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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第五章

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147.幹部室にて

 ガリア砦には、休息部屋が存在する。

 その部屋は大部屋となっており、いくつものベッドが置かれている部屋だ。

 休息部屋を使用するのは勿論兵士たちだが、軍の幹部がその部屋を使用することはない。

 軍の幹部には、個室が与えられているからだ。

 広くはないが家具は一通り揃っており、それなりに快適といえる空間となっている。


 その軍の幹部室にて。


「……というわけだ。行ってくれるか? アルゴよ」


 メガラがそう問い掛け、アルゴは即答する


「分かった」


「……」


「どうしたの?」


「いや、頼んどいてなんだが……」


「うん?」


「十分に気を付けるのだぞ。決して……死ぬな」


「問題ない」


「……心配は無用か」


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。メガラが死ぬなと言うのなら、俺は死なない」


 それを聞いてメガラは、肩の力を抜いた。


「……流石だな」


「うん」


「感謝するぞ、アルゴ。……では、もう一度おさらいだ。このガリア砦から北に約十二キロ地点に、ドワーフの砦、ネメレナ砦がある。ネメレナ砦は、堅牢な要塞。混成軍が大攻勢を仕掛けたが、ネメレナ砦を落とすことはかなわず。それに対しこちらのガリア砦は脆い。奴らに攻め込まれれば瓦解してしまうだろう」


「だから混成軍は、ガリア砦北側の平地でドワーフの軍を抑え込んでるんだよね?」


「そうだ。このガリア砦は、食料庫と武器庫の機能を持つ。それと、傷ついた兵の治療施設だな。いま平地での戦いは、一進一退の攻防が続いている。お互い数を減らしながら、あるいは兵を温存しながら、両軍削り合っている状態だ」


「今は均衡を保っているけど……このままいけば不味い?」


「不味い。やがて訪れる寒波は、我らに不都合をもたらす。この地に雪が降り、イオニア連邦から供給される兵站や兵の増援は滞るだろう。そうなれば、持久戦では勝機は薄い」


「でも……それはドワーフ軍も同じじゃない?」


「いや、同じではない。ネメレナ砦の北側にはイオニア山脈があるのだが、ドワーフの王国は、そのイオニア山脈の内部に存在する。奴らは山脈に穴を掘り、大規模な洞窟を人工的に造り出しているのだ。その場所こそが、奴らの住処だ」


「えっと、そのドワーフの王国の名は……」


「アスガルズ王国」


「そうだ……アスガルズ王国。それで……えっと何だっけ?」


「ああ、話を戻そう。ドワーフたちの技術力は、我らの上をいく。ネメレナ砦への物資は、アスガルズ王国から供給されるわけだが、奴らは雪が降っても、街道に雪が積もらぬ方法を確立している。その技術によって環境に影響されることなく、ネメレナ砦に物資が供給され続ける」


「え、なにそれ? 雪が積もらない方法って?」


「街道に熱を発する装置を設置して、雪が積もらぬようにしているようだ」


「そんなことが……」


「ああ。そのような技術力は我らにはない。その装置の原理も不明だ。つまり、このままでは負ける。だから何とかせねばならんのだ」


「うん、分かった。だから、和睦が必要ってことだね。でも、向こうがこっちの言うことを聞いてくれるかな? 勝てる戦いなのに、和睦なんて結ぶだろうか?」


「そうだな。奴らは勝つつもりだ。現に、和睦の使者は殺されてしまった。それは、最後まで戦うという奴らの強い意志だ。だが、よく考えねばならん。ドワーフたちは、これまで他国には干渉せず、大陸の覇権にも興味を示さなかった。だというのに、ここに来て大軍を動かしてきた。何か理由があるはずだ。その理由を聞き出す必要がある。そして、打開策を探すのだ。必ず……策があるはずなのだ」


「なるほど。じゃあ、俺は彼らから話を聞けばいいんだね」


「そうだな。お前には和睦の使者というよりは、余と奴らを繋ぐ使いになってもらいたい。余は奴らの王と話をしたい。そのための架け橋になってくれ」


「了解。やってみるよ」


「……すまぬな。余もお前と共に行きたいところだが……兵たちはそれを許さぬだろう。全軍突貫のヴェラトス砦の時とは状況が異なっているのだ……」


「うん。分かってる。メガラはここに居てくれ。俺を……信じてくれ」


「……」


「メガラ?」


「見違えたな、アルゴ。初めて会った時、頼りない子供だなと思ったものだが。今やお前は……立派な騎士だ」


「そう……かな?」


「ああ。頼もしいぞ」


「……ありがとう」


 礼を述べた途端、照れ臭くなってアルゴは目を反らした。


 その時だった。


 ドンドン、とこの部屋の扉が叩かれた。


「盟主様! 入室許可をお願いします!」


 若い女の声だった。


 メガラは返事をする。


「入れ!」


「はッ! 失礼します!」


 女は怒鳴るような勢いで返事し、部屋に入ってきた。


 その女は、魔族の女だった。魔族の特徴であるツノが頭部から二本生えている。

 歳は若い。髪は淡い紅色。腰まで届きそうな長い髪は、美しい織物のようであった。

 間違いなく美人だが、固い表情がどこか近寄りがたい印象を抱かせる。


「アルゴ、紹介しよう。この者の名は、リリアナ・ラヴィチェスカ。軍人だ。若いが相当優秀らしい。この者もお前と同じく使者だ」


「この人も?」


「そうだ。リリアナ本人の強い要望でな。この砦の兵士を使者とするつもりはなかったのだが……本人がどうしてもと言って聞かんのだ。だから、お前と共に行ってもらうことになった。で、いいのだな? リリアナ」


 リリアナは、メガラの前で跪いた。


「はッ! 盟主様の温情、深く感謝いたします! このリリアナ、必ずやお役に立ってみせます!」


「う、うむ。頼むぞ……」


 リリアナの強い圧に、メガラは若干気圧されてしまう。


 リリアナは、立ち上がってアルゴの方へ体を向けた。


「人族の少年……アルゴ」


「あ、は、はい。アルゴです。よろしくお願いします」


 躊躇いがちに言うアルゴに、リリアナは強い口調で返す。


「任務を達成するため、私は君と協調します。ですが、勘違いしないでください。私は、人族と必要以上に慣れ合うつもりはありません。これは君が悪い訳ではなく、君からすれば理不尽だと思います。それでも、はっきりと言いましょう。私は、人族が心底嫌いなのです」


 アルゴはリリアナから視線を外し、メガラの顔を見た。


 この娘は、一筋縄ではいかん。

 上手くやってくれ。


 と、そんな風にメガラが言ってるような気がした。

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