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1.奴隷の少年

 大陸中央部に二つの大国が存在する。

 一つは東側に位置する人族の国家、アルテメデス帝国。

 もう一つは西側に位置する魔族の国家、ルタレントゥム魔族連合。


 大陸中央部で覇を競う二国が全面衝突することは、必然であった。

 二つの大国は、人族と魔族の命運を懸けて争い合った。


 熾烈を極めた戦いは、お互いに大きな犠牲と被害を出しながら、やがて決着がついた。

 結果は、人族の勝利で終わった。

 魔族の国家ルタレントゥム魔族連合は解体され、人族の国家アルテメデス帝国に飲み込まれる形で戦争は終結。


 大戦で、魔族側は盟主を失った。

 魔族の盟主の名は、メガラ・エウクレイア。


 盟主の肉体は死を迎えた。間違いなく生命活動を停止した。

 ゆえに、永久(とこしえ)の魔女の再臨を知る者は、誰一人としていない。

 この時は、まだ。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 その少年は今年で十五歳となる。

 名をアルゴという。姓は存在しない。


 少年に自由はない。何故なら、少年は奴隷だからだ。

 少年は、領主の土地でひたすらに農作業に従事する存在だった。


 このアルテメデス帝国では、奴隷が姓を持つことは許されていない。

 

 少年は奴隷だ。当然財産は無い。自由も無い。おまけに家族も居ない。

 アルゴ、というこの少年には何も無かった。

 アルゴという名前以外、殆ど何も持っていないといってもいい。


 ここはアルテメデス帝国の南端に位置する地方都市、ラコニス。

 ラコニスはアルゴの生まれ故郷ではない。

 それどころかアルゴは、アルテメデス帝国の生まれでもない。


 アルゴの故郷は八年前、アルテメデス帝国に飲み込まれた。

 アルテメデス帝国は、圧倒的な軍事力で周辺国への侵攻を進めている。

 その侵攻により、少年の故郷は失われた。

 そして、少年は奴隷として売り払われた。


 家族とは、その時に離れ離れになってしまった。

 今はもう、両親の所在も安否も分からない。

 おそらく、もう二度と会えないだろう。


 アルゴは、ふと空を見上げた。

 ジリジリと日差しが照り付けている。


「熱い……」


 そう呟くが、今日の作業を続けなければならない。

 アルゴは農作業を継続した。


 アルゴの顔には、感情というものが浮かんでいなかった。

 金色の瞳も同様で、ひどく虚ろに見える。

 薄茶色の髪はとても痛んでおり、体は痩せ細っている。

 背は高いとはいえないが、特別に低いということもない。

 同い年の少年を集めれば、ちょうど真ん中ぐらいの高さだろうか。

 顔立ちをよく見ればそれなりに整っているといえるが、生気を失った表情がアルゴの魅力を大幅に下げていた。


 アルゴの感情は、もう何年も大きく動いていない。

 絶望の季節はとうに過ぎ去り、今はただ無が支配する世界にアルゴはいた。

 そうしなければ、生きていけなかった。

 下手に希望を持ってしまっては、心が壊れてしまう。

 ゆえに余計なことは考えない。ただただ、目の前の仕事をこなす。そういう存在にアルゴはなった。


 だが見方を変えれば、アルゴはまだいい方なのかもしれない。

 自由はないが、こうやって仕事をこなせば、少なくとも生きてはいける。

 簡素だが寝床があり、質素だが食事が与えられる。

 奴隷は領主にとっては貴重な労働力だ。

 労働力を失うことは領主にとっても痛手となる。

 だから、奴隷といえども最低限の生活は保障されている。


 少なくとも、死ぬよりはいいのではないか。


 アルゴはそう自分に言い聞かせる。


 その行為自体が、己を捨てきれていない証拠だとは気付かずに。

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