表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/250

112.脱出

「アルくん! 急いで逃げるニャ! メガちゃんを起こすのニャ!」


「は、はい!」


 メガラのことをアルゴに任せて、クロエは死亡したサントールの衣服の内側を探った。


「あった」


 クロエは鍵を見つけた。

 そして、その鍵でアルゴとメガラの拘束を解いた。


「これは一体、どういう状況だ?」


 目を覚ましたメガラが、周囲を見回しながらそう尋ねた。


「メガちゃん、今は説明している時間はないニャ。とにかくここから脱出するニャ。アルくん、この鍵で両手の枷を解いて欲しいのニャ」


「了解です」


 アルゴは渡された鍵でクロエの両手の枷を外した。

 これで三人共、枷から解放された。


「さあ、脱出ニャ!」


「はい!」


「ああ!」


 クロエの呼びかけにアルゴとメガラは返事をした。

 それから三人は牢屋から外に出た。


 牢屋を出て薄暗い通路を駆ける。

 通路は静かだった。見張りは見当たらない。


「多分ここは、荒野に存在するアルテメデス軍の砦だと思うニャ。ジュライ村からそれほど離れているとは思えないのニャ。だからここから脱出して、荒野を突っ切るニャ」


「うむ。穏便に荒野を抜けたかったが、こうなっては仕方なかろう。アルゴ、お前が頼りだ」


「分かった!」


「いいお返事ニャ。アルくんの実力、見せてもらうニャ」


「が、頑張ります!」


 アルゴの返事を聞いて、メガラはわずかに笑った。

 緊張を露わにするアルゴ。

 その様子を見て、誰がアルゴのことを強者と思うだろうか。

 だが、この少年は途轍もない強さを秘めている。


 アルゴの背を見つめるメガラだったが、ふと左側から声が聞こえた。


「レイネシア?」


 牢屋の中に女がいた。

 その女が、格子を握りしめてメガラのことを見ていた。


 メガラは立ち止まってしまった。

 女の容姿を見て確信した。


 水色の髪。頭から生えたツノ。

 頬は痩せこけているが、顔立ちそのものは整っている。

 その顔は、メガラの顔とよく似ていた。


「レイネシア……よね?」


 女は目を見開いてメガラを見ている。


「ああ……レイネシア。……信じられない。生きていて……くれたのね」


 女の瞳から涙がこぼれ始める。


「よ……余は……」


 言い淀んでしまうメガラ。

 流石のメガラも、返す言葉を躊躇ってしまう。


 クロエは、固まるメガラの肩を掴んだ。


「メガちゃん! 急がないとまずいニャ!」


「わ、分かっている……だが……」


 クロエは、メガラの肩を掴む握力を強めた。


「この人が誰なのかは察しが付くニャ。メガちゃんの気持ちは分かってるつもりだニャ。だけど、この牢屋を開ける鍵がないニャ。クロエたちが今優先しなければならないことは、ここから逃げ出すことだニャ」


「あ、ああ……分かって―――」


「だけど、もし心の底から願うのなら、クロエはそれに協力してもいいニャ。だから、選ぶニャ。ここから逃げ出すことを優先するか、それともこの人を助け出すことを優先するのか。時間がないニャ。いますぐ、決めるニャ」


