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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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113.一騎打ち

 乾いた大地。巨大な岩が点在する荒野


 二頭の馬が荒野を駆けている。


「急ぐニャ!」


 クロエが声を上げた。

 その顔には焦りが浮かんでいる。


 アルゴはクロエのすぐ後ろを馬で駆けていた。


 アルゴの後方、約二百メートルにアルテメデス軍の騎馬隊。

 確実に追ってきている。


 立ち止まって騎馬隊を迎撃することは可能なのかもしれない。

 だが、それは悪手だろう。この荒野は、各地にアルテメデス軍の砦や施設がある。

 足を止めればそれだけ、それらの施設から放たれる増援に包囲される可能性が高まる。

 ゆえに、敵軍に包囲される前に、一刻も早く荒野を抜けなければならない。


 アルゴたちを乗せた二頭の馬は、異常とも言える速度で荒野を駆けていた。

 まるで、自らの命を削りながら駆けているような、そのような気配をアルゴは感じ取った。


 クロエはアルゴに「馬に言い聞かせておいたから」と言った。

 アルゴを乗せた馬は、アルゴが何もせずとも全速力で駆けている。

 おそらくクロエには、動物と意思疎通を図る能力が備わっているのだろう。

 アルゴは聞いたことがあった。稀にではあるが、獣人族の中にそのような能力を備えた者たちがいることを。


 アルゴは後ろを覗き見た。

 後方には、砂埃を上げながら追いかけて来るアルテメデス軍の騎馬隊。

 その騎馬隊の姿が、だんだん小さくなっていく。


 引き離せる。


 アルゴがそう確信した瞬間、ソレは起きた。


 アルゴたちの後方より、炎の球が空に打ち上がった。

 炎の球は、猛スピードでアルゴたちを追い越し、アルゴたちの前方地面に着弾。


 着弾後、炎の球は弾け、荒野に炎が燃え広がった。

 炎は凄まじい勢いで燃え広がり、荒野に炎の壁が出現。


 現出した炎の壁。

 その炎に、動物たちは怖気づいてしまう。


 馬は脚を止め、その場で激しく暴れ始める。


「ど、どうどう! 落ち着くのニャ!」


 クロエは必死に馬をなだめるが、馬を落ち着かせることは難しかった。


「まずいニャ」


 後方より迫りくるアルテメデス軍の騎馬隊。

 その騎馬隊との距離は、もうあとわずか。


「クロエさん!」


 馬を制御することはアルゴには不可能だった。

 アルゴは馬を下りてクロエの元まで近寄った。

 

「お前たち。こうなったら覚悟を決めるしかあるまい」


 そのメガラの言葉を聞いて、アルゴとクロエは表情を引き締めた。


「うん。メガラの言う通りだ。もう戦うしかない」


「しかたないニャ」


 そう言って、三人はアルテメデス軍の騎馬隊を見据える。

 三人共、腹を決めた。ここで戦う。


 だがアルテメデス兵たちは、アルゴたちと一定の距離を取って馬を止めた。

 それ以上、近づいてくることはなかった。


 なんだ?


 疑問に思うアルゴ。

 それでも、警戒を続ける。


 それから数十秒後、一人の男がアルゴたちに近付いてきた。

 あれだけ兵士がいるのにも関わらず、たった一人で。


 若い男だった。

 年齢は二十代だろう。

 長身で逞しい体躯。だが、巨漢というほどではない。

 極限まで無駄を削り落とした肉体。そう表現できるかもしれない。


 燃えるような赤い髪に、精悍な顔つき。

 只ならぬ気迫を男は放っている。

 その男を見た者は、その男をこう表現するかもしれない。


 伝説に登場する英雄、と。


 その男は、徒歩で近づいてくる。

 ゆっくりと。悠然と。確かな足取りで。


「まずいぞ……」


 メガラがそう呟くのをアルゴは聞いた。


「メガラ?」


「アルゴよ。決して気を抜くな。全力で戦いに臨むのだ」


「う、うん。それは勿論。……あの人が誰か知ってるの?」


「ああ。奴の名はアレキサンダー・ローグレイウッド。奴は―――大将軍の一人だ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 アルゴたち三人の背後には炎の壁。

