103.哀悼と誓いを
天から日射しが降り注ぎ、草原を明るく照らしていた。
穏やかな風が吹き、草花が波のように揺れ動く。
メガラの水色の髪が、風になびいていた。
メガラは草原地帯に立ち、ゆっくりと言葉を述べる。
「天と大地の子よ。暁と闇の玉響はここに遂げた。現にて、其方の約定は解かれ、其方は開闢へと至らん。其は、静寂と久遠の地。まほろぼの地は、其方を迎え入れ、其方に福音がもたらされん」
静かにそう述べたあと、メガラは木箱の蓋を開けた。
両手に収まる大きさの木箱の中から、黒い粉が舞う。
それは、粉末状に砕いたツノだった。
その粉は、風に吹かれて飛散する。
その光景をメガラは見つめていた。
これは魔族流の葬儀であった。
亡くなった者のツノや、体の一部の骨を砕いて散骨するこの葬儀は、今や行う者は殆どいないが、メガラはあえてこの方法を選んだ。
メガラは、空を見つめて静かに言う。
「スキュロスよ。其方の忠義、まこと見事であった。むこうで、サラミスと酒でも酌み交わしておれ。余も……そう遠くない内にそちらへゆこう」
それっきりメガラは黙り込み、草花が揺れる音だけが聞こえた。
アルゴは、メガラの後ろで空を見上げていた。
粉となったツノは、風に吹かれて完全に消えてしまった。
アルゴは、メガラの背中に声をかけた。
「メガラ」
「……ん?」
「……ごめん。俺が……スキュロスさんを死なせてしまった。俺がもっと強ければ……」
「アルゴ。こっちにきて座れ」
メガラは手招きしながらそう言った。
アルゴは素直に従う。
メガラの元まで近づき、そっと腰を下ろした。
メガラはアルゴの隣に腰を下ろした。
「なあ、アルゴ。何が見える?」
「何って……草原……かな?」
「そうだろう。我らの前には草原が広がっている。呆れるほど広く。馬鹿らしいほど何も変わっていない。ヴィラレス砦で、青竜と鳥の化け物が激しく暴れ回ったというのに、何一つ変わっていないではないか」
「……うん」
「ではお前たちは何を成した? お前たちの成したことには、まったく意味がなかったのか?」
「……違う」
アルゴは強く否定する。
続けて言葉を放つ。
「皆を……仲間を助けることができた」
「ならば、それでよいではないか。一つでも意味があったのなら、あいつの犠牲は無駄ではなかったのだ」
「でも……俺は……」
「アルゴよ、頼む」
アルゴはメガラに顔を向けた。そしてアルゴは、何も言う事ができなかった。
メガラの瞳から、涙が流れていたから。
「それ以上は何も言うな。それ以上は……何も言わないでやってくれ」
「……うん。悪かった……」
アルゴはメガラの小さな背中に右手を添えた。
自然とそうしていた。
そして誓う。
見ててください、スキュロスさん。
メガラは俺が、必ず……。




