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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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121.始まりの地点

 洞窟から少し離れた山の中で、クロエは植物に顔を近づけた。


「ん~」


 と唸り、植物から目を離して腰を上げる。


「アルくん! そっちはどうニャ?」


 クロエから少し離れた位置にいたアルゴは、クロエの方に顔を向けて返事をする。


「見つかりません!」


 その返事を聞いて、クロエは体を反らして伸びをする。


「だめかー。この辺には自生してないのかニャー」


「毒草って、そこら辺に生えているものなんですか?」


「意外と生えてるものニャ―。只の草のように見えて、実は猛毒だったり。葉っぱや茎は無毒だけど、根に毒があったりとか。けど、この山には無いみたいだニャ―」


「そうなんですか……。ところで……」


「んニャ?」


「俺たちが砦の牢屋に入れられた時、あの兵士……サントール……のことですが、毒殺したんですよね? いったいどうやって?」


「んニャ。もしもの時に備えて、奥歯に毒入りの丸薬を仕込ませていたニャ。丸薬を噛めば、毒が中から溢れ出る仕組みだニャ。で、毒が付いた牙でガブーとだニャ」


「なるほど。でも、そうなると、クロエさんも毒死してもおかしくないんじゃ?」


「毒を扱うなら、解毒薬の備えは基本ニャ。これまた解毒薬も奥歯に仕込んでいたのニャ。解毒薬を飲み込めば、クロエは助かる。そういう仕組みだニャ。あ、でもアルくんは真似しちゃダメニャ。これは、毒に耐性のあるクロエにしかできないことだニャ」


「なるほど……。分かりました、気を付けます」


 素直にそう答えるアルゴを見て、クロエは柔らかく笑う。


「フフフッ。キミは本当に、素直でいい子だニャー」


 と言って、クロエはアルゴの頭を撫でる。


「あ、ありがとうございます……」


 僅かに顔を赤くしながら、照れ臭そうに礼を言うアルゴ。


 その時、草花がこすれる音と、少女の声が聞こえた。


「我が騎士をたぶらかすのは、そこまでにしてもらおうか」


 そう言って現れたのはメガラ。


「ニャ―? 別にたぶらかしてなんかないニャー。って、メガちゃん……その杖が?」


 メガラの右手には黒色の杖が握られていた。


「ああ。これこそが永久の杖だ」


 クロエは興味深げに杖を眺めた。


「これって、メガちゃんにしか扱えニャいって本当?」


「本当だ。この杖は、エウクレイア家の秘宝。この杖は持ち主に大きな力をもたらすが、杖が認める者にしか扱うことができない。杖に認められていない者がこの杖を持っても、それは只の木の棒としか機能しない。余は、数百年ぶりに杖に認められた魔女である」


「すごいニャ……。メガちゃんて実はすごい人だったのニャね」


「実はとはなんだ。お前は余を侮りすぎだ」


「べつに侮ってはいないけどニャー」


 小さく口笛を吹きながら目線をそらすクロエ。


 そんなクロエの様子を横目に、アルゴは静かに口を開いた。


「メガラ……本気なの?」


「なにがだ?」


「ダンジョンに行くって本気?」


「本気だ。余は行く。アルゴ、すまぬがお前にも付き合ってもらうぞ」


「それは勿論。俺が行くのは構わない。でも、メガラは残った方がいい」


「いいや。今回の作戦、必ず成功させねばならん。成功の鍵は、余の術にある」


「……」


「それにだ。理由は他にもある」


「他にも?」


「アルゴ、クロエ、お前たちは覚えているか? サントールに嵌められて捕われた地下の牢獄に、この少女によく似た女がいたことを」


 メガラは胸に手を当ててそう言った。

 この少女。それは、この体の本来の持ち主。名前も知らない魔族の少女のことだ。


 いや、名前ならもう知っている。


「レイネシア。あの女は余のことをそう呼んだ」


「メガちゃん、忘れるわけないニャ。あの人はきっと……」


「ああ。あの女はレイネシアの母親だろう」


「母親……」


 アルゴがそう呟いた。

 それを耳に入れ、メガラは言う。


「余はテルモイから聞いた。あの砦に囚われた者たちの末路を」


「……どうなるのニャ?」


「ダンジョンに連行され、贄とされる」 


「贄?」


「これはあくまでテルモイの予想だ。あいつも実際に見たわけではない。だが、余はテルモイの予想が正しいと思っている。ダンジョンの最奥、溶岩地帯はアレキサンダーの力の源。では、その源はどうやって維持されている? あの異常なまでの力の理屈は? それは、その答えは……我ら魔族の命だ」