 その炎は、勢い良く燃え続けている。

 壁の高さは約十メートル。長さは約五十メートル。

 激しい炎は馬たちに恐怖心を与え続ける。

 馬はもう一歩も動かない。


 前方にはアルテメデス軍の騎馬隊。

 兵士の数は二百といったところか。


 兵士たちは、アルゴたちと距離を取って待機している。

 兵士たちは動かない。

 だが、一人だけ例外がいた。


 その人物こそが、アルテメデス帝国の大将軍、アレキサンダー・ローグレイウッド。


 アレキサンダーは、アルゴから約三メートルの位置で立ち止まった。


「貴公がアルゴ……で相違ないか?」


 アルゴは、コクっと頷いた。


 それを見てアレキサンダーは、固い表情を崩さずに言う。


(それがし)は、アレキサンダー・ローグレイウッド。アルテメデス帝国大将軍の一人にして、マグヌス陛下より、ルタレントゥム領の守護を命じられている者だ」


 アルゴは返事をしなかった。

 警戒を解かず、相手の出方を慎重に窺う。


「その気配。貴公が只者ではないことは分かる。クリストハルトを討ったというのは、真であったか」


 アルゴは更に警戒を強めた。

 クリストハルトを討ったという事実を知っていながら、単独でこちらに近付いてきたこの男。

 それほど、強さに自信があるということか。


「某は貴公に一騎打ちを申し込む」


「一騎打ち?」


「拒否するか? 別に構わんが、貴公らと戦うことは確定している。もし拒否した場合、あれらが動き出すことになるが」


 アレキサンダーは、そう言って背後で待機する騎馬隊を親指で指し示した。


「もし俺が一騎打ちに勝った場合、どうなるんですか?」


「それは勿論、貴公らを見逃そう。この約定は、某が死んだあとも守られる」


 アルゴにとっては願ってもない提案だった。

 どちらにしろ戦うのなら、一対一の方がいいに決まっている。


 アルゴは背後にいるメガラへ顔を向けた。


 メガラはゆっくりと頷いた。

 アレキサンダーの提案に乗れと、メガラは言っている。


 だが、アレキサンダーの言う約定が守られる保証はない。

 しかし、兵士たちに邪魔をされず大将軍と一騎打ちできるこの状況は、アルゴにとっては間違いなく好機だった。


「その一騎打ち、了承します」


「それでこそだ」


 そう言ってアレキサンダーは、右の拳を空へ突き上げた。


 それは合図だった。


 アレキサンダーの後方で待機する騎馬隊が、一斉に「応」と声を上げた。

 そして、騎馬隊は幾つもの旗を掲げる。

 玉座と魔方陣が描かれたその旗は、アルテメデス帝国の国旗。


 国旗が風になびく。


 今にも騎馬隊が動き出しそうな気配であったが、アレキサンダーの指示に従い、勝手な行動をする者はいなかった。


 騎馬隊の一団から一騎の騎兵が駆けてくる。


 その兵士はアレキサンダーの傍で馬を止め、馬上から降りた。

 そして、跪いて武器を掲げた。


 アレキサンダーは、掲げられたその武器を左手で受け取った。

 兵士は役目を終えた。再び馬に乗り、騎馬隊の元に帰っていく。


 アレキサンダーは武器を頭上で振り回し、武器と体の動きを確認。

 風を切る音を鳴らしたのは、アレキサンダーの身の丈を超す長さのハルバード。

 斧と槍を合わせたような形状の長柄武器である。


 ハルバードを振り回したアレキサンダーは、柄頭を地面に打ち付けた。


 その瞬間、ハルバードに変化が起きた。


 ハルバードから、細く白い煙が上がる。

 その原因は熱。

 ハルバードが、次第に赤く輝き始める。

 それは、溶岩がハルバードに纏わりついているような様子であった。


 ハルバードは、灼熱の武器と化した。


「すまぬ。待たせたな」


「いえ……」


 アルゴは、そう返事をしながら考察をする。

 何故ハルバードが赤く輝いているのか。

 それは勿論、アレキサンダーの技だろう。


 魔術とは違う。クリストハルトもそうだった。

 あれはきっと、存在の力。

 アレキサンダーは、存在の力で炎を支配している。


 アレキサンダーは間違いなく強敵。

 勝てるだろうか?

 いや、勝たなければならない。

 自分が負ければ、メガラとクロエはどうなる?

 負ければ全てを失う。


 絶対に勝つ。


「貴公、準備はよいか?」


「はい。いつでも」


「よかろう。では、いざ尋常に―――」


 アルゴとアレキサンダーは同時に息を吸い、同時に言葉を吐いた。


「「―――勝負」」

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