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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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100.空を舞う巨影

 兵士たちは見た。

 上空に浮かぶ、巨大な怪鳥の姿を。


 怪鳥は闇の中でもわずかに輝いていた。

 美しい若葉色の羽が、月の光を浴びて碧く光を発する。


「な、なんだ……あれは……」


 一人の兵士がつぶやいた。

 湧き上がる畏怖の感情。戸惑い、恐れ、崇拝。


 砦内の兵士たちは、神々しい怪鳥の姿に目を奪われる。


 しかし、怪鳥は魔に属する存在。

 決して、人を導く存在ではない。


「キイイイイイイイイイイイイッ!」


 けたたましい高音。

 それは、怪鳥の鳴き声だった。


 怪鳥は、ある一人の人間の姿を捉えていた。

 薄茶色の髪をした少年の姿を。


 怪鳥は翼を大きく羽ばたかせた。

 風が唸る。空気がざわめきだした。


 怪鳥の羽の一つ一つが高速で震え出した。

 そして、羽が射出される。

 無数の羽が、空気を裂きながらアルゴへと襲い掛かる。


 アルゴは、城壁の上を走り出した。

 怪鳥から遠ざかるように、城壁の上を駆ける。


 羽は、さっきまでアルゴがいた地点に着弾。

 羽は容易く城壁を穿った。

 まるで泥の塊に指先を突っ込むかの如く、容易に城壁に穴が空いていく。


 放たれた羽が城壁を破壊していく。

 アルゴは走り続けた。羽の脅威から逃れるために。


 やがて羽の暴雨が止み、アルゴは怪鳥に向き直った。

 上空で滞空する怪鳥を見据える。


「高いな……」


 城壁からではアルゴの攻撃は届かない。

 ゆえに怪鳥は、一方的に攻撃を続けることができる。

 アルゴは完全に不利な状況にあった。


 それでもアルゴは考える。怪鳥を殺す方法を。


 怪鳥は、合わせて四つの赤い瞳でアルゴを見下ろしていた。


「キイイイイイイイイイイイイッ!」


 再び耳をつんざく鳴き声を上げ、己の全てをアルゴを殺す事のみに傾ける。


 怪鳥の前方に、碧く輝く巨大な魔法陣が現れた。


 アルゴは城壁の上でそれを確認する。

 あの魔法陣はなにか。考えるまでもない。

 大規模な魔術の気配。


 アルゴを殺すために、怪鳥は巨大な魔術を放とうとしている。


 アルゴは息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。


 あの魔術を躱すことはおそらく無理だ。

 今から動き出したとしても、魔術に飲み込まれるだろう。


 ならば、方法は一つだ。


 魔術を斬る。


 俺ならできるはずだ。


 明鏡止水。

 曇り一つない、澄みきった世界。

 同時に、全てが見えた。全てを理解した。


 アルゴは、魔剣を上段に構えた。

 ふと、魔剣を握る手に、誰かの手が添えられる感覚があった。

 錯覚かも知れない。それでも、アルゴはわずかに笑った。


「力を貸してくれ……エマ」


 そして、闇が晴れるほど魔法陣の発光が強まりだした。


 魔法陣から魔術が放たれる。


 それは、巨大な暴風。

 ありとあらゆるものを飲み込む風の暴威。


 風の大魔術、セレスティアル・ストーム。


 暴風が押し寄せ、ありとあらゆるものを吹き飛ばす。

 大気さえも吹き飛ばし、真空が発生。


 アルゴは、魔剣を振り下ろした。

 暴風が押し寄せるが、一太刀のもとに嵐を切り捨てた。


 嵐はアルゴを避けるように分散し、城壁を破壊し尽くした。


 嵐は破壊の限りを尽くしたが、アルゴは無傷だった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「キイイイイイイイイイイイイッ!」


 上空から、けたたましい怪鳥の鳴き声が響いた。


 怪鳥は上空でアルゴの生存を確認した。

 大魔術は破壊の限りを尽くした。

 だが何故か。何故か、あの少年は生きている。


 分からない。だが、やるべきことは変わらない。


 怪鳥は、上空をゆっくりと旋回し始めた。

 翼をゆっくりと動かしながら、まるで泳ぐように空を漂う。


 風の大魔術により、アルゴが立っていた城壁は破壊された。

 そのためアルゴは、まだ壊れていない城壁へと飛び移っていた。

 アルゴは、城壁の上から怪鳥の姿を見ていた。


 怪鳥は、アルゴに攻撃を繰り出すことはせず空を漂っている。

 だがアルゴには分かった。

 あれは、再び大魔術を発動する準備をしているに違いない。


 怪鳥は、アルゴを殺せるまで大魔術を発動し続けるつもりだった。


 アルゴには何度でも大魔術を断ち斬れる自信があった。

 しかし、それをしたところで怪鳥に勝利することはできない。

 怪鳥に勝利するには、状況を変えなければならない。

 だが、そのような秘策は思いつかない。


「キイイイイイイイイイイイイッ!」


 また怪鳥の鳴き声が聞こえた。

 そして、空に碧く輝く巨大な魔法陣が出現。

 もう一度、大魔術が発動されようとしている。


 アルゴは魔剣を構えた。

 しかたがない。もう一度同じことをやるしかない。


 その時だった。

 アルゴは、聴覚と触覚で捉えた。


 口角を僅かに上げ、アルゴは走り出した。


 アルゴは走る速度を落とさず、城壁の端から跳んだ。


 不可解なアルゴの行動。

 あるいはその行動は、この場から逃げ出すように見えたかもしれない。


 しかし、そうではない。


 城壁の上から身を投げ出したアルゴは、地面へと落下していく。

 アルゴの耳には、はっきりと聞こえた。

 風を切る翼の音が。


 アルゴは着地した。

 青竜の背中へと。


「スキュロスさん! ありがとうございます!」


「フン。命知らずな小僧めが」


 青竜は忌々し気にそう呟いて、高度を上げた。

 翼を羽ばたかせて、怪鳥と同じ高度まで上昇。

 青竜は、鋭い竜の目で怪鳥を睨みつけながら言う。


「小僧。無駄な問答はせん。率直に答えよ」


「はい」


「お前は、あれを殺せるか?」


「殺せます」


「……よかろう」


 青竜は翼を動かしながら続けて言う。


「一度だけだ。一度だけ、あれに近付いてやろう。小僧は、確実にあれの息の根を止めろ」


 スキュロスは理解していた。

 自分の力では、あの怪鳥を殺すことはできない。

 邪竜の血を取り込み、巨大な力を得たが、それでもあの怪鳥には勝てない。


 怪鳥に近付くだけでも、大きな危険を伴う。

 近付けば大きな反撃を喰らうだろう。

 ゆえに、一度きり。

 それが、スキュロスにできる限界だった。


「征くぞ! 小僧!」


「はい!」

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