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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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118.滝の裏に

 プラタイトから西に進路を進め、荒野を抜けた先に、パルテネイア聖国という国家が存在する。


 女神アンジェラを救い主として信仰するアッカディア教会。

 その教会の総本山こそが、パルテネイア聖国である。


 パルテネイア聖国は、大陸で覇を競ったアルテメデス帝国とルタレントゥム魔族連合のどちらにも味方をせず、中立を貫いている。

 しかし、アルテメデス帝国が大陸の覇権を握ろうとする今、パルテネイア聖国は微妙な立場にあった。


 アルテメデス帝国は、その版図を広げ続けている。

 アルテメデス帝国がパルテネイア聖国に対しどういった行動を起こすのか。

 それこそが、パルテネイア聖国の最大の関心事といえるだろう。


 パルテネイア聖国は、アッカディア教会の総本山という特殊な立ち位置であるがゆえに、アルテメデス帝国に侵攻されることはないと考えている者は少なからずいる。


 だがその意見とは逆に、侵攻に備えて軍備を強化せよという声も強まりつつある。

 アルテメデス帝国の脅威と国内の不和。

 パルテネイア聖国は、大きな問題を抱えている状況であった。


 そんなパルテネイア聖国とルタレントゥム領の狭間に山岳地帯がある。

 アルゴたちは、その山岳地帯にいた。


 険しい山道をアルゴたちは進んでいた。

 先頭にはテルモイ。そのあとに続くのは、クロエ、メガラ、アルゴだ。

 四人とも徒歩で進んでいた。

 この辺りは冷える。

 サラマンダーにとっては厳しい環境であるため、サラマンダーを連れて来ることはできなかった。


 険しい山道を進みながら、アルゴは腰に携えた剣の柄をそっと触った。

 滑らかな感触。

 鞘に収められた状態ではあるが、刀身から魔力が漏れ出しているのか、わずかだが魔力を感じる。

 この剣は魔剣ヴォルフラム。シュラから託された、魔力が込められた剣だ。


 失ったと思っていた魔剣が戻ってきた。

 テルモイが砦から回収していたのだ。

 荒野を駆けるサラマンダーの背の上で、アルゴはテルモイから魔剣を返された。


 アルゴは、テルモイに深く感謝した。

 失くしたとあってはシュラに顔向けできない。

 それに、これがあれば誰にも負ける気がしない。

 この魔剣は、アルゴにとっては不可能を斬り裂く剣だった。


「良かった……」


 と小さく呟いて、アルゴは周囲に目を走らせた。

 進むたびに緑が深くなっていく。

 標高はそれなりに高い。普通、標高が高い場所では背の高い木々は育ちにくい。

 だがこの場所は、その理屈が無視されているようだ。


 背の高い木々。深まる緑を目で捉えつつ、警戒を続ける。

 しかし、魔物などの脅威は感じない。

 この辺りは、魔物の生息域ではないようだ。


 そう思いながら歩みを進めていた時、前方からクロエの声が聞こえた。


「ニャ! この音は!」


 クロエの猫耳がピクピクと動いていた。

 それを聞いて、アルゴは聴覚を研ぎ澄ませた。


 クロエほどハッキリと聞き取ることはできない。

 だが、アルゴにも聞こえた。


 水の音。大量の水が打ち付けられるような音だ。


「滝だニャ!」


 クロエの言う通り、しばらく進んだ先に滝があった。

 大量の水が高所から打ち付けられている。


「皆様、ここです」


 テルモイがそう言った。


「うむ」


「しばしお待ちを」


 テルモイはメガラに頭を下げ、一人で歩みを進めた。


 しばらくして、テルモイが戻ってきた。


「お待たせしました」


 と言ってテルモイは頭を下げた。


「では行くぞ」


「はッ!」


 テルモイを先頭に、四人は進み始めた。


 滝の裏側に洞窟があった。

 洞窟の入り口は狭かった。

 だが、しばらく進むと開けた空間があった。


 岩の壁に囲まれた広い空間。

 その奥に、巨大な扉があった。

 その扉は、岩の壁に嵌め込まれている。


 扉の前に立ち、テルモイは大きく息を吸い込んだ。


「開門!」


 テルモイの声が洞窟に響いた直後、巨大な扉が開き始めた。

 軋みながらゆっくりと。


 扉が開き、通過可能となった。


 ここからはメガラが先頭。

 メガラは悠然と進む。


 アルゴはメガラの後ろを歩きながら面食らっていた。

 扉の先もまた、広い空間だった。

 その空間の左右に、大勢の魔族が隊列を組んでいた。

 人数は百人程度だろうか。右に五十。左に五十。

 その魔族たちは、体を広間の中心に向けて微動だにしない。


 だが次の瞬間、一斉に魔族たちが動き出した。

 その動きは、乱れのない統率された動きだった。


 魔族たちは跪いていた。

 何故そのような行動を取ったのか。

 それは明らかだった。


 広間の中心を歩くメガラ。

 その姿は小さな少女だが、凛とした表情と強い足取りが只者ではないことを物語っていた。

 魔族たちは、その小さな少女に向かって敬意を示している。


 メガラは歩き続け、やがて止まった。


 メガラの目の前には、積み上げられた石段。

 その上に石造りの玉座。


 玉座には女が座っていた。


 メガラは、視線を女に向けながら口を開いた。


「この演出はなんだ?」


 そう問われ、玉座に座る女は言葉を発した。


「これは驚いた。本当に盟主様じゃ」


 若い女だった。

 翠色の髪。頭部にはツノ。

 美しい顔立ちであるが、僅かに狂気を宿らせた瞳は、この女の危険性を現しているように見えた。


 女の額には第三の目。

 第三の目が見開いていた。

 第三の目が、メガラの姿を捉えている。


 女は蠱惑的な笑みを浮かべ、艶のある笑い声を発した。


「フフフフッ。しばらく見ない内に、随分可愛らしゅうなられましたなあ」


 扇子で口元を覆い、静かに笑う女を見て、メガラは言葉を返す。


「お前は変わらんな。相変わらず、嫌悪感を催す顔だ。―――ミレト」


 ミレト、と呼ばれた女は口角を上げた。

 目を細め、舌をわずかに覗かせるその様は、蛇が笑っているように見えるかもしれない。


「相変わらずなのはお互い様じゃ。相変わらず品性の欠片もない。体は変わっても、その腐った心根は変わっておらんようじゃのう」


 ミレトは魔族の盟主に正面から悪意をぶつけた。

 それは、このミレトが特異な存在であることを示していた。

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