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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第一章

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12.横槍

 ベインの額から汗が流れた。

 アルゴから放たれる剣を防ぎながら、ベインは思う。

 これ程の危機感を感じたのは、本当に久しぶりだった。


 アルゴの剣が放たれる度に、ベインは死を幻視した。

 的確に急所を突いてくるアルゴの剣は、まさしく死の刃。

 一瞬でも気を抜けば狩られる。


 ベインは極限まで集中力を研ぎ澄ませ、アルゴの剣を受け続ける。

 反撃に打って出たいが、それは無理だった。


 アルゴの動きが進化している。

 剣速が上がり、繰り出される刃の精度が増している。

 防御が甘いという弱点は未だにあるが、それを帳消しにするほどの剣速だった。


「あなたの動き、とても参考になります」


 戦いの最中、アルゴがそう言った。

 ベインは返事をしなかった。

 返事をする余裕がなかった。ベインは内心、激しく動揺していた。


 こいつ! 俺の動きを盗んでやがるのか!


 素人同然だったアルゴの剣術は、今や上級者の域に達している。

 驚くべきことだった。ものの数分で、これ程までに上達するなど信じられない。


 そう思った時、ベインの胸の内に別種の感情が押し寄せた。


 それは、恐怖。


 アルゴの才能に恐怖した。底知れぬ殺しの才能に震えた。


「ば、ばけも―――」


 自然と口から漏れたその言葉は、途中で止まった。

 アルゴの鋭い斬撃によって、ベインの掌から剣が弾き飛ばされてしまった。


 無手となったベイン。

 そのベインへと、アルゴの剣が迫る。


 ベインの首を刎ねようと、アルゴの剣が振るわれる。


 ベインは死を覚悟した。

 そして後悔した。相手の力量を見極めれず、愚かにも少年と戦うことを選んだ自分の選択を。


 しかし、ベインの死を許さぬ者が、この場には一人いた。

 ベインの首が刎ねられる直前、金属音が鳴り響いた。


 それは槍だった。槍がアルゴの剣を止めたのだ。

 銀色に輝く穂と、黒塗りの長い柄。

 直槍(すぐやり)に分類されるその槍を突き出したのは、エルフの女―――リューディアだった。


 文字通り横槍を入れられたアルゴは、一旦距離を取ることを選択した。

 後ろに跳んで、ベインとリューディアから離れる。


「す、すまねえ……リューディア」


「いいえ、むしろ遅くなってごめんなさい。あの子、私の方にも注意を向けていたから、割って入る隙がなかなか見つからなかったのよ……」


「そうかい……そりゃあとんでもねえな。あれは化け物だ。二対一でも勝てるかどうか……」


「ええ、そうね……」


 ベインとリューディアがそのように会話している間、アルゴは思考を巡らしていた。


 一対二か。


 青髪の剣士に、槍使いのエルフ。

 どちらもそれなりに強い。

 青髪の剣士の実力は言うに及ばず、エルフも高い実力を備えている。

 エルフの槍術は、おそらく達人の域。

 それは、突き出された槍の鋭さから明らかだった。


 まあ、別にいいか。

 少し苦戦するかもしれないけど、きっと俺ならやれる。


 青髪の剣士から色々と学んだ。効率のいい剣の動かし方や、体の捌き方。

 自分でも分かる。少し前の自分よりも格段に強くなっている。

 

 アルゴは息を吸い、軽く吐いた。

 スッ、と己の感情を削ぎ落した。余分を排除し、敵を殺す人形と化した。


「いきます」


 そう宣言し、アルゴは動き出そうとした。

 しかし、次の瞬間、アルゴは動きを止めた。


 槍が地面へと放り投げられた。

 それは、リューディアの槍だ。


 リューディアは槍を放棄し、両手を上げた。

 それから、アルゴに言う。


「私たちの負けよ。このまま戦っても、私たちは勝てない。それなら、私は一縷の望みに懸ける。もう君たちのことは詮索しない。だから、どうか……」


 アルゴは判断に迷った。このまま戦うべきか、剣を下ろすべきか。

 黙り込むアルゴの代わりに返答したのは、メガラだった。


「よい心がけだ。余は無駄な殺生は好まん。そちらが矛を収めるならば、余の騎士もまたそうしよう」


 メガラはそう言うと、アルゴに視線を向けた。

 アルゴはメガラの意思に従った。剣を鞘に収めた。


 リューディアは胸を撫でおろし、ベインに言う。


「さあ、ベインも」


「分かった……」


 そう言ってベインは、短剣の柄から手を放し、両手を上げた。


 戦う意志を放棄したリューディアとベインに、メガラは言う。


「さあ、余の前からとっとと失せよ」


 少し間を置いて、リューディアは言う。


「その前に、一つだけ教えて欲しい。私は真実が知りたい」


「……言ってみろ」


「焼け焦げた死体は、私たちの同胞よ。同胞を殺したのは、君たちなの?」


「違う。死体は、我らがこの村を訪れた時から在った。だが死体を燃やしたのは余だ。雨風に打たれ続けるのが不憫に思えてな」


 リューディアは、メガラの紫の瞳を見据えた。

 数秒間そうしたのち、ようやく口を開いた。


「分かったわ。その言葉を信じましょう」


「そうか。では、分かったのなら―――」


「少し待って欲しいの」


「まだ何かあるのか?」


「君たちのことは詮索しない。それは約束するわ。でもその代わり、力を貸して欲しい」


「なにを言っている?」


「君たちの―――少年の強さは本物よ。その強さをアテにさせて欲しい。どうか、私たちと共に戦って欲しいの」


「……ふむ。どうやら訳ありみたいだな。いいだろう、話ぐらいは聞いてやってもよい」


「か、感謝するわ!」


「だが待て。話を聞く前に一つ教えろ」


「ええ、いいわ」


「報酬はあるのだろうな?」


「勿論」


 それを聞いて、メガラは口元を緩めた。

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