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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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165.縛り

 神々が人類に授けた術の中で、代表的なものが二つある。


「それは魔術と法術だ」


 そうベリアルが発言し、リリアナは尋ねる。


「法術?」


「ヤーッ。何故か地上では廃れちまっているようだがな、法術ってのは言ってみれば他者との間で結ぶ契約のことだな。魔術は個人で完結するものだが、法術は違う。さっきも言ったが法術は契約。契約ってのは双方で取り交わす約束事。その内容に不都合なものがあったとしても、それを上回る利点があり、かつ双方が納得すればそれは為される。ああ……その不都合なもののことを呪いって呼ぶ奴もいるな」


「なるほど、話が見えてきました。地上のドワーフたちに呪いをかけたのは、やはり貴方でしたか」


「人聞きの悪い言い方はよしてくれよ。双方同意の上での契約って言っただろう?」


「……何故、ドワーフたちと契約を?」


「あれは……百年前だったか? それとも千年前だったかな? 神は時間の感覚が曖昧だからな……まあ昔の話だ。昔、ドワーフたちがここにやってきた。そしてオレっちに助けを求めたんだ。ドワーフたちは他部族に滅ぼされそうになっていたみたいでな、オレっちに敵を討つ力を授けてくれって泣きついてきたんだ。オレっちは慈悲深い神だからよう、ドワーフたちに力を与えてやったのよう」


「それが契約ということですね?」


「そう、それが契約。勘違いして貰っちゃあ困るが、オレっちは切り分けた一部にすぎない。だから、本来のオレっちよりかなり力が落ちてる。それに二神の縛りもあるしな。とにかくオレっちがいくら神だからって、無条件、無制限に力を与えることはできない。力を求めるのなら、それ相応の代償が必要ってわけ」


「理解しました。では教えてください。ドワーフたちの代償とは?」


「ドワーフたちが敵を討ち、その暁に繁栄を遂げたのなら、ドワーフたちの末裔はオレっちの思うままに行動せよ。その約束事をドワーフたちは受け入れた」


 それを聞いてクロエは、目を鋭く光らせた。


「ニャるほど。じゃあやっぱり、アスガルズ王国のドワーフたちにイオニア連邦を攻めさせているのは―――」


「ああ、そうだ。オレっちさ」


「なんでニャ? なんでそんことをさせるニャ?」


「まあ待ってくれよ。そんなに殺気立たないでくれ。オレっちだって、好きでやらせてるわけじゃねえよ。本来なら、オレっちがここを出た時のための契約だったんだ。オレっちも本位じゃないのよ」


「どういうことニャ?」


「あいつだよ。オレっちを負かしたもう一人の神。そいつがオレっちに命令しやがったんだ。ドワーフたちにイオニア連邦を襲わせろってな」


 リリアナが尋ねる。


「それは何故?」


「知らねえよ! あいつの考えてることなんてオレっちには分からねえ。だけどオレっちはあいつの言う事を聞かないといけねえ。そういう縛りだからな」


「いくつ縛りがあるのですか? それを解除する方法は?」


「縛りはここから出られないことと、言う事を一つきくこと。後者の縛りは解かれた。もうドワーフたちに指令を与えたからな」


 ベリアルは一呼吸して続きを言う。


「それでだ。解除する方法だけどよ。オレっちに縛りを与えた神が、自ら縛りを解けば解決だ」


「それは……可能なのでしょうか?」


「まあ、難しいだろうな。まず奴がどこにいるか分からねえし、奴が縛りを解くとも思えねえ」


「他の方法は?」


「ああ。俺っちを殺せば縛りは解かれる」


 静寂が訪れた。


 ベリアル―――神を殺す。

 それは可能なのか。


 アルゴは考えを巡らせる。

 この距離なら、一太刀でベリアルの首を落とせるような気はする。

 だが、問題は二つ。

 一つはベリアルが神であること。

 人の身で神を殺すことができるのか。

 超越者を地上のちっぽけな存在がどうにかできるのか。

 甚だ疑問だった。


 もう一つは気持ちの問題。

 ベリアルは友好的な姿勢を見せている。

 試験はあったが、自らの正体と置かれた状況を丁寧に説明し、こうして食事まで用意してくれたのだ。

 悪人、もとい悪神とは思えない。

 どうしても殺害を躊躇ってしまう。


 バチン、と音が聞こえた。

 ベリアルが手を打った音だった。


「ヨーヨーッ。そんな辛気臭い顔すんなって。安心してくれよ、オレっちはキミらになら殺されてもいいと思っている」


 その発言に、アルゴは目を丸くして答えた。


「え、いいんですか?」


「ああ、いいぜ。実のところよ、オレっちはこの生活に飽き飽きしてたんだ。だけど神ってのは面倒な存在でな。自決を選ぶことも、他人にわざと殺されることもできない。これは神に元々備わっている縛りだな。自分とこの世界双方で取り交わされた縛りさ」


「えっと、他人にわざと殺されることもできないってことですけど、真剣勝負で殺されることはアリってことですか?」


「その通りだぜ。だから決闘だ。オレっち対キミらでな」


 その発言にアルゴたちの殺意と敵意が上がる。


 空気が冷えるような雰囲気の中、ベリアルは飽くまで友好的だった。


「まあ、慌てるなって。決闘は明日にしよう。今日はオレっちが飽きるまで話し相手になってくれよ。これが最期かもしれないんだ。なあ、それぐらいはいいだろう?」

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