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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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161.砂上の戦闘

「はぁ……はぁ……ようやく、追いついたニャ……」


 砂の大地にて、クロエは息を整えながらそう呟いた。


 クロエの前方には白髪の女。

 その容姿は美女と言って差し支えない。

 だが、異様に白い肌と感情を失ったような表情が、この女が異質であることを物語っていた。


「人族……ですよね?」


 リリアナがそう尋ねるが、白髪の女は返事をしなかった。

 リリアナは、咳ばらいをして姿勢を正した。


「失礼。私はリリアナ・ラヴィチェスカ。私はこの通り魔族です。そして軍人で、魔族の盟主メガラ・エウクレイア様の臣下であります。このダンジョンには、ドワーフの王カストゥール・アスガルズの意を受けてやってきました。私たちに敵意はありません。どうかまずは、貴方のお名前を聞かせて頂けますか?」


 丁寧に呼びかけるリリアナだったが、それでも白髪の女は応えなかった。

 白髪の女は何もせず佇んでいる。


「え、えっと、もしかして喋れなかったりするのかニャ? もしそうだったら、文字で教えてくれるかニャ? クロエは読み書きできるから問題ないニャ。ほら、砂の上に何か書いてみて欲しいニャ」


 そのクロエの発言を聞いても白髪の女は動かない。


 どうすれば反応してくれるんだ。

 とアルゴが思った時だった。


 白髪の女は、しゃがみ込んで砂に指先を伸ばした。


 意外だった。

 まさかクロエの呼びかけに応じるとは。


 頼んだ本人のクロエも驚いていた。


「あ、ありがとニャ!」


 感謝を述べて、クロエは白髪の女の方へ足を進める。

 しかし、一歩踏み出したところで足を止めた。


「アルくん? どうしたニャ?」


 アルゴがクロエの右手を掴んでいた。


「クロエさん、構えてください」


「ニャ?」


 その瞬間、白髪の女は砂に手を突っ込み、勢いよく何かを引き抜いた。

 砂が飛び散ると同時に現れたのは、白髪の女の背丈よりも長い大剣。

 その大剣を白髪の女は構えた。


「ニャ!? 砂から大剣が出てきたニャ!?」


 純粋に驚くクロエとは違って、リリアナは戦意を見せた。

 リリアナはメイスを握り、静かに闘志を燃やす。


「どうやら、口で言っても分からないようですね。いいでしょう、分からせてあげます」


 白髪の女が戦う意志を見せている以上、それに応戦するのは当然。

 アルゴも戦うことには賛成だった。

 だが白髪の女を殺してしまっては駄目だ。

 白髪の女が貴重な情報を持っているかもしれないからだ。

 だからアルゴは、リリアナが白髪の女を殺してしまわないように注意を払うつもりだった。


 しかし次の瞬間、その考えを改めた。


 アルゴたちの周囲。砂の地面から立て続けに何かが現れた。


 現れたのは、白髪の女たち。

 全員美女だが、生気というものを感じられない。

 そして、全員武器を握っている。槍や剣や斧などだ。

 女の数は七。六人は近接武器。一人は長杖を所持している。


 白髪の女たちに囲まれてしまったアルゴたちは、武器を構えて視線を走らせる。


「クロエさん! リリアナさん! 殺す気でやらないと不味いと思います! ですが、できるだけ殺さないようにしましょう! 最低でも一人は生かしてください!」


「難しいけど、了解だニャ!」


「私も了解です。努力は……してみます」


 そして、戦闘が始まった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 白髪の女たちは強かった。

 全員が細身だが、武器を軽々と振るい、常識離れした速度で動き回っている。

 一瞬で間合いを詰められ、途轍もない速度で武器を振るってくる。

 力と速さ。両方を兼ね備えた強者たち。


 だが、クロエとリリアナは、それを凌ぐ強者だった。


 リリアナは、女たちの動きを見切っていた。

 女から繰り出される槍。

 その槍を盾で防ぎ、隙を突いてメイスを振るう。

 女が後ろに退いてメイスを躱した瞬間、リリアナは思いっきり踏み込んで盾を突き出した。

 盾が女の顔面に激突。

 女は弾け飛び、その勢いで砂の上を転がった。

 女は気絶したようで、それ以上動かなくなった。


 死んではないはずです。多分……。


 と心の中で思うリリアナ。

 それと同時に不思議に思った。

 盾を顔面に受けても女は呻き一つ漏らさなかった。

 たとえ喋れないのだとしても、息一つ漏らさないというのは異常だ。

 まるで、そういった機能が備わっていないかのような。

 そんな妙な考えが頭に浮かぶ。


 リリアナはそこで思考を切り替えた。

 背後から迫る大剣。

 女が振るうその大剣を、盾で受け止める。

 凄まじい威力にリリアナは顔をしかめる。


「何という威力ですか……」


 腕が痺れる感覚に、リリアナは驚愕する。

 だが、この程度なら対処は可能。

 全体の戦況を確認する余裕はある。

 リリアナは女と間合いを取りながら、周囲に目を向ける。


「ニャあ!」


 クロエが空を舞っていた。

 リリアナの目にはそう見えた。

 舞うように飛び跳ね、クロエは鎖を操る。

