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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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109.荒野の村

 アルゴたちを乗せた馬車は、村に辿り着いた。


 荒野の中に存在する魔族の村。ジュライ村である。


 この村の魔族たちは奴隷ではない。

 だが、実質的には奴隷と言ってもいいかもしれない。


 この村の魔族たちは、伝統的に鍛冶屋を生業にしている者が多い。

 作成した武具を定期的にアルテメデス帝国に納める代わりに、自由を許されているのである。


 奴隷とは、誰かの所有物である。

 奴隷にはあらゆる自由がない。勝手に食事や睡眠を取ることは許されておらず、娯楽に興じることも、仲間内で集まることもできない。

 この村の魔族たちは、一応それらが許されている。


 定められた武具を納めることさえ出来ればだが。


 馬車から下りたメガラは、日光に目を細めながら村の様子を眺めた。


 土と泥で造られた家が、あちこちに点在している。

 鉄を打つ音が聞こえる。

 それは鍛冶の音。

 定められたノルマをこなさなければならない。

 村の者たちは必死だった。


 今やルタレントゥムとその周辺に生きる魔族たちは、その多くが奴隷。または、奴隷に類する者であった。


「これが……現実なのだな」


 メガラはポツリと呟き、過酷な現実を目に焼き付けた。


 そのメガラの目線の先に、一人の魔族。

 その魔族がこちらへと近付いてくる。


「これはこれは、兵士様。本日は如何されましたでしょうか?」


 その魔族は老人だった。

 老人はへりくだってサントールに尋ねた。


 サントールはつまらなさそうに答えた。


「ああ……事情はこいつらから聞いてくれ」


 サントールはクロエの方を向いて続ける。


「クロエ、これで任務完了でいいな?」


「いいニャ」


「じゃあ、俺たちは帰るぜ」


 そう言ってサントールは、クロエの方へ近づいた。

 サントールはクロエの前で立ち止まり、じっとクロエを見つめる。


「なんニャ?」


「おいおい、無事ここまで辿り着けたのは誰のお陰だ? 何か労いの言葉はないのか?」


「はあ?」


「別に言葉じゃなくてもいい。抱きしめるとか、口づけでもいいぜ」


「……キモ」


 サントールは大きく溜息を吐いた。


「はぁ~。どうして伝わらねえかな、この俺の気持ちが。なあクロエ、俺はわりと本気だぜ?」


「シネ」


 サントールの方を見もせず、短く言葉を放つクロエ。


 サントールは肩をすくめて落胆する。


「つめてえなー」


 その後「しゃーねえ、今日はここまでだ」と言って馬車の御者台に乗り込んだ。


「テルモイ! 帰るぞ!」


「ま、待って!」


 テルモイは慌てて御者台に乗り込んだ。

 その直後、馬車が走り出した。


 馬車が消え失せた時、クロエは声を上げた。


「あー! あいつ本当に無理ニャ!」


 クロエの様子を見てメガラは言う。


「お前の帝国軍人嫌いは筋金入りだな」


「それはもう大嫌いニャ! だけど、あいつは特別に嫌いだニャ! 本当にキモすぎてやばいニャ!」


「ふむ。お前には感謝しなければならんな。余のために無理をさせてしまったな」


「メガちゃーん! クロエはメガちゃんのためなら、何だってできるニャー!」


 クロエはメガラに抱き着いて頬ずりをする。


 やめろ。とメガラは声を上げそうになったが、無理やり抑え込んだ。

 クロエは己を犠牲にして頑張ってくれたのだ。

 今だけは我慢するか。

 頭の中でそう考えて、メガラは体を固定させた。


 メガラが無抵抗なのをいいことに、クロエは頬ずりを続ける。


「……あの」


 今まで静かにしていたアルゴが口を開いた。


「ニャ? アルくん、どうしたのニャ? ああ、安心するニャ。次はアルくんの番だニャ」


「いや、そうじゃなくて」


 アルゴは前方に目を向けた。


「あの、お爺さんが困ってますけど……」


 サントールに挨拶をした魔族の老人が、困り果てた様子で立っていた。

 私はどうすればいい?

 そういった表情。


「あ……」


 それは、クロエが発した小さな声だった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 老人の名はデイロー。

 ジュライ村の村長である。


 アルゴとメガラは、村長の家で村長から話を聞いていた。


「アルテメデス帝国に敗戦してからというもの、我々の生活は大きく変わりました。我々は……奴隷ではありませんが、自由はほぼありません」


 メガラは険しい顔で尋ねた。


「帝国の縛りか?」


「はい。我々は、帝国のために日々働かなければなりません。村の者の殆どは―――女や子供でさえも、武具製作に何らかの形で関わっております。そうしなければ、帝国から課せられたノルマを達成できんのです」


「なるほどな。制度奴隷ではないが、それは……事実上の奴隷だな」


「はい」


 デイローはそう返事したあと、躊躇いながら話を切り出した。


「ところで……クロエから貴方様のことを、やんごとなき身分のかたと聞いておりますが、もしかするとエウクレイア一族のかた……で、ございますか?」


「いいや。余はただの小娘だ。お前は小娘とお喋りをしているだけ。それを心に留め置いてくれ」


「か、畏まりました。無礼をお許しください」


「謝ることはない。余はお前たちに深く感謝している。我らの歓迎、痛み入る」


「め、滅相もございません。本来であれば、村の者を集めて歓迎の儀を執り行うべきでございますが、この状況ではそれは難しく……」


「構わん。というか不要だ。言っただろう? 余はただの小娘だ」


「そ、そうでしたね」


 デイローはそう言って、床から立ち上がった。

 それから、申し訳なさそうな顔で言う。


「大変申し訳ありません。少し仕事が残っておりますので、外に出てきます。貴方様がたは、ごゆるりとお寛ぎください」


「そうか。忙しいところ悪かったな。我らのことは気にせず仕事に励むといい」


「はっ。有難きお言葉」


 と返事をして、デイローは家から出て行った。


 室内にはアルゴとメガラだけとなった。

 ちなみにクロエはこの家にはいない。

 おそらく外でフラフラしているのだろう。


「どうにか……ここまでこれたな」


「うん」


「ここはまだルタレントゥム領内だが、徒歩でも一日ほどで領内から出られるはずだ。それから北西へ進み、山を越えれば湿原地帯がある。その湿原を突きってまた山を越えれば……」


「そこに、イオニア連邦が?」


「そうだ」


「まだ先は長いね」


「そうでもないさ。余はこの地が最大の難所だと思っていた。だが、クロエのお陰でなんとかなりそうだ。ならば、もう辿り着けたと言っても過言ではなかろう」


「ハハッ。さすがに気が早くない?」


「かもな」


 そう言ってメガラは笑みを浮かべた。

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