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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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111.冷たい場所で

 目を覚ました時、頬に冷たい感触を感じた。


「……ん」


 顔を上げて周囲を確認した。


 暗い場所だった。

 冷たい黒い床。黒い壁。

 そして、目の前には鉄の格子。


 間違いなく牢屋だ。


 食事に睡眠薬を盛られ、眠っている間にここに放り込まれたのだろう。

 牢屋に入れられてしまった。


 しかも、両手と首には枷をはめられている。

 首の枷には鎖が装着されており、その鎖の先は壁と繋がっている。


 当然、武器は奪われている。

 ここを自力で脱出するのは不可能だった。


 だが不幸中の幸いというべきか、仲間たちの安否は確認することができた。

 メガラとクロエは、すぐそ傍で眠っていた。

 二人とも枷をはめられた状態ではあったが。


 アルゴはまず、クロエの方に近付いた。


「ク、クロエさん。起きてください」


 両手に枷をはめられてはいるが、肩を使ってクロエの体を揺するぐらいはできる。


「……ニャ?」


 クロエは目を覚ました。

 寝ぼけた様子で口を開いた。


「……アルくん? え……まさかこの状況」


「はい。捕まってしまったようです」


「まいったニャ。不覚を取ったニャ。ごめん、アルくん」


「いえ。俺も悪いです。完全に油断してました。まさか村長が……」


「いやたぶん、サントールの仕業だニャ。デイ爺はサントールの指示に従っただけ。あの村の住人は、アルテメデス帝国軍の兵士には逆らえないのニャ」 


 その時、クロエの猫耳がピクリと動いた。

 クロエの猫耳は足音を捉えた。

 足音はこちらに近付いてくる。


 その者は牢屋の前で立ち止まり、ニヤリと笑った。


「よう、起きたか」


「サントール!」


 クロエは威嚇するようにサントールを睨みつけた。


「どうどう、落ち着けよクロエ」


「目的は何ニャ! お前は何がしたいのニャ!」


「俺だってな、悪いとは思ってんだよ。確かに俺はクズだが、誰かを陥れて喜ぶような最底辺の男じゃねえよ。けどよお……クロエ、やっぱりお前が悪い」


「はあ?」


「お前が俺の気持ちに応えてくれりゃあ、こんなことにはならなかったんだ」


「言ってる意味が分からないのニャ」


「本当に? 本当に分からねえか?」


「……」


 クロエは少し間を取ってから答えた。


「分かったニャ」


「……分かってくれたか。嬉しいぜ、クロエ」


「お前の望み通りにしてやるから、この二人は解放するニャ」


「ク、クロエさん!」


「大丈夫ニャ、アルくん。クロエに任せるニャ」


「で、でも……」


「おい少年、余計な口を挟むんじゃねえよ。俺はな、お前とそこの魔族の子供には少しの興味もねえんだ。お前らが誰だろうとどうでもいい。だからよ、大人しくしてりゃあ解放してやるよ」


「くッ……」


 クロエは、それ以上アルゴが何か言う前に発言した。


「じゃあ早くこの二人を開放するのニャ」


「まあ慌てるな。まずはお前の首の鎖を外してやる。お前は別の場所に移ってもらう。そこでゆっくりと、お話をしようじゃないか」


 サントールは、厭らしい笑みを浮かべて牢屋の鍵を解いた。

 その後、牢屋を開けてクロエの方へと近付く。


「両手の枷はそのままにさせてもらうぜ。外すのは首だけだ」


「分かったから早くするニャ」


 サントールは、クロエの首にはめられた枷の鍵穴に鍵をさしこむ。

 ガチャ、と音を立て枷が外された。


 これでクロエは、牢屋の外へ出れる状態となった。


「じゃあ行くぞ。安心しろ。そこの二人は、あとでちゃんと開放してやるからよ」


「分かったニャ」


 サントールとクロエは歩き出した。


「ま、待って下さ―――」


 アルゴはクロエの背中に声をかけるが、途中で言葉を止めた。

 クロエがアルゴの方を向き、右目でウィンクをしたのだ。


 大丈夫だから任せて。


 アルゴには、クロエがそう言っているように思えた。


「おい、なに止まってんだ? 早く行くぞ―――」


 サントールが後ろを振り向いた時、クロエの牙が見えた。


「―――なッ!」


 サントールは咄嗟に防御した。

 クロエの牙は、サントールの首を噛み千切ることができなかった。

 その代わり牙は、サントールの右腕に突き刺さった。


「い、いってえッ!」


 サントールの右腕から血が流れる。


「く、くっそ! クロエ、どういうつもりだ! 俺がせっかく、優しくしてやってんのによお!」


「優しく? ハッ、お前の優しさなんか、クソくらえニャ」


「クロエ……クロエ! どうしてだ! 俺は、俺はな! 本気なんだ! どうして! どうしてそれが伝わらない!」


「ペッ。お前はクソだニャ」


「くそが! この状況分かってるのか!? そこの二人はどうなってもいいってか!?」


「あ、そうそう。お前はクソだけど、答えを返さなきゃならないニャ」


「答え……だと?」


「そう。ソレが答えだニャ」


 クロエはニッコリと笑った。


「ソレってのは何だ?」


 そう尋ねた時、サントールは顔をしかめた。


「な、なんだ……?」


 突然、サントールは息苦しさを感じた。

 そう感じた瞬間、今度は強烈な吐き気に襲われる。


「うっ……これは……」


 サントールは片手で喉を押さえ、床にうずくまってしまった。


 サントールの顔がどんどん変色していく。

 肌色から茶色に。茶色から赤に。最後には紫色に。


「これは……毒か?」


「そうニャ。毒死。それがお前の死因だニャ」


 クロエはニヤリと笑いながらそう言った。その口元には鋭い牙が見えていた。

 サントールは理解した。

 クロエの牙に毒物が塗られていたのだろう。

 クロエの牙に刺された時、毒を流し込まれてしまったのだ。

 クロエが平気そうにしている理由は分からないが、クロエは薬師だ。

 毒に対する何らかの対抗策があるのだろう。


「がっ……あ……あっ……」


 サントールはもう、意味を持った言葉を発することができなかった。

 意識が薄れ、ついには床に頭をぶつけてしまう。


「サントール。お前は哀れで愚かな奴だニャ」


「あ……うっ……」


「だけど、クロエには他人のことをとやかく言う資格はないニャ。クロエもお前と同じニャ。だから次は……お互い真っ当になってるといいニャ……」


 そのクロエの言葉が聞こえた直後、サントールの心臓は鼓動を止めた。

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