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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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116.混乱

「す、すごい……ニャ」


 クロエは、その光景を見ていた。

 きっとその光景を生涯忘れることはないだろう。


 大地が燃えていた。

 大量の煙を上げながら炎が燃える。


 それはまるで、炎の海。

 一瞬にして環境が変化した。


 しかし、辺りが灼熱の大地と化してもまだ、自分は生きている。

 それは何故か。

 それは、目の前の少年のお陰だ。


 少年が超巨大な炎弾を斬った。

 斬られた炎弾は真っ二つに分かれ、左右に飛び散った。

 だからまだ、自分は生きている。


 信じられなかった。実際にこの目で見たというのに、まだ疑っている。

 あれは人の技なのか?

 魔術を斬る。そんなことができる存在を今まで見たことがなかった。


「走るぞ!」


 呆けるクロエに向かって、メガラが叫んだ。

 クロはハッとして返事した。


「そ、そうだニャ!」


 そうだ。自分はまだ生きている。だったら、まだ終わっていない。

 今できる最善を尽くす。


 メガラが先頭。次にクロエ。最後尾にアルゴ。

 三人は大地を駆ける。


 アルゴは走り続けながらも背後に気を配っていた。

 分かっていた。このまま逃げ切れるほど、あの大将軍は甘くない。

 後ろを覗き見る。


 炎が逆巻いていた。

 その中心には、大将軍アレキサンダー。

 力を溜め込むような気配。

 それに呼応するように炎が激しさを増す。


 もう一発……くるか。


 アレキサンダーは、もう一度大技を放とうしている。

 遮蔽物の無いこの荒野では、あの大技を躱すのは不可能。

 ならば、また斬るしかない。


 もう一度、できるだろうか。


 自信がなかった。

 魔術は苦手だ。そもそも、魔術、といえる代物ではないのかもしれない。


 だが、やらなければならない。

 やらなければ全員死ぬ。


 アルゴは集中する。

 もう一度、風の刃を顕現させようと、精神を研ぎ澄ませる。


 だが。


「で……できない」


 まずい。風の刃が現れない。

 さっきのあれはマグレなのか。


「く、くっそ! 出ろよ! 出るんだ!」


 苛立ちを露わにして必死にそう叫ぶが、できないものはできない。


 全身から汗が噴き出すような感覚だった。

 焦り。ただひたすらに焦った。


 だが、焦れば焦るほど成功から遠のいていく。


 アレキサンダーから、もう間もなく大技が放たれる。

 アルゴの鋭い感覚が、そう告げていた。


「俺たちは……ここまでなのか……」


 諦めるようにそう呟いた。


 だがここで、その諦観を吹き飛ばすような事態が発生した。


 突然、強い揺れが発生した。

 大地が揺れる。


「じ、地震!?」


 揺れは収まらない。

 それどころか、激しさを増している。


 そして、大地が引っ繰り返るかと思うほど強く揺れた時、地割れが発生した。


 地割れは広範囲に広がる。

 大地が裂ける。


 ソレは、裂け目から現れた。


 大地の切れ目から、巨大な影が伸びる。


 天に高く伸びるその影は、超巨大な―――蛇。

 その全長は約三十メートル。

 生物としての常識を無視した破格の巨体。


「な、なんだ……あれは……」


 アルゴは足を止めて巨大な蛇を見ていた。

 アレキサンダーの脅威は、この時点で頭から消し飛んでいた。


「あれは……」


 そう呟くのが聞こえた。

 それはメガラの呟き。


「メガラ……あれは……なに?」


 アルゴはついそう尋ねてしまった。

 何故だろう。何故か、メガラが答えを持っているような気がした。


 メガラは答える。


「あれは、大地を飲み込む蛇。―――ヨルムンガンド」


「ヨルムン……ガンド?」


 ヨルムンガンドは鋭い目で、ある人物を捉えた。

 ヨルムンガンドが見据えるのは、アレキサンダー。


 次の瞬間、ヨルムンガンドはその巨体を地上に向かって叩きつけた。


 大きな振動が発生し、大地に衝撃が駆け巡る。


 アレキサンダーはヨルムンガンドに潰された。


「な、なんだこの状況……。俺はどうすればいい……」


 アルゴは混乱の極みにあった。

 現実離れしたこの出来事を受け入れることができない。


 その時、誰かの叫び声が聞こえた。


「皆様! 乗ってください!」


 アルゴは、その人物を覚えていた。

 太り気味で純朴そうなその男のことを。

 サントールの相棒、テルモイだ。


 突然のテルモイの登場に戸惑うアルゴたち。


 テルモイは、必死の形相で大声を上げた。


「早く!」


 テルモイが駆るのは馬ではない。

 それは、全身を赤い鱗で覆われた、巨大な蜥蜴。

 馬の二倍ほどの体躯で、炎に耐性のあるその蜥蜴は、サラマンダーと呼ばれている。

 本来獰猛で人を襲う魔物である。


 だというのに、テルモイはそのサラマンダーを手懐けていた。


「アルゴ! クロエ! 状況が飲み込めんが、今はこいつの言う通りにするぞ!」


「でも!」


「余を信じろ!」


 アルゴはこの一瞬で考える。

 テルモイはアルテメデス兵だ。

 つまり敵だ。テルモイの言う通りに行動するのは不安がある。


 だからアルゴは、テルモイのことは信じない。

 アルゴは、メガラのことを信じることにした。


「分かった!」


 アルゴとメガラはサラマンダーの背中に飛び乗った。


 それから、アルゴは右手を伸ばした。


「クロエさん! 乗ってください!」


 クロエは灰色の髪を掻き乱して、大声を上げた。


「ああ! もう! わけがわからないニャ! もう、どうとでもなれ!」


 クロエはアルゴの手を取って、サラマンダーの背に飛び乗る。


 三人が乗ったことを確認し、テルモイは手綱を握りしめ直した。


「行きます!」


 そうして、サラマンダーは荒野を駆け始めた。

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