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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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127.湿原の魔物

 その魔物は、巨大な魚だった。

 体高約三メートル。全長約六メートル。


 生物としての常識を無視した巨体。

 その魚の特徴は、顎と口周りから伸びる長いヒゲ。

 そして、平べったい体型。


 地上では殆ど見かけることのない淡水魚。ナマズ。

 今、アルゴたちの行く手を阻むのは、ナマズの姿をした魔物だった。


 ナマズの魔物は、平らな腹をくねらせながら湿原を滑るように移動する。

 巨体が動く様は、岩が滑っているようだった。


 アルゴ、クロエ、ネロは、魔物に向かって湿原を駆ける。


 魔物は接近する三人の姿を確認し、迎撃に打って出る。

 魔物の体表から小さな穴が現れる。

 その穴から、凄まじい勢いで水鉄砲が発射された。


 魔物が放ったその水鉄砲は、無論、水遊びだと笑い飛ばせるような威力ではない。

 矢のような速度で飛び、岩をも穿つ強力な水の球である。


 アルゴたちは、十数発の水鉄砲を難なく躱す。

 湿原に足を取られるが、三人はそれぞれが高い身体能力を持つ。


 そうしてまず、クロエが魔物に攻撃を放った。

 クロエは武器を投擲。


 クロエが放ったのは、三本のダガー。

 長さは約十五センチ。銀に輝きながらダガーが飛翔する。


 三本のダガーは、魔物の表面に突き刺さった。

 だがそれでも、魔物は動じていないようだった。


 魔物は厚い筋肉に覆われている。

 多少の攻撃では、致命打になり得ない。


「デブ魚め!」


 とクロエは怒りの声を上げた。


「では私が!」


 ネロは剣の切っ先を魔物に向け、魔力を練り上げる。


「ウィンドエッジ!」


 放たれたのは風の刃。

 空を裂きながら魔物へと迫る。


 風の刃は魔物に直撃。

 だが、魔物の厚い肉体に阻まれ、魔物の表面を僅かに切り裂いただけだった。


 クロエとネロの攻撃を受けても動き回る魔物の様子を見て、アルゴは理解する。

 生半可な攻撃では駄目だ。

 魔物に近付いて、深く刃を突き刺さなければならない。


 アルゴは水鉄砲を避けながら、湿原を跳ねた。

 弾むような勢いで魔物へと近接したアルゴは、魔剣を魔物へと突き入れた。

 魔剣は、魔物の頭部に深く刺さった。


 魔物は激しくのたうち回る。

 だがそれでも、魔物は絶命しなかった。

 魔物の体表から水鉄砲が射出。


 アルゴは魔物の頭部から魔剣を抜き、素早い動きで水鉄砲を躱した。


「すごい生命力だ。脳を刺しても死なないなんて」


 魔物の生命力に驚くアルゴだったが、魔物は確実にダメージを受けている。

 魔物は明らかに動きが鈍っていた。


「アルくん! ネロりん! たたみかけるニャ!」


 それを耳に入れながらアルゴは、魔剣を構えながら魔物に接近。


 一度で死なないなら二度三度だ。なんどでも突き刺してやる。


 そう意気込むアルゴだったが、次の瞬間、アルゴは動きを急停止させた。


 地面が強く揺れた。

 その直後、地面から巨大な何かが姿を現した。


 それは、巨大な花弁だった。

 その大きさは、魔物の図体の二倍ほど。

 巨大すぎて人の常識では、それが花弁だと理解するのに時間を要するだろう。


 鮮やかな紫の花びらに、毒々しい赤黒い斑点が浮かんでいる。

 その花弁は、魔物の下から現れた。

 一瞬だった。その巨大な花弁で魔物を包み込んだ。


 否。包み込んだのではない。

 それは捕食だ。


 花弁は凄まじい力で魔物の体を潰し始めた。

 魔物が潰れる嫌な音が響く。

