126.水晶の灯
エンヒを倒したのち、広間に奥に進むと巨大な両開きの扉があった。
鉄で造られた頑丈な扉だった。
「これがダンジョンへと続く扉でしょう」
扉を見つめながら、ネロがそう言った。
メガラは、一同を眺めて言う。
「皆の者、覚悟はいいな?」
「いいよ」
「いいニャ!」
「私も同じく」
各々の返事を聞いて、メガラは頷いた。
「ではアルゴ、ネロよ、この扉を開放せよ」
アルゴとネロはそれを聞いて動き出した。
二人がかりで扉を押す。
幸いなことに、扉は施錠されていない。
重い扉だが、二人がかりならば開放することは可能だ。
扉がゆっくりと動き出した。
アルゴとネロは扉を押し続けた。
そして、人が通れる隙間ができた時、二人は力を緩めた。
「私が先頭をいきます」
ネロは双剣を構えながら前進を始めた。
扉の先は、また石で造られた壁と天井があった。
それほど広くない。
約五メートル前方に階段が存在した。
階段は下へと続いている。
警戒を続けながら、一行は進む。
先頭のネロは、慎重に階段に足をかけた。
そのまま、ゆっくりと下り続ける。
アルゴはネロの後ろに続いていた。
階段はそれほど長くなかった。
疲労を感じる前に階段の終点へと辿り着き、そして息を呑んだ。
このダンジョンは、アルゴが今まで訪れたダンジョンとは様子が違っていた。
まず最初に、薄暗いと感じた。
アルゴが初めて訪れたダンジョンでは、空気中を輝く粒子が舞っていた。
霧の島のダンジョンは、天井から巨大な輝く水晶が生えていた。
このダンジョンの光源は、霧の島のダンジョンと同じく巨大な水晶だった。
しかしそれは、天井ではなく地面から生えていた。
大きさは人の体よりも少し大きい程度。
その水晶は弱い光を放っていた。
あちこちに点在するぼんやりとした水晶の明かりが、この場所の全貌を教えてくれていた。
見渡す限り湿原が広がっていた。
地面には湿った草。足を踏みしめれば、くるぶしの少し上あたりまで水に濡れてしまう。
「ミレト様の情報通りです」
ネロはそう言って、人差し指を前方に向けた。
「あの緑色の水晶を目印に進めば、目的の場所に辿り着ける……はずです」
水晶の色は、様々な種類があった。
緑色、青色、赤色、白色、などだ。
そのいずれもが弱い光であったが、色とりどりの水晶が、幻想的な世界を創りだしていた。
緑色の水晶を目印に進めば、目的の場所に辿り着ける。
その情報はミレトからもたらされたものだった。
「うむ。ミレトの奴の情報がどこまで正しいのか分からんが……他にアテもない。信じるしかあるまいよ」
「ニャ―。今更だけど、クロエたち結構、無謀なことしてるニャね」
「なんだ? 怖気づいたか?」
「いいや。俄然、やる気満々だニャ」
「フッ。頼もしいではないか」
「慎重かつ迅速に進みましょう」
微弱に発光する水晶に彩られた薄暗い湿原。
幻想的で美しい景色が広がっているが、ここはダンジョン。
人類の宿敵ともいえる凶悪な魔物たちが蠢いている。
油断は許されない。
ここはすでに魔境。人類にとっては死の地帯なのだから。




