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10.秋の収穫祭で見た!


「私、秋の収穫祭に行ったことがないんです!」


 夏休みが終わりに近づき、帰省していた私は王都に戻るため、ココと一緒にエイデン様の馬車に同乗させてもらっている。向かいに座って窓の外を眺めていたエイデン様は眉間にシワを寄せてこちらを見た。今日も凛々しいわ。


 秋の収穫祭は、毎年王都で5日もかけて行われるこの国一番のお祭りだ。王都の広場いっぱいの出店には国中の珍しい物が並び、旬の収穫物を使った食べ物の屋台もたくさん立つ。他にも音楽や舞踏、大道芸の人達も来たりして凄く楽しい、と姉兄に聞いていたのだ。


 実家にいた私はずっと羨ましく思っていた。今年は初めて行けるチャンスだ。そしてぜひともエイデン様と一緒に行きたい!


 期待の込もった眼差しでエイデン様を見つめていると、少し間をおいてから口を開いた。


「休みの日なら連れて行くことはできるが……」


「行きたいです!」


 やったわ!お洒落しなくちゃと内心張り切ってたら、エイデン様に「祭りは身分に関係なく人が集まるから平民に紛れる姿の方が楽しめる」と教えてもらえた。そういうのは得意だわ。




 お祭りの日は、街が混雑する前にと朝早めに伯爵家の馬車が迎えに来てくれた。伯爵家のタウンハウスに着くとココが飛び掛かってきた。

 ドレスじゃないから大丈夫と思ったのね。ココは賢いわ。しばらくふわふわの毛並みを堪能していたら、エイデン様の声がした。


「お前、おそらく毛だらけだぞ」


 そっと体を離すと服の前面に薄茶色の毛がびっしりついていた。


「換毛期が始まったんだ」


 ええぇ、早く言ってください。そう思ってたらメイドがふたりブラシを持ってやってきて、ココと並んでブラシをかけられた。なんだか複雑だわ……。


 キレイにしてもらってから向かったサンルームでは、エイデン様が静かに本を読んでいた。生成色のシャツに濃灰のパンツというお忍び姿だけど、隠しきれない知性が溢れているわ。

 私は白のブラウスにオレンジのフレアスカート、黒のステッチの入ったボレロを着ている。ブラウスをお揃いの生成色にすればよかったかも。


 近づいていく私とココに気づいて、エイデン様が顔を上げた。いつもと違い下ろしている前髪の間から黒い瞳が覗いている。少し幼く見えるわ。


「すぐに出掛けるか?ゆっくり歩いていけば丁度始まる頃だろ。ココも連れて行ってやりたいが、人が多いからな」


 側に近づいたココを撫でながら言う。


「それなら、次はココも連れてピクニックしませんか?」


「それはいいな」


 エイデン様は口角を少しだけ上げて了承してくれた。次はピクニックデートだわ。楽しみ。

 立ち上がり、茶色のジャケットを羽織りながら歩き出すエイデン様の後につき、上機嫌で街へ出かけた。




 お祭りの会場に近づくにつれ賑やかになってきた。人も多いし、普段は見掛けない音楽家や小さな屋台があちこちに見える。わくわくするけど、はぐれないようにしないと。エイデン様の左腕を両手で掴んで進んでいく。


 広場に到着すると、視界が開けて色とりどりのテントの屋根が見えた。王都で一番大きな広場にびっしりと並ぶテント達。想像より圧巻だわ……。


「目当てはあるか?無いなら適当に歩いて気になるところに寄るようにするが」


「色々見て廻りたいです!」


 笑顔で言うとエイデン様は頷いてゆっくりと歩きだした。私は右手で腕に掴まってついて行く。


 しばらく出店を覗いたり、屋台で買ったお菓子を食べたりしながら進んでいたら、一際賑やかな音楽と人々の笑い声が聞こえてきた。

 気になって向かうと、少し開けたところに踊りの輪ができていた。普段習っているダンスと違って、ぴょんぴょん跳ねたりくるくる回ったり楽しそう。


「おそらく南方にある領地の祭りだな。三日間ああやって踊るらしい。祭り期間なら誰でも参加できると聞いたことがある」


「そうなんですか?私も踊ってみたいです!」


 エイデン様の腕を掴んだまま踊りの輪に入っていく。


「わっ、おい……!」


 エイデン様は驚いた顔をしたけど、にっこり笑って向き合い両手を繋いだ。あとは周りに合わせて見様見真似でぴょんぴょんと踊る。エイデン様も諦めたようにあわせて踊ってくれる。跳ねる黒髪が可愛い。すぐに器用にエスコートしてくれるようになったので、私はくるくると踊った。楽しい!



「はぁ……、もういいだろ」


 夢中になってたら、気がつけば踊りの輪の外に誘導されていた。もう少し踊りたかったのに……。


「まだ私元気ですよ?」


「俺が疲れた」


 そう言って袖で額を拭う。素敵。たくさん踊ったから喉が乾いたので、飲み物を探しに屋台の方に戻った。


 そろそろお腹も空いてきたわと思いながら歩いていると、視界の端に黒髪を見つけて思わず目を向ける。私は黒髪に反応してしまう習性があるのだ。


 遠くに見つけた黒髪の人物を見て目を見開いた。アンナだわ。しかも、男性と一緒にいる!

 エイデン様の腕を掴んで足早に近づく。


「……今度は何だ?」


「アンナです」


「仲良くしてる子爵令嬢か。それが何だ」


「男性と一緒にいるんです。きっとデートです」


 お休みなのに一緒にお祭りに行けないことを謝ると、「気にしないで」とアンナは笑っていた。デートだったのね!


「それなら邪魔しない方がいいんじゃないか?」


「…………そうですね」


 少し年上に見える男性と並んで歩くアンナは、遠目にも初々しい笑顔が輝いている。普段のきりりとした雰囲気とは違うわ。エイデン様の言う通り、邪魔しない方が良しと見た!


 後でじっくり聞かせてもらおう。





お読みくださりありがとうございました。

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