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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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139.邪悪なもの

 湿原を進み、ダンジョンの出口へと辿り着いた。

 出口は、天井まで届く高さの岩山にあった。

 岩山にぽっかりと空いた穴が出口だ。


 その出口は、ダンジョンへの入り口でもある。

 つまりアルゴたちは、ダンジョン最初の地点に戻ってきたということだ。


「さて、ここからだな」


 出口を見つめながらメガラがそう呟いた。


 出口の先はヴェラトス砦に続いているが、砦がどんな状態になっているかは想像できる。

 ヴェラトス砦に攻め入った魔族軍は命を懸けて戦ったが、相手との兵力が違いすぎる。

 ヴェラトス砦を落とすことは難しいだろう。


 よって、ヴェラトス砦は依然として敵地だ。

 その敵地に、この少人数で踏み込むのは自殺行為といえよう。


「この先は敵地だ。当然だが、我々だけで砦を制圧することは難しいだろう。ゆえに、戦うことを考えるな。戦うのは必要最低限に努め、砦から脱出することを優先しろ」


「御意に」


「了解ニャ」


「分かった」


 と各々返事をした。


「アルゴ、お前はお前自身の命とカーミラを守るのだ」


 カーミラに戦う力はない。

 誰かが守らなければ、立ちどころに命を落としてしまうだろう。


「うん、任せて。あの、俺から離れないでください……カーミラさん」


「え、ええ……」


 カーミラは、少し困惑の表情を浮かべながら返事をした。


「……よし。いくぞ」


 アルゴたちは進みだした。

 岩山に空いた穴を通過し、奥にある階段を上る。


 そして、巨大な猿エンヒと戦った広間へと到着。

 そこにエンヒの死体はなかった。兵士たちが処分したのだろうか。

 アルゴはそのことを疑問に思いながら、神経を研ぎ澄ませながら地上へと続く階段を上る。


 階段を上りながら、アルゴは不思議に思った。


 静かすぎる。


 砦の静かさは異質だった。

 ここは地下だ。地下に人気はなく、それは当然といえば当然。


 しかし何故か、アルゴは異質なものを感じた。


 階段を上り切り地上へ到着。

 相変わらず人気はない。

 ここは中央塔一層の広間。一人ぐらい兵士がいてもいいはずだが、誰もいなかった。


「なんだ? どうなっている?」


「盟主様、私が外の様子を確認します。ここでお待ちください」


 異常を感じ取ったネロは、広間の先の扉を見つめてそう言った。


「いや、全員でいくぞ」


「ですが」


 メガラは永久の杖を翳して言う。


「開口一番、余が魔術を放つ。その隙に脱出するぞ」


 ネロは少し悩んだ末に返事をする。


「承知しました」


 そして、全員で扉へと近付いた。

 アルゴとネロの二人で扉を開ける。


 扉の解放と同時に光が入ってくる。


 メガラは、早速魔術を放とうとした。


 だが、それを止めた。


 扉の先は広場となっている。

 その広場には、大勢の兵士たちがいた。


 そして驚くことに、その者たちはアルテメデス帝国の兵士たちではなかった。


 その者たちは、魔族だった。

 魔族の数は千を超える。


 千を超える魔族たちが隊列を組んでいた。

 魔族たちは動かない。

 微動だにしないその魔族たちの姿は、まるで何者かの命令を受けてそうしているようだった。


 メガラは魔族たちの方へ歩き出した。

 ゆっくりと、だが速度を落とさずに前へ進む。


 不動を維持する魔族たちに変化が訪れた。

 魔族たちが一斉に動き出したのだ。

 正確かつ規則正しい動きで、よく訓練されていることが見て取れる。


 再び魔族たちが静止した時、道ができていた。

 それは、人が三人ほど並んで歩ける幅の道。

 道の両脇には不動の魔族たち。


 魔族たちが作った道をメガラは進む。

 歩き続け、やがて止まった。


 そして、メガラは口を開いた。


「また同じことを言わせるか。この演出は何だ? ミレト」


 メガラの目の前には、ミレト・ガラテイアが立っていた。


 ミレトは、艶のある笑みを浮かべて言葉を返した。


「不服かえ? 気難しいことじゃ、盟主様は」


「これはどういう状況だ? この魔族たちは何だ?」


「フフフッ。盟主様が死んでいる間に、様々仕掛けていたということじゃ」


「いいから答えろ。この状況を説明しろ」


 ミレトは扇子を扇ぎながら、やれやれと首を振る。


「見たままじゃ。この砦は落とした。妾の軍によって」


「軍だと? どこにこれだけの兵士を隠していた? イオニア連邦から引っ張ってきたと?」


