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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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178.この温もりこそが

 主を失ったベリアル城は、未だ砂の上に存在している。

 無人の城。静寂の城。音の消えた不変の城。

 まるで、時の流れが止まってしまったようだった。


 しかしその城で、動く影があった。

 それは黒い霧のようであり、黒い砂粒が集まったような様子だった。


 黒い霧は城の通路を漂い、ある場所で止まった。


 そこは、女神アンジェラの像が設置された祈りの場所。

 その場所で、黒い霧は滞空する。


 すると、女神アンジェラ像の足元の床が輝き始めた。

 青白い発光が少し弱まった時、光が文字となって床に浮かび上がっていた。


 黒い霧の中心から目が現れた。

 その一つ目は、光の文字に視線を向けた。


 文字にはこう書かれていた。


 よう、クソ野郎。アンタの思い通りにいかなくて残念だったな。

 ハハッ! ざまあみろだ! 

 せいぜい首を洗って待っておけ。

 オレっちが、直接ブン殴りに行ってやるからよ。


 数秒後、光が弱まり始め、やがて文字は消え失せた。


 その後、黒い霧も消え失せた。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 アルテメデス帝国。

 帝都メトロ・ライエスから北に約ニ十キロ地点。

 深い森の中に建つ家に、大賢者と大将軍は居た。


 大賢者ロノヴェ・ザクスウェルは、わずかに眉をひそめて言う。


「まさかこれほど早い段階で、神ベリアルが倒されるとは……。いやはや、申し訳ない。吾輩の読みが外れてしまいました」


 大将軍キリル・レグナートは、不機嫌を隠そうともせず尋ねた。


「アスガルズ……イオニア……ルタレントゥム……こいつらが結託してしまったと?」


「そうなりますな。アスガルズ王国とイオニア連邦の潰し合いはならず、むしろ力を結束させてしまいました。重ねて謝ります。これは吾輩の失態です」


 それに応じたのは、大将軍ガブリエル・フリーニ。


「まあ仕方がないじゃないの。成功と失敗は表裏一体。コインの表と裏のような関係よ。落としたコインが表となるか裏となるかは、神のみぞ知る。……ああ、これは嫌味ではないわよ?」


「ホホホッ。分かっておりますよ、レディ・ガブリエル。貴方はお優しいですな」


「そうよ、私は優しいの」


「僕もロノヴェを責める気はない。そもそも、何も問題はない」


 その時、キリルの体の表面が金色に明滅を始めた。

 それは小さく弾けるような音を立てて、空気を焦がす。


「僕が纏めて潰してやる」


「ちょっと、やめてよキリル。髪の毛が乱れちゃうじゃない」


「……」


 キリルはガブリエルに言い返す気にはならず、顔をしかめるだけに留めた。

 そして、金色の明滅が消え去った。


「ホホッ。サー・キリル、そしてレディ・ガブリエル。ここから先、油断はなしです。吾輩たちは、全力を出さなければなりません。彼らの最初の狙いは、おそらく魔都エレウテリオンの奪還でしょう」


 ロノヴェは、キリルとガブリエルを交互に眺めて続きを言う。


「各々、準備なされよ」


 そして、ロノヴェは虚空へと視線を向けて、かすかに笑った。


 来るというのなら受けて立ちましょう。

 再会が楽しみですよ。神ベリアル。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 兵の多くがイオニア連邦へと帰還し、ガリア砦は静けさに満ちていた。

 残っている兵士は百人前後。

 その兵士らも、数日後にはここを発つ予定となっている。


 ガリア砦の作戦会議室にて。


 残党軍将軍、ルギルド・バルトローグの顔には、珍しく笑みが浮かんでいた。


「なんとかなりましたな、盟主様」


 メガラは頷いて返事をした。


「ああ。アスガルズ王国と我らの同盟は成った。これで東へ軍を進めることができる。それもこれも……」


「それもこれも、勇者たちのおかげ、ですな」


 メガラとルギルドの視線がアルゴに向いた。


「俺は……勇者なんかじゃ……」


「謙遜することはない。お前は偉業を成し遂げた。今回のことは、本当に助かったぞ……アルゴ」


「う、うん……。でも、頑張ったのは俺だけじゃない。クロエさんとリリアナさんも、死にそうになるぐらい頑張った。あの二人は、本当にすごいよ」


「ああ……そうだな。お前たちは、本当によくやってくれた」


「私からも、ひとこと言わせてくれ。勇者アルゴよ、本当にありがとう」


「は、はい。そう言ってもらえて、何よりです」


 照れ臭そうなアルゴを見てルギルドの表情が緩むが、その後ルギルドは表情を引き締めた。


「では盟主様、出発は二日後となります。イオニア連邦に到着後、直ちに軍備を整え、準備が完了次第、軍を進めます。目標は、現アルテメデス帝国ルタレントゥム領、魔都エレウテリオンの奪還、となります」


「うむ。それではこの二日が、余らの最後の休息になるかもしれんな」


「そうです……な」


「ルギルド・バルトローグ、お前の忠義、余は深く感謝する。これからも、よろしく頼む」


「はッ!」


 ルギルドはメガラの前で跪いた。


 メガラは小さく頷いて言う。


「うむ。では、今日はもう休め」


「はい。それでは失礼します」


 と言って、ルギルドは作戦会議室から出て行った。


 作戦会議室にはアルゴとメガラだけとなった。


「それじゃあメガラ、俺たちも休もうか」


「そうだな」


「うん」


 アルゴは出口へと歩き出すが、後ろから名を呼ばれた。


「アルゴ」


 メガラに呼ばれ、アルゴは立ち止まる。


「うん?」


「二人っきりとなるのは……久しぶりだな……」


「そう……だね」


「こっちへ……来るか?」


「うん……」


 アルゴは、椅子に座るメガラの元まで近づいて、床に両膝をつけた。


 そこからは、自然と体が動いていた。

 木の葉が川の流れに逆らえないように、流れに身を任せるしかなかった。


 アルゴは、メガラの太腿に頭を乗せた。


 何をしているんだ、俺は。


 そう思ったが、流れには逆らえない。


 メガラは、アルゴを優しく受け止めた。

 アルゴの頭を優しく撫で、穏やかに言う。


「頑張ったな……アルゴ」


「うん」


「よくやった、偉いぞ」


「うん」


「褒美を与えねばな。なにか……なにか欲しい物はあるか?」


「なにも……なにもいらない」


「しかしな、それでは困る。それでは余の立場がないではないか……」


「いらないんだ、本当に。メガラが傍に居てくれれば、俺にはなにも要らない。だから、これからも一緒に居てくれ」


「しょうがない奴だな……。よかろう、それを褒美としようか……」


「うん……」


 激動のダンジョン攻略を終え、久しぶりに感じる優しい温もり。

 この温もりこそが、何より欲しかったものだ。

 決して、失ってはならないものだ。


 アルゴは、この一時の安らぎに身を任せることにした。

これで五章は終わりです。ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブックマーク、高評価よろしくお願いします。

ちなみにですが全七章を予定しております。最後までよろしくお願いします。

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