 鎖は、まるで命を与えられたかのような動きで女たちに襲い掛かる。


 縦横無尽に動く鎖が、女たちを嬲っていく。


「あれがクロエさんの技、ですか」


 クロエの技は、極まっていると言ってよかった。

 あの技は、長い時間をかけて積み上げられたものだ。

 それはクロエ個人だけで成されたものではない。

 何代にも渡って技を磨き、研ぎ澄まし、最適を追求した一つの完成系。


「素晴らしい……」


 リリアナは思わず見惚れてしまった。

 この時ばかりは、クロエに抱いていた負の感情は消え去っていた。


 あの様子なら心配不要ですね。


 リリアナは、女から繰り出される大剣を盾で受けながら、別の場所へを向ける。


 離れた位置にアルゴが居た。

 アルゴは二人の女を相手していた。

 斧を持った女と長杖を持った女だ。


 長杖から火球が放たれた。

 放たれた火球は五つ。


 アルゴは、駆けながら火球を躱す。

 火球が弾け、砂を大量に吹き飛ばす。


 舞い散る砂が周囲の空間を覆いつくし、アルゴの視界が遮られる。

 それでもアルゴは走り続けた。

 また火球が飛んでくる。足を止めてはいけない。


 舞い散る砂の切れ間から、斧が振り下ろされる。

 それをアルゴは横に跳ねて躱し、また走り出した。


 リリアナは大剣使いの女と戦いながら、アルゴの戦いを覗き見ていた。

 アルゴは敵の攻撃を避け続けている。

 アルゴは無傷。

 だが、リリアナは気付いていた。

 アルゴの動きが鈍い。

 いつものアルゴなら、もう勝負はついているはずだ。


 当然その理由は分かっている。

 脇腹の負傷だ。

 かなり痛むのだろう。そのせいで動きに精彩を欠いている。


 アルゴに怪我を負わした本人であるリリアナは、負い目を感じていた。


 あの時の私はどうかしていました。


 何故、自分を抑えることができなかったのか。

 自分への戒めと疑問が湧き上がる。


 いや、今はそれよりも。


「早く加勢に行かなければなりませんね」


 リリアナはそこでようやく、目の前の相手に意識を集中させた。


 目の前には大剣を振りかぶる女の姿。

 女は大剣を上段に構えて、勢いよく振り下ろした。


「終わりにしましょう」


 リリアナは、すでに大剣使いの動きを見切っていた。

 盾を突き出し、大剣を受ける構えを取った。

 しかし、盾と大剣が衝突する直前で、盾を斜めに構え直した。

 大剣を真正面から受けるのではなく、大剣の軌道を流すように斜めで受ける。


 力を逃がされ、大剣使いの体が前につんのめる。


「加減はします」


 隙だらけの大剣使いの脇腹にメイスを叩き込んだ。

 直撃し、大剣使いは吹き飛んだ。

 それでも大剣使いは即座に態勢を整えようとするが、顔面に盾をぶつけられ意識を消失。


「これでようやく」


 アルゴさんの加勢に回れます。


 そう思い、アルゴの様子を確認するが、リリアナは唖然とした。


 アルゴと戦っていた二人の白髪の女が、砂の上に転がっているではないか。

 驚くべきことに、戦いは終わっていた。

 アルゴが勝利したのだ。


「何という強さですか……」


 心の底から漏れる驚嘆の声。

 負傷した状態であれほどの強さを見せるアルゴに恐怖すら覚えた。


 気が付けば、クロエの戦いも終わっていた。

 砂の上に転がるのは七人。全員白髪の女だ。


「クロエさん! リリアナさん! 無事ですか!?」


 そう叫びながら駆け寄ってくるアルゴ。


「それはこちらの台詞ですよ……。いえ、まあいいでしょう。はい、無事です。負傷はありません」


「クロエも無事だニャ!」


「よかったです。それで、これからどうしましょう?」


 アルゴはそう言って砂の上で倒れている女たちを見た。


「そうだニャ。とりあえず、今の内にあの娘たちを拘束しておくニャ。それから、怪我をさせておいてニャンだけど、傷の手当てをしておくニャ。クロエたちが敵じゃニャいってことを証明しないと」


「はい、分かりまし―――」


 その時、突然地面が揺れた。

 大きな揺れ。


 それは地震ではなかった。


 アルゴたちから少し離れた位置。

 その場所で砂が弾けとんだ。

 まるで爆発でも起きたかのような衝撃。


 砂を大量に巻き上げなら、ソレは砂の中から現れた。


 ソレは巨大な生物。

 砂と同化するような砂色の肌。

 手足はなく、全身を分厚い皮膚と筋肉で覆われている。

 全長約十メートル。ミミズ型の魔物。


「サンドワーム!?」


 クロエがそう叫んだ。

 それを聞いてアルゴは、この魔物の名称を知った。


 このダンジョンで初めて現れた魔物。

 砂地に巣くう魔物。サンドワーム。


 なんでこのタイミングで!


 そう歯噛みするアルゴだったが、同時に気付いた。


 サンドワームには、こちらに襲い掛かってくる様子は見られない。

 そして、巨体のサンドワームの上に誰かが居た。


 その人物は人族だった。

 人族の若い男だ。

 少なくともアルゴの目にはそう見えた。


 その人物は右の人差し指を天に翳し、白い歯を見せて言った。


「イヤ―――ッホ―――ッ! テメエら! ノッテルか―――い!?」


「は?」


 アルゴは理解が追いつかなかった。

 何だこの人物は。あまりにも場違い。あまりにも常識外。


「理解不能……であります」


 リリアナの独り言が聞こえた。

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