124.地下へ
アルゴ、メガラ、クロエは、スケイルリザードから飛び降り、中央塔に侵入した。
三人は中央塔一層の通路を駆ける。
目指すは、ダンジョンへと通じる入り口が存在する地下。
中央塔内部には、アルテメデス兵は殆どいなかった。
外は相変わらず激戦が繰り広げられている。
アルテメデス兵の殆どは、外で猛威を振るう緑蛇と、命を燃やし尽くす勢いのルタレントゥム分隊を相手取っている。
予想よりも順調だった。
それほど苦戦せず、ここまで辿り着けている。
アルゴはそう思いながら走り続けた。
その理由はやはり、味方陣営の奮闘にあるだろう。
彼らは、自分たちの勝利条件を確定させていた。
それは、ダンジョンの最奥へと至り、アレキサンダーの力の源を絶つこと。
彼らはそれを永久の魔女と、その契約者に託したのだ。
客観的にそう分析したアルゴは、もう一つの理由を口に出した。
「アレキサンダーがいない」
これほど激しい戦闘が行われているのにも関わらず、アレキサンダーが出てこない。
ならばそれは、今この砦にはアレキサンダーはいないということ。
大将軍は、たった一人で戦況を変える力を持っている。
今、ことが上手く進んでいるのは、アレキサンダーが不在だということも大きな理由だろう。
「情報通りだ。半年に一度、贄の晩の数日前に、奴はわずかな従者と贄を連れて自らダンジョンへ赴く。奴は今、ダンジョンにいるのだろう」
アルゴの真後ろを走りながら、メガラがそう言った。
贄の晩。それはダンジョン最奥で行われる儀式のこと。
アレキサンダーが魔族の命を取り込むために必要な儀式。
それが行われる日は新月の晩と決まっている。今から三日後がその新月だ。
メガラの言葉を聞いて、アルゴは述べる。
「このままダンジョンに入って最奥に辿り着き、アレキサンダーの力の源を破壊。その後、ダンジョンに連行されているだろう魔族たちを救出し、ダンジョンから脱出。で、いいんだよね? メガラ」
「ああ。それが最良。だが、そう上手くはいかんだろう。最奥に辿り着く前にアレキサンダーと接触することもあろう。途中で待ち伏せされている可能性もあるな。事態は常に変化する。変化する状況を見極め、その都度対応を決めねばらならん。つまり―――」
「臨機応変ってことニャ!」
「そうだ」
そう返事して、メガラは続ける。
「だが、優先順位は決めておかなければならん。第一がアレキサンダーを滅ぼすこと。第二が魔族たちの救出。優先順位を間違えるな。二人ともいいな?」
「メガラはそれでいいの?」
「アルゴ、言いたいことは分かっている。レイネシアの母を助けることは、余にとっては必須事項だ。だが、それは我らの必須事項ではない。この二つを明確に分けておかなければ、いざという時、足をすくわれてしまう」
「大丈夫だよ」
「なに?」
「俺に任せて。どっちもやってみせるから」
「フッ。お前は余の話を聞かん奴だな。だが、よくぞ申した。頼むぞ、アルゴ」
「了解!」
「クロエもいるニャ! クロエも頼ってニャ!」
「ああ。クロエも頼む」
「あいニャ!」
クロエが元気よく返事した時だった。
背後から、兵士の怒号が聞こえた。
「いたぞ!」
背後には複数のアルテメデス兵。
アルテメデス兵たちが、こちらに迫ってくる。
迎え撃つ。
と、アルゴがそう腹を決めた時、アルテメデス兵たちの勢いが低下した。
アルテメデス兵たちが呻きながら倒れていく。
何事かと困惑するアルゴであったが、理由はすぐに分かった。
二振りの剣が煌めき、アルテメデス兵たちを背後から切り裂いていく。
その剣を振るうのは、若い魔族の将―――ネロ・ブラウロン。
ネロは二刀流だった。左右の手には、長さ五十センチほどの両刃の剣が握られている。
短剣というには長く、一般的な直剣よりも短いその剣を、ネロは自在に操った。
アルテメデス兵たちはネロに反撃をしかけるが、ネロの剣技の前では無力だった。
ネロは、瞬く間にアルテメデス兵を殲滅。
そして、屍を越えてアルゴたちの方へ駆け寄った。
「盟主様、先を急ぎましょう」
「外はよいのか?」
「はっ。我らの兵が奮闘しておりますゆえ、今しばらく時間を稼げるかと。ここからは、私も盟主様の護衛につきます」
ネロはそう言いながら、一瞬アルゴへと顔を向けた。
何かを言い含むようなネロの視線。
メガラは敢えてそれには触れず、ネロに返事をする。
「よかろう。では、いくぞ!」
「はっ」
そうして四人は通路を駆け始めた。




