表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/250

137.崩壊

 ソレは、メガラが声を上げた直後に現れた。

 ソレは、どこまでも黒く、一切の光が排除された深い闇。


 その闇が溶岩を覆い隠していた。


 その後、さらに変化が起きた。

 闇が一瞬にして収縮。

 闇は拳ほどの大きさとなり、その後、完全に消え去った。


 闇が消えると同時に、溶岩も消え失せた。

 残ったのは、円型に窪んだ岩の地面のみ。


「す、すごい……」


 アルゴはそう呟き、空中で器用に体を捻った。

 その捻りを活かし、回転しながら空中を移動。

 そして、洞窟外縁の岩場のスロープに着地。


 アルゴは岩場のスロープの上に立ち、改めて真下を覗き見た。

 溶岩が跡形もなく消え失せている。


 なんと恐ろしい力か。

 一瞬にして物質を消し去る奇跡の術。

 これを為したのは、永久の魔女メガラ・エウクレイアだ。


 この奇跡をメガラは永久の結界と言ってた。

 これこそが、永久の魔女の真髄か。

 アルゴはメガラの凄さを実感するが、ハッと思い出した。


「アレキサンダーはどうなった!?」


 アルゴは上に視線を向けた。


 アレキサンダーは、岩場のスロープの最も高い位置に居た。

 その位置からアルゴたちを見下ろしていた。

 溶岩は消え失せた。だというのに、アレキサンダーはまだ存在している。


 アレキサンダーを討つことに失敗したのだと、アルゴは思った。

 だが、それは間違いだった。


 アレキサンダーの体が崩れ始めていた。

 アレキサンダーは自身の掌を見つめた。


「どうやら、ここまでのようだな」


 アレキサンダーの指先が消失していた。

 紙が灰と化すように、肉体が塵となって消えていく。

 指先から掌、掌から手首、手首から上腕へと。

 アレキサンダーの肉体が消えていく。


 アレキサンダーは虚空を見つめた。


「しかし、もうすぐ消え失せるというのに何も感じんな。フフッ。やはり某は、どこまでいっても空の躯か。ああ……だがしかし……」


 だがしかし、一つだけ心残りがあった。


「陛下、先に逝くことをお許しください。陛下に……勝利を」


 そう言ったのち、アレキサンダーはこの世から消え失せた。


 アルゴはアレキサンダーの最期を見届けた。

 最後まで油断できないという理由もあるが、何故だがアレキサンダーから目が離せなかった。

 それは、蝋燭の火が消えゆくような、どこか儚い光景だった。


「待て、今はそんなことより―――」


 アルゴは首をブンブンと振って気持ちを切り替えた。


「メガラ!」


 アルゴは岩場のスロープを下り、慌ててメガラへと駆け寄った。


 メガラは額に汗を滲ませ、苦し気な表情で片膝をついていた。


「アルゴ……無事か?」


「お、俺は大丈夫。メガラこそ大丈夫なの!?」


「案ずるな。問題はない。少し疲れただけだ」


 そう言ってメガラは立ち上がる。


「それよりも、クロエとネロだ」


 クロエとネロは、今アルゴたちがいる場所よりもさらに下層で戦っている。

 いや、戦いは終わった。溶岩が消失すると同時に、骸骨たちは塵と化した。


「クロエさん! ネロさん!」


 アルゴは急いでクロエとネロに近付いた。


「ア、アルくん……クロエ、頑張った……ニャ」


 クロエは仰向けに倒れていた。

 アルゴはクロエの容態を心配するが、クロエが右拳を天井に突き上げる様子を見て少し安堵する。

 どうやら命に別状はないようだ。見たところ、大怪我を負っているわけでもない。


 クロエの無事を確認したアルゴは、次にネロの元に急いだ。


「ネロさん! 無事ですか!?」


 ネロは地面に座り込んでいた。


「ハハ……どうやら、死に損なってしまったようだ。まったく……恰好がつかないな」


「よかった……無事で……」


「私のことを心配してくれるのか?」


「はい。勿論」


「私は君に不審なところがあれば、君を殺すと宣言したんだぞ?」


「それはありがたいです」


「フッ……フフフッ……君は、本当におもしろいな」


 何がそんなに可笑しいのか。

 とアルゴが尋ねようとした時、メガラの声が聞こえた。


「お前たち、よくやった。この勝利は、全員で掴んだものだ」


 そのメガラの言葉を聞いて、全員の顔に笑顔が浮かぶ。

 一人も犠牲にならず、大将軍を討ちとることができた。

 大勝利と言っていいだろう。


「だがお前たち、もう少し手を貸して欲しい。ここに連れてこられた魔族たちが、レイネシアの母親以外にもいるはずだ。探すのを手伝って欲しい」


「ごめんメガちゃん。クロエはしばらく動けないニャ……」