「ニャるほど」


 クロエはハッキリと言葉を続ける。


「アレキサンダーは、魔族の命を取り込むことで不死を成立させている。魔族は贄。贄によってアレキサンダーは力を得ている。そういうことだニャ?」


「そういうことだ。余はレイネシアに大きな恩がある。それなのに、余はレイネシアの母親を見捨てた。見捨てて逃げた。余は、それを強く後悔している。身勝手な話だが、余はこれ以上後悔したくない。だから、レイネシアの母親を贄にさせるわけにはいかない。アレキサンダーを討ち、それを阻止せねばならんのだ」


「話は分かったよ、メガラ。だけど……」


「余も行きたいのだ。頼む。余の騎士……アルゴよ」


「分かったよ……メガラ。俺は必ずメガラを守る。この剣に誓う」


 アルゴはそう言って、鞘に収めた状態で魔剣の先を頭上に突き上げた。


「フフッ。騎士らしくなってきたではないか。頼りにしてるぞ」


 メガラは笑みを浮かべ、杖をかざして魔剣の鞘に接触させた。


 魔剣と杖がアルゴとメガラの頭上で重なり合った。


 その様子を見て、クロエは慌てて動いた。


「ニャニャ! クロエだけ仲間外れは嫌ニャ!」


 クロエは空き瓶をかざし、魔剣と杖が重なる位置に空き瓶を重ねた。


 これで魔剣と杖と空き瓶が重なった。


「時にクロエよ、お前は何故我らに付き合う? これから行くのは死地だぞ。お前がアルテメデス帝国を恨んでいるのは知っているが、本当によいのか?」


「クロエは……親を、兄弟を、奴らに殺されたニャ。クロエは憎い。クロエは奴らを許さない。でも、クロエがキミたちと行くのは、そういう理由じゃないのニャ」


「その理由とは?」


「クロエはキミたちが大好きだニャ。付き合いは浅いけど、キミたちはもう、クロエにとっては大切な存在だニャ。だから、クロエはもう覚悟を決めてるニャ。今更二人を置いて、一人だけ安全な場所に逃げるなんて無理ニャ!」


「フッ。クロエよ、お前は酔狂な奴よな」


「ニャ! その台詞、メガちゃんにだけは言われたくないのニャ!」


「ハハッ! 言うではないか!」


 そう笑ったのち、メガラは掲げられた杖と魔剣と空き瓶を見上げて述べる。


「我ら三人は、出自も種族も違う。だがどうしてか、ここに我らは集った。これは必然か、それとも偶然か。それは余には分からんが、我らは確かにここにいる。ここが、それぞれが歩んできた道の交点だ。個々の始まりはテンでバラバラだが、我ら三人の始まりはここだ。たった今、余がそう決めた。よいか? ここは始まりだ。ここが終点ではない。終点はずっと先。まだ見ぬ地平線の彼方よ。ならば、我らはそこへ辿り着かねばならん。必ずだ。必ず、そこへいくぞ。―――よいな?」


「プフッ。メガちゃんってば台詞が長い。素直に、皆で生きて帰ろう! って言えないもんかニャ」


「アハハッ。クロエさんに同意」


「なっ、お前たち! 人がせっかく―――」


「分かってるよ、メガラ。―――ありがとう」


「む、むう……」


 アルゴの無垢な笑顔にあてられ、メガラは口を噤んでしまった。


 わずかに顔を赤らめるメガラを見つめながら、アルゴは胸の内で改めて誓う。


 スキュロスさん。俺が、絶対にメガラを死なせませんから。

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