眠れない病に罹患し寝ろと言われ困惑中 ①
これより夢魔に憑り憑かれるため、布団に入りガチガチに緊張しております。
頭 お か し い の か 私 は 。
まずは、私の能力を査定したいらしい。
そのためには異世界へ行く必要がある。
だから異世界転移に必要な魔力が欲しい
凄く卑猥な夢を見せるのか尋ねたら「なにを世迷言を。夢でも見とるのか?」と真顔で言われた。これほどサキュバスに言われて釈然としない台詞もない。
私が睡眠中に破廉恥な夢を見ると、持って生まれた精神感応でフィニス見ずにはいられない、内容次第で性的興奮を魔力に置換できるのだという。
とんだ窃視障碍者、ただの性的嗜好障碍だった。
眠らせてくださいと頼んだら、それすらできない。
仕方無しに自己負担で行使できる睡眠魔法『ルネスグ』を唱えることにしたが、興味津々だったので不承不承に説明しておく。
製薬会社のネーミングセンスはひどい。命名規則もなにも無しに勝手気侭に付けていて、覚えにくいうえに語感からはパッと想像できない薬を何種類も処方され、大量に持ち帰ってきた。
これはファミコン初期の魔法のようで、比較的わかりやすい。
魔法効果は頓服で即効性、中途覚醒にも有効で、戦闘(というか睡眠)終了まで持続する。筋弛緩が少なくて起床後に持ち越さない睡眠導入剤だと調剤薬局で説明を受けた。
「さぁさ眠るのじゃ、妾に欲望を見せよ」
「これ無理だと思うけど?」
「 何 故 じ ゃ ! 」
ジェネリックではなく効果とコストの高い新薬だ。
アッ! ……という間の御就寝となるはずだった。
が。
薬を飲み間違ったとは考えにくいが、強烈なプレッシャーや考え事の多いときは効き目が薄いとも説明されていたのだ。
つまり今日この寝るには早い時間帯に『頭の中身を覗くから』と言われて夢魔に寝ろと強要されている状況も含むだろう。
「せめて、静かにしててくれないかな」
「薬物を摂取すれば即寝落ちと言っとったろ、2時間経つが一向に睡眠に移行せぬではないか。イガラシお主どっか壊れておるのか?」
「頭が少々。だから処方された薬だし」
「どうするつもりじゃポンコツめが!」
怒られてもなぁ。
サキュバスは夢から燃料補給するから心配御無用。
ちょっと寝てみろ容易に魔力が得られると言った。
その説明はこうだ。
【 簡単3ステップ フィーネム・ラウダの魔力チャージ 】
① 私 が 睡 眠 に 入 る 。
② 卑 猥 な 夢 を 見 る 。
③ そ れ を 吸 い 取 る 。
ベッドに寝転がって布団を被った途端、頭の上で美少女が今か今かと待ち侘びて瞬き一つせずに覗き込んでくる、鼻息は荒いし、パタパタせわしなく羽ばたくし、この状況下で落ち着き払って平然と眠れたら悟りの境地だろう。
「改めて問う、答えろ夢魔フィーネム・ラウダ」
「な、なんじゃ?随分と改まったではないかぇ」
「魔力を使い果たし失敗すれば帰還もままならない現状か?」
「 ッ! …… ひ ぃ ? 」
「夢の吸収・精製は未知の挑戦、まったくの初体験。ざっくばらんに言って卑猥と口にしたが中身は知らない、なんてことないよな?」
こちらを凝視して脂汗をダラダラ流している。
どうやら大当たりか。
どうも精神感応という能力で相手の思考は筒抜けらしいが、異種族の物珍しさも手伝って「首が細いなぁ」「手が小さいなぁ」と思うたびにサッと隠す。
先程「かわいいなぁ」と眺めていたら、全然音が鳴ってない口笛を吹きながら、こちらの視線からウロウロ逃げ回っていた。
あちらはあちらで表情や行動に逐一反映されている。
考えが筒抜け、端々でボロが出る。
さしずめ聞き齧った知識、実践する機会は無かった。
考えてみたら、理由は単純明快だ。
サキュバスの集落に男性はいない。
「イガラシ……早くも魔法が?」
「お前なぁ、腹芸ド下手すぎる」
このサキュバスのイメージから遠く離れたヒョロヒョロ小柄であっちもこっちも乳も尻も経験すらも薄っぺらい容量不足の小娘は、『 卑 猥 な 夢 』に興味津々なお子ちゃまなのだ。
この考えも、覗き見してるんだろ?
