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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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135.死守

 燃え盛る人骨。

 皮膚も肉もない人の骨。

 骸骨が独りでに動くなどありえない。


 だが実際に、骸骨たちは己の足で歩行を続けている。


「うニャ!」


 と掛け声を上げ、クロエは鎖を振り回した。

 鎖が鞭のようにしなり、目標へと迫る。

 鎖の先端に装着された分銅が頭骨を砕いた。


 乾いた音を立て、頭骨がバラバラと地面へと散らばる。

 骸骨は頭部を失うが、それでも倒れない。

 頭部を失ってもなお歩行を続ける。


 骸骨の歩行速度は速くない。

 反応も鈍い。骸骨に攻撃を当てることは容易い。


 それでも、クロエとネロの表情に余裕は見られない。


 骸骨は十分に脅威と言える。

 その理由は三つ。


 一つ目は骸骨の数。

 ざっと数えただけで百は超える。

 しかも、その数は今も増え続けている。

 溶岩から新たな骸骨が這い出し続ける。


 二つ目は骸骨が全身に纏う炎。

 骸骨との距離感を間違えれば、たちまち炎に燃やされてしまうだろう。

 その灼熱の炎は骸骨の武器であり盾。

 骸骨に近接することは難しく、逆に骸骨は標的に近付くだけでいい。


 三つ目は骸骨の再生力。

 骸骨は自身の骨を再生させることが可能。

 砕けた頭骨の破片が塵になり消え去ったかと思いきや、次の瞬間には首の骨の上に骨粉が現れ、再構築を始めた。

 時が巻き戻っているかのような奇妙な光景であった。


 骸骨を迎え撃つのはクロエとネロの二人。

 クロエとネロは並の強さではないが、たった二人だけで骸骨の大群を捌くのは限界がある。


 クロエが鎖を薙ぎ、ネロが二本の剣を振る。

 前線の骸骨たちを破壊していくが、骸骨たちの波は途絶えない。

 クロエとネロはジリジリと後ろに追いやられていく。


「骸骨どもめ……」


 ネロは骸骨を睨みつけ、それから後ろを覗き見た。

 後ろには、目を閉じて精神を集中するメガラの姿。


 なんとしても、ここは死守しなければならない。


 ネロの体から大量の汗が流れていた。

 それも当然。溶岩と骸骨が纏う炎の熱さは尋常ではない。

 過酷な環境での戦いは、精神への負担も大きい。


 あとどれだけ耐えればいい。ネロには分からない。

 だがネロは、焦燥を感じていなかった。


 ブラウロン家は武の家系だ。

 その家に生まれたネロは、幼い頃より教え込まれていた。

 戦場で武功をあげなさい。より多くの首級をあげなさい。


 ネロは見てきた。

 戦場で華々しい功績をあげる者たちを。

 ネロはその姿に憧れた。そうありたいと願い、それに見合うだけの修練を重ねてきた。


 しかし、ある時に気付いた。

 自分には十人並みの才しかないと。


 先代当主アトロン・ブラウロンの輝かしい功績と比べれば、自分のあげた戦果など無いものに等しい。


 アトロンは凄まじかった。ひとたび戦場に出れば、無双の戦士と化して敵を屠り続ける。

 それはまさに、物語で語られる英雄の如き姿。


 アトロンだけではない。ネロは英傑たちを見てきた。

 その綺羅星のような存在を前に、ネロは己の小ささを知った。


 だというのに、何の巡り合わせだろうか。自分は今、ブラウロン家の当主の座に就いている。

 分不相応だと思った。

 アルゴに言った通り、自分は繰り上がりで空いた席に座っているだけの凡夫だ。


 そこまで考えて、ネロはニヤリと笑った。

 アルゴの言葉を思い出したのだ。


 アルゴは言った。

 才能がないと駄目なんですか? 


 ネロは笑みを浮かべながら独り言を吐いた。


「駄目だろう」


 駄目だと誰が決めたんですか?


「さあな」


 すべて自分で決まればいいと思います。

 だってあなたは、奴隷ではないのですから。


「……かもな」


 ネロは息を吐いて、目の前の骸骨の集団を見据えた。


「そうだな。どうするかは……私が決める。ここが……私の死に場所だ」


 ネロはここで己の命を燃やし尽くす覚悟だった。

 これまで華々しい功績をあげることはできなかった。

 それは、才能のない自分には無理なのだろう。


 しかし、ここで骸骨どもを食い止めることができたのなら、それは大きな武功となろう。

 アレキサンダーを討つ一助になれたのなら、これに勝る功績はない。


 だからネロは覚悟を決めた。

 だからネロは自分で決めた。


「かかってこい骸骨ども! このネロ・ブラウロンが冥途におくってやる!」


 ここを死に場所と定めたネロは、己の命を燃やし始めた。

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