイアは由緒正しき高貴な存在。

 アルテメデス帝国との対戦で多くの死者を出した今、ミレトは盟主メガラに次ぐ地位にあった。


 ヴェラトス砦。

 かつて大将軍アレキサンダーが専用としていた個室には、何やら甘い香りが漂っていた。


「喉が渇いたじゃろう? 何か酒は……いやまて。坊や、酒は飲めるのかえ?」


 ミレトは、酒瓶が詰まった棚から視線を外し、そう尋ねた。


 そう問われ、アルゴは答えた。


「いえ……酒は……」


「そうじゃな。酒はやめておこう。ではこれじゃ」


 そう言ってミレトは、赤い液体が入った瓶を取り出し、グラスに注いでいく。


「これは果汁じゃ。美味じゃぞ」


 アルゴは机に置かれたグラスを見つめ、躊躇いがちに礼を述べた。


「ありがとう……ございます。……頂きます」


 グラスに口を付け、一口飲む。


「おいしい……」


「フフフッ」


 ミレトの笑い声が背後から聞こえた。

 いつの間にか背後に回られていた。


 ミレトは後ろからアルゴの肩を触り、その後アルゴに抱き着いた。


「なッ!?」


「坊や、愛いのう……。妾は坊やのことを好ましく思うとる。どうじゃ、妾のものにならんかえ?」


「そ、それは無理です」


「つれないのう。なんでじゃ?」


 そう尋ねつつ、ミレトはアルゴの頬を人指し指で触り、首筋、鎖骨へとなぞっていく。


 アルゴは動けなかった。

 まるで蛇にしめつけられた小動物。

 緩やかに窒息させられるような危機感。

 それでも体が動かないのは、ミレトの持つ魔性ゆえか。


 男を魅了する魔性の色気。

 それにあてられたアルゴは、思考を止めてしまった。


「どうしたのじゃ? 坊や。理由を教えてくれんかえ?」


 理由。

 それを考えた時、ある人物の顔がハッキリと浮かんだ。


 それと共に、思考力が戻ってくる。


「俺は……メガラの騎士……ですから」


 その答えを聞いたミレトは、つまらなそうに溜息を吐いた。


「坊や、分かっておるよ。雛鳥は初めて目にしたものを親と思うもの。それゆえ、盟主様を慕うのは頷ける。しかし、坊やはもう雛鳥ではない。坊やは幾つもの偉業を成した。そろそろ、旅立つ時じゃないかえ?」


「よく分かりませんけど、とにかく俺は―――」


 その瞬間、アルゴの唇にミレトの人差し指が添えられた。


「坊や、ああ……坊や。よく聞くのじゃ。坊やは、あと数年で大人となる。あと五年もすれば、誰がどう見ても立派な大人にのう。その時、坊やは必ず欲しくなる」


「何を……ですか?」


「女じゃ」


「……」


「盟主様は身持ちが固いからのう、体を許してくれることはないじゃろう。その点、妾ならば、坊やが満足するまで相手してやるぞ」


「……」


「フフッ。そう固くなるな。なにも取って食ったりするわけじゃない。悪い話ではないはずじゃぞ? そうじゃ、続きはそこのベッドでしてやってもよいぞ?」


 アルゴの頭は破裂寸前だった。

 ミレトの言っていることを全て理解できているわけではない。

 しかし、理解できている部分もある。

 要するに、そういったことに疎いアルゴには刺激が強すぎたのだ。


「お、俺は……」


「まあまあ。ささ、続きはベッドの上でじゃ」


 ミレトはアルゴの手を引いて立ち上がった。

 アルゴは拒もうとした。

 だが、ミレトの額の瞳に見つめられ時、ミレトを拒もうとする意思が弱まってしまった。


 これはよくない。

 ここから逃げなきゃ。


 とアルゴは思った。


 しかし、それを実行する前に、部屋の外から怒鳴り声が聞こえた。


「ミレト! ここを開けろ!」


 聞き馴染のある高い声。

 メガラの声だ。


「おい! 開けろと言っている! 余の騎士もそこに居るのだろう!?」


 ミレトは忌々し気に呟いた。


「盟主様め。嗅ぎ付けられたか」


「いいだろう……強行突破だ! リリアナ! やれ!」


「はッ!」


 次の瞬間、扉は大破。

 扉を突き破り部屋に侵入したのは、リリアナ・ラヴィチェスカ。

 続いてメガラ・エウクレイア。


 メガラはアルゴとミレトの様子を見て、目を見開いた。


「ミレト! 我が騎士に触れるな!」


 メガラは足早にアルゴへと近付き、アルゴの手を取った。

 そして、アルゴを庇うように前に出た。


「盟主様、そう怒鳴らんでくださいまし。妾はただ、英雄と親睦を深めようとしていただけでありんす」


「どの口が言うか! お前がどれだけ男を誑かそうと、余の知ったことではない! だがな、我が騎士に触れることは許さん! これは命令だ!」


「……うるさいのう、盟主様は。そのキンキン声は何とかならんのかえ?」


「貴様!」


「分かった分かった。委細承知じゃ。はよう、坊やを連れて出て行っとくれ」


 メガラはミレトを睨みつけ、その後、体を翻した。


「アルゴ、リリアナ、いくぞ」


「はッ!」


「う、うん」


 そうして三人は出て行った。


 一人となったミレトは、グラスを持ち上げて残った果汁を飲み干した。


「盟主様の怒る姿は、小さくなっても怖いのう。けど……申し訳ないのう、盟主様。今回ばかりは、妾も本気なのじゃ……」

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