どうなんだ、返事は?
返事はどうした ―― 痛 ぁ っ !!
「容量不足?イガラシの型落ちと一緒にするでない!」
「黙れ貧相魔者。その型落ち携帯端末のアプリが画面真っ暗で無反応になったら、突端に慌てて寝ろと言い出したろ。これはフィニスの魔力を使って動いていたけど今は枯渇したことを意味している……違うか?」
「スースー ピー ス ヒュピー♪」
目を逸らして脂汗をダラダラ流し下手糞な口笛を吹いた。
は ー い 。
御 明 算 。
「私は十分な睡眠をとるよう主治医から指導されているし、フィニスは片道切符でこちらに来て立ち往生し私の猥褻な夢を所望しているわけだ。つまり、利害は一致していると見た」
「卑猥から猥褻に格上げしておるではないか!」
「フィニス、男は卑猥なことばかり考えてる生き物とか聞いてて誤解してるだろ。ムチムチでパツキンのボインちゃんが好きとか、ショトカ8等身の元気ッ娘とか、そんな型にハマった女性の理想像なんぞクソッ喰らえだ!」
「なな、なんっ……じゃと?!」
「男ってのは、純粋にできてる」
「えろえろ生物と聞いとったが」
「でも、勇者の佐藤は違うかも」
佐藤は佐藤で、理想に向かって邁進しているのか。
どちらが本命か、追々選択するのかは知らんけど。
あくまでゲーム感覚で、本命はコッチの彼女かも。
同じソフトをプレイ中と聞いてから何度も集まって携帯ゲームで一緒に遊んだ、学生時代にバイト先のガソリンスタンドで知り合った娘、佐藤とは趣味が似ている程度で剣も魔法も獣耳も無かった。
佐藤は唯唯諾諾と指示どおり仕事をするタイプだ。
活き活きと指示し先陣を切って斬り込んでいった。
久しく見ない姿だった。
斬 り 込 み 隊 長、警 察 に 捕 ま る け ど 。
「その勇者を倒すのに手を貸す。理解しがたいのぉ」
「後輩が職場に戻るから……は建前で、本音は違う」
「本音は別個にあるのじゃな?」
「聞けば後悔するぞ?勇者側から盗聴の心配もある」
「なるほど用心するに越したことはないじゃろうな」
「ナイショのヒソヒソにするか」
ココと指定すると首を傾げながらベッド脇へ来た。
掴まえた手首を見て、小首を傾げた。
「思い付いたがな、妾は思考が読めるのじゃ。ヒソヒソ話などせずともイガラシが考えるだけで伝わるのではないかぇ?」
「それは困るな」
「なにが困る?」
細い身体を布団に引っ張り込むと「ッヒ!」と驚いた、大騒ぎされると面倒だ、口を塞いで「静かにしろ」と鋭く言うと怯えたように2度頷いた。
ゆっくり静かに手を離していく。
「女性の理想像は多種多様、私は制服フェチの変態で、懇願するフィニスを卑猥な目で見る下種野郎だ。 ……思考を読めなかったろ?」
「なんじゃと?!」
「わざと考え事をして誤魔化してた」
「 げ ぇ ! それはまことか! 」
「好みの娘を制服に包んで病気見舞いの贈り物、本音を言えば良い後輩を持った。貰って嬉しいお見舞い品め……夢見心地にしてくれ、サキュバスなんだろ?」
掛け布団の作る薄暗がりの中、完全に怯えて震えた瞳がゆっくり瞼に遮られて、くたりと脱力してから諦めたように苦笑いすると、八重歯というには鋭すぎる犬歯が覗いた。
再び開くと瞳に大きく開いているはずの瞳孔が縦に細長く、橙色の虹彩が射貫くようにギラリと輝いたので驚いた。
細部が人間離れしている。
魔者なんだから当然かぁ。
「制服姿でウロチョロ、後悔しきりじゃ」
「このままステップ②へ一気に進めよう」
「事情が事情。 ……致し方あるまい、協力しようぞ」