 閉じられた花弁の隙間から、魔物の赤い血液が漏れ出していた。


 アルゴたち三人は呆気に取られていた。

 突然現れた巨大な花弁。

 その花弁は魔物を死に至らしめたが、アルゴたちには分かっていた。


 この花弁は、決して味方ではない。

 この花弁の怪物に、話など通じるはずもない。

 この花弁の怪物もまた、人類の宿敵。魔物だ。


 花弁の魔物は、ナマズの魔物から血液を搾り取ったあと、ナマズの魔物を吐き出した。

 そして、花弁の中心をアルゴたちに向ける。


 花弁の中央部には、鋭い牙が円状にいくつも生えている。

 その牙の中央部には、ぽっかりと暗い穴。

 その穴が、この魔物の口なのだろう。


「二人とも! 後ろに跳んでください!」


 アルゴがそう叫んだ。


 三人が後ろに跳んだ直後、地面から無数の触手が現れた。

 緑色のその触手は、魔物にとっての腕であり武器でもある。


 触手がアルゴたちに襲い掛かる。


 アルゴは触手を避けながら、触手をよく観察した。

 触手の表面には、小さな棘が生えている。


 ただの棘だとは思えない。

 よく見れば、棘の先から黄色い液体がこぼれている。

 おそらくは、あの棘には毒が含まれているのだろう。

 そう予測し、アルゴは二人に呼びかけた。


「多分、棘には毒があります! 気を付けてください!」


「了解ニャ!」


「承知した」


 アルゴは触手を躱しながら考えていた。

 この魔物の弱点はどこだ。

 花弁の中央部か。それとも地面に隠れているのか。


 そう思考するアルゴの耳に、ネロの大声が聞こえた。


「フレイムボール!」


 ネロが発動したフレイムボールは、魔物の花弁に直撃した。

 この魔物は植物の魔物。

 どう見ても火に弱い。

 ネロの魔術は、弱点を突いていた。


 と思われたが、魔物は驚くべき特性を備えていた。

 フレイムボールは魔物に炸裂したが、それだけだった。

 魔物は燃えなかった。

 花弁の一部が少し黒くなった程度で、ダメージを負っているようには見えない。


「馬鹿な……」


 ネロは瞠目した。

 魔物の異常性をまざまざと見せつけられた。


 魔物は特殊な粘液を花弁の表面に纏っていた。

 それは炎に耐性を持つ粘液。

 しかし、それだけではない。あらゆる魔術に対する耐性を持つ万能の特殊粘液。

 この魔物の特性の一つである。


「魔術が駄目なら、切り刻むしかないニャ!」


 その通りだとアルゴは思った。

 単純に考えればいい。

 跡形もなく切り刻む。


 アルゴはやるべきことを決めた。

 魔物を切り刻むイメージを頭に描き、足を踏み出した。

 だが次の瞬間、アルゴは足を止めた。


 背後から聞こえたのだ。

 メガラの声が。


「ブレイズタワー!」


 魔物の真下から、巨大な炎が出現した。

 天井に迫る程の勢いで噴出するのは、地下深くより現出した炎の塔。


 炎の塔は、魔物を焼き尽くした。

 ネロが放ったフレイムボールとは比較にならない程の火力と規模。


 魔物の特殊な粘液は、その火力の前では意味を為さなかった。

 炎の塔は湿原の水分を蒸発させ、魔物を燃やし尽くした。


「少々発動が遅くなった。すまんな」


 アルゴたちに近付きながら、メガラはそう言った。


「すごい……」


 アルゴはそう声を漏らした。


 メガラの魔術の威力は、以前とは段違いだった。

 その秘密は、永久の杖にある。

 永久の杖はエウクレイア家の秘宝であり、選ばれた者にしか扱えぬ宝器だ。


 その杖はメガラに絶大な力を与える。

 メガラの魔術は以前の何倍にも増している。

 さらに永久の杖は、魔力消費を極限まで抑える恩寵をメガラに与えていた。


 永久の杖を手にした今のメガラは、大魔術師と言っても過言ではなかった。

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