「盟主様……申し訳ありません。私も同じく……」


「そうか……。わかった。クロエとネロはそこで休んでいろ」


 メガラはそう言ってアルゴに顔を向けた。


「俺は問題ない。勿論、手伝うよ」


「助かる。だがその前に―――」


 メガラはスロープの上で眠るレイネシアの母親に目を向けた。

 それからメガラは歩き出し、レイネシアの母親に近付いた。


「脈は……あるな。深く眠っているようだ。強力な眠り薬を使われたのだろう」


「いつ目を覚ますのかな?」


「分からん。だが、無理に起こさないほうがいいかもしれん。大きな怪我はないようだが……とりあえず治療をしておこう」


 メガラは、永久の杖の先端をレイネシアの母親に向けてヒールを発動した。

 優しい光がレイネシアの母親を包み込む。


「じゃあ、俺はその間にこの洞窟を調べてみるね」


「うむ。よろしく頼む」


 アルゴはメガラに背を向けて歩き出した。

 手始めに入り口付近の壁を調べてみよう。

 と思ったが、アルゴは途中で歩みを止めた。


 そのアルゴの行動を不審に思ったメガラは、アルゴの背中に向かって問い掛ける。


「どうした?」


「メガラ……まずいかも」


「なに?」


「この洞窟が……」


「この洞窟が?」


 そう問い掛けた時、メガラも気付いた。


 パラパラと石の粒が頭上から降ってきた。

 周囲をよく見れば、岩の壁にヒビが入っている。


「まさか、この洞窟が……崩れようとしている?」


 それは溶岩が消え失せた影響か、はたまたアレキサンダーがこの世界から消えたためか。

 理由は分からないが、洞窟が崩壊しようとしていることは間違いなかった。


「メガラ、どうする?」


 メガラは、アルゴから視線を外してレイネシアの母親を見つめた。

 その後、クロエとネロに目を向ける。


 メガラは拳を強く握りしめた。


「仕方があるまい。ここから撤退するぞ」


「分かった」


 アルゴはすぐに動いた。

 動けないクロエとネロの元に近付いて、撤退する旨を伝える。


「わ、分かったニャ。アルくん、悪いけど肩をかしてくれるかニャ?」


「はい」


 クロエがアルゴの肩を借りて立ち上がった時、異常事態が発生した。


 大きな揺れ。

 岩壁の亀裂が広がり、上空から岩が降り注ぐ。


「ま、まずいニャ。急がないと。ネロりん、立てるニャ?」


「……」


「ネロりん?」


「私は……」


 ネロは自分の右膝をさすっていた。

 どうやら怪我をしているようだ。


「私はここまで、ということでしょう。どうか、私のことは捨て置いて―――」


 アルゴは一旦クロエを寝かせてネロに近付くと、しゃがみ込んでネロに背を向けた。


「乗ってください。俺がネロさんを背負います」


「駄目だ。クロエ殿はどうする? あの女性は誰が運ぶ? 君は私を助けるべきではない」


「俺が全員運びます! 俺ならできます!」


「不可能だ」


 ネロの指摘通り、確かにそれは不可能といっていい。

 アルゴは怪力でなない。三人を運ぶことはできない。


 クロエはどうにか一人で動けそうだ。

 だが、ネロとレイネシアの母親は一人では動けない。

 誰かが運ばなければならない。

 その役目は、力の弱いメガラと負傷したクロエには無理だ。

 ゆえに、アルゴは選ばなければならない。

 ネロかレイネシアの母親か。どちらを助けるのかを。


 アルゴが迷っている間に、洞窟の崩壊が加速する。

 もう時間がない。


 メガラも悩んでいた。

 親指を噛みしめて思考を続ける。

 全員を助け出すことはできない。

 だが、選べない。どうしても選ぶことができなかった。


「くそっ。なにか、なにか策はないのか―――」


 その時、メガラは確かに聞いた。

 足音。それは人の足音ではない。

 ドタドタと地面を叩くような音。


 大きな生物が近付いてくる。


「あれは―――」


 その生物は、全身を赤い鱗で覆われた巨大な蜥蜴。

 サラマンダーだった。

 野生のサラマンダーが近付いてくる。


「いや、違う。あれは、あのサラマンダーは」


 サラマンダーの背には鞍が備え付けられてあった。

 であるならば野生ではない。

 しかも、その鞍には見覚えがあった。


 この洞窟を守護していたアルテメデス帝国の兵士たち。

 その兵士たちが騎乗していたサラマンダーだ。


 なぜ、そのサラマンダーこちらに向かって駆けてくるのか。

 分からないが、これは幸運と言うほかない。


「アルゴ! あのサラマンダーを捕まえるのだ! あれに乗り込むぞ!」


 アルゴはサラマンダーを目で捉えた。


「了解!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