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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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163.豪華な食卓

 城の内部は、全体的に落ち着いた雰囲気になっていた。

 装飾は少なく、言い方を変えれば地味とも言えるだろうか。

 この城の主がベリアルであることを考えると、それは意外に思えた。

 だが、壁に彫られたレリーフや所々に設置された石造だけは、強烈な存在感を放っていた。

 それらは全て、ベリアルを模したレリーフや石造だ。

 もしかすると、それらを目立たせるために、敢えて城の内部を質素にしているのかもしれない。

 と思わせる造りだった。


「趣味が悪いニャあ……」


 広い通路を歩きながら、クロエがそう呟いた。

 通路の両端には、約三メートルの間隔ごとにベリアルを模した石造が置かれている。

 芸術としての完成度は高いのかもしれないが、趣味が悪いという意見にアルゴは同意だった。


「手厳しいね、クロエちゃん! でも、そのうち良さが分かるようになるさ! なんたってオレっちは神だからねッ! 惚れちまわないように気をつけな!」


 クロエは隣を歩くアルゴに顔を向けた。


「この男、無性に腹が立つニャ。殴っていいかニャ?」


「ぼ、暴力はやめときましょう。一応、神様ってことですし……」


「その神様っていうのがまず疑わしいニャ。というか、こんなのが神様って絶対に嫌ニャンだけど」


「まあまあ……」


 アルゴは苦笑いをしながらクロエに返事をした。

 アルゴも内心ではベリアルのことを疑っている。

 確かにベリアルは、何らかの超越的な存在なのだろう。

 しかし、アルゴにとって神とは女神アンジェラのことをさす。


 女神アンジェラを祀るアッカディア教会の教えは大陸で広く伝わっており、アルゴもまたその教えを受けた者の一人だ。

 幼少のころ故郷の教会で洗礼を受けアルゴは、アッカディア教会の信徒である。

 アッカディア教会は一神教だ。信仰する神は女神アンジェラのみ。

 だが、大抵の者がそうであるように、アルゴは過激派には属しておらず、他の神、他の教義があることを認めている。

 だからアルゴは、ベリアルのことを神を騙る不敬者と罵ったりはしない。


 そんなことを考えながら歩いていると、ベリアルが足を止めた。

 ベリアルの前には両開きの扉があった。


 その扉が自動で開いていく。


 扉の先は広間となっていた。

 広間の中央には長机が置かれ、その上に豪華な食事が並べられている。


「ヨーッ! 腹減っているだろう? まずは食事だ!」


「よいのですか?」


 リリアナがそう尋ね、ベリアルは「勿論さ! 席についてくれ!」と勢いよく返した。


 リリアナは礼を述べて席に着いた。

 それを見てアルゴとクロエも着席する。


 机の上に並べられた料理の豪華さにアルゴは驚いた。

 牛肉や鶏肉の料理。海の幸の料理。色とりどりの野菜料理。

 黄金色に輝くスープ。香ばしい香りのするパン。瑞々しい果実。


 これだけの食材がどうしてこの砂の地にあるのか。

 アルゴは当然の疑問を持った。


「どうやって準備したのかっていう野暮な質問はよしてくれよお? オレっちは神だぜ? これぐらいは何てことないのさ」


「そう言うならクロエは訊かないニャ。けど、それでも訊かないといけないことがあるニャ」


「うん? なんだい?」


「この料理、本当に安全なのニャ?」


「ハ―――ハハハハッ! おいおい、クロエちゃん。オレっちが毒でも入れてると? よしてくれよ。毒なんて入れてねえ。神に誓っていいぜ」


「神が神に誓ってどうするニャ」


「ハッハアッ! いいツッコミだ! けど、マジで毒は入ってねえ。オレっちがキミらを殺すつもりなら、この城に招待なんてしてねえよ。そうだろう?」


「……まあ、一理あるニャ。こんな手の込んだことをする意味がないニャ」


 とクロエが言い終えたタイミングでリリアナが口を開いた。


「ベリアルさん。いまクロエさんが言った通り、貴方が私たちを害するつもりなら、このようなことをする理由がありません。それは理解できます。では貴方は何故、私たちをここへ招いたのですか? いい加減、はぐらかさずに教えて頂きたい」


「おいおい、それはここに来るまでにも言ったじゃねえか。オレっちはこの砂漠でずっと一人だぜ? 久々の来客とゆっくり会話をしたいってのは、そんなに変なことかい?」


「分かりました。では会話を始めてください」


「会話を始めてくださいって……会話を始める時に言う奴があるかい! やりづらくて敵わねえよ! それに、会話は食事をしながら楽しく―――」 


 とベリアルが言い掛けたところで、リリアナは牛肉に手を付けた。

 牛肉を刺したナイフを口元に運び、がぶっと嚙みついた。

 そして牛肉を頬張りながらリリアナは言う。


「これで、いいですか?」


「ハハハッ! いい食いっぷりだあ! イイネ! とってもイイよ!」


 アルゴは肉を咀嚼するリリアナの姿を見て、クロエに視線を移した。

 アルゴとクロエの視線が合う。

 二人は数秒間見つめ合ったあと、ほぼ同時に頷いた。


 アルゴとクロエは、リリアナを真似て料理に手を付け始めた。


 その様子を見て、ベリアルは満足げに笑う。


「ハ―――ハハッ! そんじゃ始めようか。楽しい会話ってやつをな!」

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