「まあまあ、盟主様。まずは喜びましょうぞ。見事、アレキサンダーを討ったことを」


「……なるほどな。眷属を通じ、我々のことを見ていたか」


「ええ、見ておりましたとも。素晴らしいご活躍でありんした」


「洞窟にサラマンダーを突っ込ませたのはお前か?」


「フフッ。確かに、眷属を使ってサラマンダーを洞窟内へと誘導したのは妾じゃ。けど、気にせんでくださいましね。主を助けるのは、臣下として当然のこと」


「ふん、どの口が。だがまあ、助かったのは事実だ。それに関しては礼を言おう」


「フフフッ。有難きお言葉」


「で、この者たちは何だ? いい加減に答えろ」


「盟主様、取引を致しません?」


「取引?」


「この兵士たちは、パルテネイア聖国で集めた者たちじゃ。かの国には、アルテメデス帝国を脅威に思っている者たちが大勢いるのでなあ」


「パルテネイア聖国……。アッカディア教会の総本山か。いつの間にお前は……」


「盟主様、取引の話じゃ」


「言ってみろ」


 ミレトは一つ頷いて答える。


「この兵士たちは、よく鍛えられた強者たち。この者たちを全て盟主様に差し上げましょう」


「なんだと?」


「その代わり、ソレを妾にくださいな」


 ミレトは指でソレを指し示した。


 指の先には、メガラの背後で控えるアルゴの姿。

 つまりソレとは、アルゴのことだった。


 ミレトは眷属を通じ、アルゴの戦いを見ていた。

 そして理解した。アルゴの価値を。


 突然の指名に戸惑うアルゴ。


 メガラは少しも悩まなかった。


「断る」


「千の強者と引き換えでも?」


「答えは変わらん」


「そう……でありんすか。まこと―――残念じゃ」


 ミレトは右手を上げた。

 それを合図に、兵士たちは武器を取った。

 数多の武器がメガラに向けられる。


 これは、主に対する明確な反逆。


 アルゴ、クロエ、ネロは、戸惑いつつも戦闘態勢を取った。


「な、なんでこうなるニャ!」


「し、しかし、何もせず死ぬわけにはいきません!」


 クロエとネロがそう叫んだ。


 アルゴは叫びこそしなかったが、険しい表情を見せた。

 流石に数が多すぎる。この人数を相手にするのは無理だ。


 アルゴたちは危機的な状況にあった。


 せっかくアレキサンダーを倒したと言うのに、何故こうなる。

 何故、仲間割れが起こってしまう。


 アルゴがそう思った時だった。


「フフッ」


 ミレトは薄く笑みを浮かべ、右手を下ろした。

 それを合図に兵士たちは武器を収めた。


「お前……何のつもりだ?」


 メガラの鋭い視線を受け流すように、ミレトは扇子を扇ぎながら言う。


「冗談じゃ。そう怖い顔せんでくださいまし」


「ふざけているのか?」


「本気の方がよかったかえ?」


 メガラは、周囲の兵士たちに視線を走らせて言葉を返す。


「……この件、覚えておくからな」


「あら、怖い怖い」


 ミレトは茶化すようにそう言って歩き出した。

 ゆっくりとアルゴの方へ近づく。

 そして、アルゴの耳元で囁くように言う。


「坊や。心変わりがあれば、いつでも妾に言うのじゃぞ? きっと―――いい思いができるはずじゃ」


 艶めかしく言うミレトの瞳は、獲物を捉えた蛇のようであった。


 アルゴは何も反応しなかった。

 メガラを裏切ることなどありえない。


 そのアルゴの様子を見てミレトは軽く息を吐くと、また歩き出した。


「さあ、盟主様とその従者たち。ささやかながら祝いの席を設けております。どうぞ、こちらへ」


 アルゴはミレトの後ろ姿を見ていた。

 このままついて行ってよいのだろうか。


 固まるアルゴ。その時、メガラが声が聞こえた。


「いいだろう。行ってやろうではないか」


 メガラは歩き出し、アルゴたちに言う。


「お前たち、行くぞ」


 メガラにそう言われて、アルゴたちは覚悟を決める。

 アルゴたちは歩き出した。


 ミレトは後ろを覗いてアルゴたちの様子確認すると、薄く笑みを浮かべた。


「フフフッ。そう固くなる必要はありんせん。妾は本当に祝いたいのじゃ。なぜなら帝国は大将軍を二人も失った。いま、盤面が引っ繰り返ろうとしている。だから今日は、食べ、飲み、存分に祝いましょうぞ。そうじゃろう? 盟主様」


 そう述べると、ミレトは笑い声を響かせた。


「アハハハハハッ! 今日は、まこと良い気分じゃ!」


 それは、心から溢れ出した確かな気持ち。

 しかしそれは、純粋ではあったが、黒い色を湛えていた。


 アルゴにはそれは、邪悪な物のように見えた。

これで四章は終わりです。ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブックマーク、高評価よろしくお願いします。

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