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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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119.異界の魔女

 ミレト・ガラテイア。

 二つ名は異界の魔女。


 ガラテイア家はエウクレイア家の分家筋にあたり、ルタレントゥム内での地位は高い。

 ミレトはそのガラテイア家の生き残りであり、メガラ不在の間、魔族たちを率いる立場にあった。


 ミレト・ガラテイアには、ある才能があった。

 それは、失われた古代の術―――召喚術の才能。

 召喚術とは、異界よりシモベを呼び出し、使役する術である。


 召喚術は、その扱いの難しさゆえに歴史と共に継承者を失っていった。

 その中で現代まで召喚術を継承し続けた唯一の家系こそが、ガラテイア家である。

 そのガラテイア家の生き残りはミレトのみ。

 つまりミレト・ガラテイアは、希少な召喚術者ということになる。


 ヨルムンガンド。

 荒野に突然現れた超巨大な蛇は、ミレトが異界より召喚したシモベであった。


 洞窟内に設えられた個室にて、ミレトは椅子の上で脚を組みかえながら口を開いた。


「ヨルムンガンドは死んでしまった。正確に言うならば、アレキサンダーに焼かれた」


 木製の机を挟んでミレトの対面に座るメガラは、言葉を返す。


「ではやはり、アレキサンダーはまだ生きているのか?」


「そうじゃな」


「……奴が不死だということを、余は知らんかった。余は、奴が傷を再生させるところを初めて見た。奴は今まで、あの再生力を隠していたというのか……」


「まったく、度し難い。あのヨルムンガンドは(わらわ)の切り札。それを無駄に失ってしまったのう」


「無駄?」


 メガラは鋭い視線でそう尋ねた。

 ミレトはそれに動じず、薄い笑みを浮かべて尋ね返す。


「何か?」


 メガラは、しばらくして言葉を返した。


「まあいい。お前に助けられたのは事実。お前に……礼を言おう」


 ミレトは扇子を広げ、楽し気に顔を歪めた。


「ハハハハッ! これは傑作じゃ! あの盟主様が妾に礼を!? ハハ……ハハハッ! お姿だけでなく、中身までも可愛らしゅうなりんしたか!」


「……相変わらず、気に食わん奴だな」


「ウフフッ。まあ、気にせんでくださいまし。妾はただ、気まぐれに哀れな配下の言う事を聞いてやっただけ」


「テルモイのことか?」


「いいや」


「では誰のことを言っている?」


「私のことでしょう」


 そう言って、男が部屋に入ってきた。


 若い男だった。

 金色の髪。薄緑の肌。頭部には二本のツノ

 その顔立ち、その佇まいから、この者が一角の戦士であることが見て取れる。


「お前は?」


 男はメガラの元まで近づいて跪いた。


「盟主様、お初にお目にかかります。私はネロ・ブラウロンと申します。私がテルモイの意をミレト様に取り次ぎました」


「ブラウロン……だと?」


「はッ。ブラウロン家先代当主、アトロン・ブラウロンの後を継ぎ、現当主を務めております」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 緑が溢れる山の中。

 流れる川から視線を外し、アルゴはテルモイに顔を向ける。


「アトロン・ブラウロン?」


 流れる川を見つめながら、テルモイは告げる。


「はい。アトロン・ブラウロン殿は、盟主様の契約者でした。つまりアルゴ殿、あなたの前任者、ということになります」


 それを聞いてクロエは、指先を川に入れながら静かに口を開いた。


「その人は……どんな人だったのニャ?」


「そうですね……。あの方は……義に厚く、それでいて勇猛な戦士でした。戦いの才に溢れ、一度戦場に出れば、誰よりも戦果を挙げる。しかしその武功を鼻にかけることもなく、誰にたいしても気さくに接する。そういう……お方でした」


「それは……すごく……いい人だったのニャね」


「はい。あの方を失ったのは、我々にとって大きな痛手でした……」


「誰に……やられたのニャ?」


「……アレキサンダーです」


 アレキサンダー。

 その名がテルモイの口から発せられ、この場に静寂が訪れた。

 三人共思い出していた。

 アレキサンダーの脅威を。

 心臓を貫いても、首を刎ねても死なない不死の戦士。

 加えて、炎を支配する異能。


 あの怪物をどうにかできる者がいるのだろうか。


 クロエの頭に、いない、という言葉が浮かぶ。

 アレキサンダーに比肩する怪物ならいる。

 すぐ近くに。その怪物は、薄茶の髪色をした少年だ。

 しかし、その少年ですらアレキサンダーを滅ぼすことはできなかった。


「大丈夫です」


 ふいに、テルモイがそう発言した。


「ニャ?」


「我々とて、何もしていなかったわけではありません。我々には見当がついています。上手く行けば……」


 アルゴが首を傾げて尋ねる。


「上手く行けば?」


「上手く行けば―――アレキサンダーを殺せます」

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