表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/250

117.火蜥蜴の背で

 サラマンダーは西に進んでいた。

 サラマンダーの駆ける速度は、馬よりも遅い。

 だが、人が全力で駆ける速度よりも速い。持久力もある。

 おまけに、複数人を背中に乗せたこの状態でも疲れをみせない。

 置かれた状況を鑑みれば、最適な騎乗生物といえるかもしれない。


 進むのは依然として乾いた大地。遮蔽物の無い荒野。

 だが、荒野の終着点に近付いていた。

 既にアルテメデス軍の監視区域から抜け出している。


 途中、監視塔の傍を通過したが、アルテメデス兵が飛び出してくることはなかった。

 おそらく、テルモイが何かしたのだろう。

 メガラはそう予想してテルモイに話しかけた。


「さて、そろそろよかろう。お前の目的を話せ」


 テルモイは手綱から手を放し、サラマンダーの背中の上で体をメガラの方へと向けた。

 それから、深く頭を下げた。


「数々の無礼、お許し下さい……盟主様」


「なに?」


「貴方様こそが……我々の盟主様です」


「我々の盟主? 余は人族の盟主になった覚えはないが」


 テルモイは首を横に振ったあと、前髪を右手で持ち上げた。

 テルモイの額が露わになる。

 テルモイの額には、大きな縫い目があった。


「自分の腕の皮膚を額に縫い付けました。これはその痕です」


「何を言っている?」


「俺は魔族です。俺は額から生えたツノを自分で折りました。折れたツノ痕を隠すため、皮膚を額に縫い付けたんです」


「なんだと?」


 メガラは戸惑うような訝しむような表情を浮かべた。

 その様子を見つつ、クロエが口を開いた。


「ニャるほど。つまりキミは、アルテメデス軍に侵入した魔族側の間者。そうことニャ?」


「はい、そうです。幸い俺の魔族としての特徴は額のツノだけでしたから、上手く奴らを騙せました」


「しかしそれは……ツノを折るなどと……」


 ツノは魔族にとっての誇りだ。

 それを自ら折るという行為は、誇りを捨て自分自身を捨て去る行為に等しい。


「問題ありません。俺は何としてもアルテメデス帝国に勝ちたい。そのためなら、何だってやります。それに……こうして貴方様をお救いすることができた」


「……で、あるか。その方、大義である」


「ははあッ! ありがたきお言葉!」


「してテルモイよ。よく余の正体に気付いたな」


「はッ。貴方様とそこの少年には、手配がかかっております。俺たち下っ端には、貴方様がたの正体までは知らされておりません。ですが、俺はずっと考えておりました。手配された少女と少年は何者なのかと。アルテメデスに不穏をもたらす者たち。是非とも協力を取りつけたかったのです。そんな中、ある時アレキサンダーがルタレントゥム領から離れるという情報を得ました。俺は、その時賭けに出ました」


「それは?」


 メガラがそう尋ね、テルモイは続きを言う。


「アレキサンダーが居を構える砦に向かい、奴の執務部屋に忍び込みました。日付と時間を慎重に見極め、尚かつ、持ち得る財産の殆どを見張りの兵士に渡し、なんとか……忍び込むことに成功したのです。そこで見つけました。それは、アレキサンダーに送られた暗号文でした。俺は……この通り戦いには不向きですが、頭は少しだけキレます。今まで集めた情報から、自力で暗号文を解きました」


「それはすごいニャ。で、なんと書かれていたニャ?」


「ええ。暗号文に書かれていたことは主に二つ。永久の魔女が再臨したこと。そして、大将軍クリストハルトが危険視している少年のこと」


「ほう……」


「それを読んで俺は理解しました。少年が何者であるのかは推察できませんでしたが、手配された少女が何者であるのかは予想がつきました。それはまさに希望でした。絶対に、その少女を見つけ出さなければいけない。そう思いました。そして、軍内で噂が広がっていました。手配された少女と少年が、ルタレントゥム領に入ったのではないかと。だから、俺は常に周囲に目を向けて探していました」


「どこで我らを見つけた?」


「初めて御身をお見かけしたのは、プラタイトの奴隷市場でした。御身はフードで顔を隠されていましたが、もしやと思い……近づこうとしました。ですが驚きました、まさかあのサントールと交渉をするなんて……」


「ニャニャ……それは……。あいつはクソだけど、交渉相手にはピッタリだったからニャ……。あれ? テルモイっちがあいつと相棒だったのはたまたまニャ?」


「はい。それはたまたまです。ですから好機だとも思いましたが、同時に不安がありました。あいつは俺が知る限り、最も信用ならない男の一人です。貴方様がたがあいつと交渉する前に、俺が貴方様がたに接触すればよかったのですが……それはできませんでした。申し訳ありません」


「それはよい。結果的に我らは今こうしている。問題あるまいよ」


「有難きお言葉。しかし、本当に驚いたのです。まさかサントールが、あれほどクロエ殿に執着していたなんて……」


「ニャー、ほんとにニャー。ぞっとするニャ」


「俺はサントールの暴走を抑えることができませんでした。皆様がた、重ねてお詫び申し上げます」


「よい。頭を上げよ」


「はッ!」


「さて、これでお前のことは理解した。ようやく話を進められるな」


 サラマンダーは駆け続ける。


 こういう時、アルゴは聞き役に回ることが多かった。


 アルゴは揺れるサラマンダーの背中の上で、メガラの話に耳を傾けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