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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第四章

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106.薬屋

 入り組んだ路地を進む。

 日の当たらない薄暗い路地だ。


 人の通りは殆どない。

 時折、浮浪者やゴロツキのような者を見かけるが、お互いに不干渉を貫く。


「ここだ」


 立ち止まり、メガラがそう言った。


 メガラの目の前には、小さな建物。

 土色の薄汚れた建物だった。

 隣接する建物との隙間はほぼ無い。


 木製の窓は閉じられており、外から中の様子を窺うことはできない。


「うん、ここだね」


 そう返事して、アルゴは頭の中にある情報と照らし合わせる。


 建物の扉には、絵が描かれていた。

 丸くなった猫と、その周囲で花の模様が描かれた、どこか芸術的な絵だった。


 この絵が目印。

 目的の場所は、間違いなくここだ。


 扉を開けて建物内に入った。

 薄暗い室内。埃が舞い、かびの臭いが充満している。

 狭い室内の両端には棚が設置されており、その棚にはガラスの瓶が置かれている。


「誰も……いないね」


「ふむ」


 メガラは顎に手をやって少し思案すると、息を吸い込んだ。


「誰か! おらんのか!」


 室内にメガラの声が響き渡った。


 それから数秒後、アルゴは誰かの呻きを聞いた。

 耳を澄ます。


「……うにゃ」


 うにゃ?


 アルゴは、聞こえてきて謎の単語に首を傾げる。


 さらに数秒後、ついにその者は姿を現した。


 室内の奥のカウンター席。

 その席の陰から飛び出すように現れた。


「ニャニャ。……あれ、お客さん?」


 その者は若い女だった。

 童顔。短めの灰色の髪。

 最大の特徴は、頭から生えた猫耳。


 この女は獣人だ。

 獣人といっても獣の血は薄く、見た目に関しては人族との違いはそれほどない。


 猫耳女の左頬には、床のあとがついている。

 どうやら床で眠っていたようだ。


 眠そうに目を擦る猫耳の女に、メガラは尋ねた。


「突然の無礼を許してくれ。お前がクロエ・ジュノーで相違ないか?」


「え? う、うん。そうニャ。というか、お客さんじゃないのニャ?」


 不思議な顔をするクロエに、メガラはある物を差し出した。

 それは、封蝋された封筒だった。


 クロエは、封蝋の紋章を見てハッとした。

 一振りの直剣と籠手を象った紋章。

 それは、黎明の剣が掲げる紋章だった。


「キミたち……何者?」


「それを読んでもらった方が早い」


「……分かったニャ」


 クロエは、封を解いて手紙を取り出した。

 黙って手紙を読み進めていく。


 手紙の送り主はリューディア。

 手紙の内容は、あたり障りのない日常の事柄。

 だがそこには、リューディアとクロエの間のみで通じる暗号が示されていた。

 クロエは、その暗号を解読した。


「これは……驚いたニャ。キミがあのメガラ・エウクレイアで、その少年が、大将軍クリストハルトを討った張本人……?」


「ああ……そうだ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



猫香風(ねこかふう)』は、クロエが営んでいる薬屋だ。

 クロエが調合した傷薬や、滋養強壮に効果があるとされる飲み薬などを販売している。

 その二階にて。


「ニャニャニャ~」


 スリスリ、とクロエはメガラに頬ずりする。

 スリスリ、と肌を合わせて臭いをこすりつける。


 メガラは眉根を寄せて口を開いた。


「……おい」


「ニャ?」


「ニャ? じゃない。これは何のマネだ?」


「何のマネって、これが獣人流の挨拶だニャ」


「嘘をつけ。そんなもの聞いたことがない」


「そうニャ? じゃあ、メガちゃんもまだまだニャ」


 それからクロエは、舌をチロッと出してメガラの頬を舐めた。


「なッ!」


 クロエの取った行動にメガラは驚き、思わず立ち上がった。


「お、お前! な、何をする!」


「ニャ? これも挨拶だニャ」


「ふ、ふざけるな! よ、余を誰と心得るか! 余はメガラ・エウクレイアだぞ! ぶ、無礼であろう!」


 メガラは顔を真っ赤にして抗議の声を上げた。


「まあまあ、落ち着くニャ。気を悪くしたら謝るニャ。とりあえず座って座って」


 クロエはそう言って、メガラの両肩を軽く叩いた。


「……ったく」


 メガラは渋々ながらも椅子に座り、腕を組んでムスッした表情を浮かべる。


「メガちゃんとの挨拶はこれで終わり! じゃあ次はアルくん!」


 クロエはアルゴに顔を向けて、優しい笑みを浮かべた。


「え、いや、俺は……」


 狼狽えるアルゴのことを気にすることなく、クロエはアルゴに顔を近づける。


「待て」


 メガラはクロエの衣服の裾を引っ張ってクロエを止めた。


「どうかしたニャ?」


「もう挨拶は十分だ。早く話を進めてくれ」


「え~。でも挨拶は大切だニャ」


「クロエ・ジュノー。一度目は注意で済ませよう。だが、二度目は言わん。余はこんなくだらんことで、お前と決別したくはない」


 クロエは見た。

 強い意志の宿るメガラの紫の瞳を。


「ご、ごめんニャ。クロエが悪かったニャ」


「分かればいい」


 クロエは大きな息を吐いて胸を撫でおろす。


「ふぃー。怖いニャあー、メガちゃんは」


「さっきから気になっていたが、そのメガちゃんというのは、もしかして余のことか?」


「へ? 勿論ニャ。メガラちゃんはメガちゃん。アルゴくんはアルくん。もしかして、これもダメかニャ?」


 メガラは目を閉じて、眉間を揉みほぐしながら答えた。


「何なんだお前は。ひどく調子が狂う。……まあいい。呼び方ぐらいは好きにさせてやる」


「ありがとニャー!」


 体で喜びを表現して、クロエはメガラに抱き着こうとする。

 メガラは、右手でクロエの額を押さえてそれを阻止。


「ニャニャニャ! なんで止めるのニャー!」


 メガラはクロエを押さえつけながら、アルゴに視線を向けた。


「アルゴよ……こいつを何とかしてくれ……」

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