 メガラはこの一瞬で考えた。

 現状、三人共武器を持っていない。武器は奪われた。

 武器の無い状態で敵地に留まるのは、命を投げ出す行為に等しい。

 だから、少しでも早く敵地から脱出しなければならない。

 それでも、命を懸けてまでこの女を助けるべきなのか。

 何の為に、ここまで進んできたのか。何の為に、これまで戦ってきたのか。

 それを考える。


 これまで死んでいった者たちの顔が脳裏によぎった。


「……すまない」


 そう呟いて、メガラは顔を上げた。


「お前たち、行くぞ!」


 メガラは走り出した。

 アルゴとクロエはそのあとに続き走り出す。


「レイネシア!? 待って! どこに行くの! 待って!」


 背後から叫び声が聞こえたが、メガラは振り向かなかった。


 そのまま走り続けた。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 長い階段を昇り切り、一階へ到達。


 そこは、広間となっていた。

 縦に長い机と、沢山の椅子が置かれている。

 おそらくここで食事を取ったり、話し合いをしたりするのだろう。


「なっ! き、貴様ら!」


 怒りの声を上げたのは若い兵士だった。

 地下から飛び出して来たアルゴたちを見て、慌てたように立ち上がった。


 広間にいる兵士は三人だった。


 アルゴは即座に動いた。

 兵士に接近し、右足を兵士の顎に蹴り上げる。

 直撃。兵士は一瞬で気絶。


 その後アルゴは、しゃがみ込んで背後から迫る兵士の剣を躱した。

 アルゴは、しゃがみ込んだ姿勢のまま回転蹴りを繰り出した。

 蹴りは兵士の左足に直撃。

 兵士が怯んだ隙を突き、アルゴは頭突きを放った。

 頭突きが兵士の顎に炸裂。兵士は呻きを上げて気絶。


 これでアルゴは二人の兵士を倒した。

 残りは一人。


「ニャー!」


 とクロエの掛け声が響いていた。


 クロエは身軽な動きで兵士の剣を躱し続ける。

 クロエの目がキラリと光った。


「そこニャ!」


 兵士の隙を突いて、クロエは右足を蹴り上げた。

 クロエの蹴りは、兵士の股間へ直撃。


「―――ぎッ!?」


 兵士が奇妙な声を上げた瞬間、クロエは華麗にバク転を決めた。

 クロエのつま先が兵士の顎先に直撃。

 兵士は背中から倒れ、そのまま気絶した。


「やるではないか、クロエ」


「ニャハハッ! もっと褒めていいのニャ!」


 メガラの称賛を受け、得意げな顔をするクロエ。


 そんなクロエを置いて、メガラは周囲を見渡してから言う。


「それにしても三人だけか。思ったより手薄だな」


「そうだニャ。多分ここは、小規模な砦だと思うニャ。これはツイてるニャ」


「ああ。だが油断するな。外がどうなっているかは分からん」


「了解ニャ!」


 三人は走り出した。

 外へと通じる扉を開放。


 外には、訓練を行う兵士たちがいた。

 数は約二十人。


 この程度の人数ならば、アルゴにとっては大した数ではない。


「罪人が脱走しているぞ!」


 兵士たちは剣や槍でアルゴたちに襲い掛かる。


 アルゴは広間で倒した兵士が持っていた剣を拾っていた。

 剣を振って、襲い来る兵士たちを斬り伏せていく。


 兵士の剣と槍を躱し、隙を突いて兵士の体に刃を走らせる。

 兵士の剣と槍はアルゴにかすりもせず、逆にアルゴは兵士の急所を的確に突いていく。


 段々と、兵士の数が減っていく。

 周囲が赤く染まり、死体が増え続ける。


 そして兵士は、残り一人となった。

 その兵士は、槍を捨てた。


「ば、化け物!」


 と叫び、兵士は逃げ出した。


 アルゴは後ろにいるメガラへ顔を向けた。

 追うべきか、追わざるべきか、判断を仰いだ。


 メガラは頭を横に振った。


「追わなくていい」


「分かった」


「……すまない、アルゴ」


 周囲には兵士の死体。凄惨な光景が広がっていた。


「メガラ、俺は決めたんだ。俺は自分で選んでここに立っている。だから……謝らなくていい」


「そう……だったな」


「うん。さあ、指示をくれ。これからどうする?」


「それは勿論、ここから逃げ出す―――」


 メガラは途中で言葉を止めた。

 メガラの脳裏に浮かぶのは、地下の牢屋で囚われている女の姿。


 この砦の規模は小さい。

 駐在している兵士は二十人程度だった。

 その兵士たちは全て無力化した。

 もう邪魔するものはいない。

 であれば、あの女を救い出せるのではないか……?


 その時だ、上空からクロエの声が聞こえた。


「やばいニャ! 急いでここから離れるニャ!」


 クロエがいつの間にか(やぐら)に昇っていた。


 メガラは上を見上げて叫び返す。


「どうした!?」


「兵士たちニャ! 兵士たちの塊がこっちに向かって来てるニャ! 多分、巡回中の兵士たちが戻ってきたのニャ!」


「なに!?」


 メガラは考える。

 アルゴならば、その兵士たちを蹴散らせることはできるだろう。

 だが、それは本当に必要なことだろうか。

 避けられる戦いなのであれば、避けるべきではないだろうか。


「お前たち! 逃げるぞ!」


「了解ニャ!」


 クロエは身軽な動きで櫓から下りて、厩舎(きゅうしゃ)の方へ走り出した。


 厩舎からクロエが連れ出したのは、二頭の馬。


「アルくん! そっちの馬に乗るニャ!」


「え、でも俺、馬を操れません」


「大丈夫! クロエが言い聞かせておいたから問題なしニャ!」


「ど、どういうことですか?」


「アルくんは乗ってるだけでいいニャ!」


 そう言われても困る。

 とアルゴが頭を悩ましていると、驚くことが起きた。


 馬がアルゴの傍まで近付き、自ら身を屈めたのだ。


「え?」


「馬くんも乗れって言ってるニャ!」


 驚いたが、クロエの言う通りだった。


「わ、分かりました」


 アルゴが慎重に馬の鞍に跨った瞬間、馬が嘶いた。


「う、わッ!」


 馬は勢いよく前脚を上げた。


「さあ、行くニャ!」


 クロエはメガラを鞍に乗せたあと、自らも鞍に乗る。

 手綱を握り、馬を走らせた。


 クロエとメガラを乗せた白い馬。

 アルゴを乗せた黒い馬。


 二頭の馬は荒野を駆ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