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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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158.空に昇る印

 果てしなく続く砂の大地にて、アルゴは言葉を続ける。


「クロエさん……リリアナさんは悪い人じゃありませんよ。さっきのはあれは本心じゃないはずです。だから、戻ったら冷静に話し合いましょう」


 クロエは返事をせずに黙々と歩き続ける。


 この場にリリアナは居ない。

 リリアナとは別行動だ。


「ク、クロエさん、聞いてください。俺たちは協力する必要があるんです。ですから、リリアナさんと―――」


「あの女の話はしないで」


 ピシャリと言い放つクロエ。

 有無を言わせないクロエの姿勢に、アルゴは頭を抱える。


 まずい。かなりまずい状況だ。


 クロエとリリアナの間に、深い亀裂が入ってしまった。

 それは、深く刻まれた傷痕。元通りに修復するのは難しいだろう。


 それでも、このままにしておく訳にはいかない。

 だからアルゴは説得を続ける。


「クロエさん……リリアナさんは……」


 クロエの背中を見つめながら、アルゴは言葉を止めた。止めてしまった。

 言うべきことが見つからなかったから。

 何を言うべきか分からなかったから。


 俺は……駄目だな……。俺がしっかりしないと駄目なのに。俺は……。


「アルくん」


「……?」


「ごめんニャ」


「お、俺の方こそ、すみません。こうなる前に、二人を止めることができなかった……」


 クロエは首を横に振って答える。


「アルくんは悪くないニャ。クロエも分かってるニャ。さっきのは多分、六対四ぐらいでクロエが悪いニャ。ちょっと突っかかりすぎたって自覚はあるニャ……」


「な、なら大丈夫ですよ! その気持ちがあれば、仲直りできるはず―――」


「でも無理! あの女だけは、絶対に―――無理!」


「……」


 だけどそれでは、ダンジョン攻略は不可能だ。

 三人で協力しなければ、この難局を乗り越えることはできない。


 と、アルゴは言おうとした。

 だが、それを口にできなかった。

 当たり前のことを言って何になる。

 それではクロエには響かない。


「心配しなくても大丈夫ニャ。クロエとアルくんが力を合わせれば、必ず攻略できるニャ」


「ですが……」


「クロエ頑張るニャ。精一杯頑張るから、アルくんは安心してニャ」


 クロエにそう言われては、もう何も言う事ができない。

 実際、クロエとリリアナの関係修復に力を注ぐより、クロエとの絆をより強固にした方がいいのかもしれない。

 そう思ってしまった。


「は、はい……」


 と力なく返事をした時、爆発音が響き渡った。

 続けて空に火の玉が打ち上がり、最も高い位置で弾けた。


 リリアナの魔術だった。

 クロエと仲違いしたリリアナだが、それでも決まり事を守っている。

 あれは印だ。

 自分は無事だ、とリリアナは言っているのだ。


 こんな状況にあっても律儀に決まり事を守るリリアナ。

 それはリリアナの良いところだ。

 生真面目で規則を重んじる性格。

 多少頑固なところはあるが、決して悪人ではない。


 だからアルゴは、リリアナのことが嫌いになれなかった。

 例え嫌われていたとしても。殺意を向けられるほど憎まれているとしても。その気持ちが変わることはない。


 再び打ち上がる火の玉を見つめながら、アルゴはそう思った。

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