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絶滅危惧種の淫魔には認識に齟齬がある  作者: 塩谷 文庫歌
第一章【 魔 力 の 充 填 】
10/11

まだ翌日だがマモノは我が家で悠々自適 ②

 同棲1日目の魔者が通話を終了すると、スマホは光を失った。

 薄暗がりの中、声だけが響いてくる。



「今暫く、妾のこと。フィーネムと」

「名前? ……それは構わないけど」


「女しかおらぬサキュバス。稀に単為発生胚を身籠るが出産に至るはさらに稀有、妾のほかは年寄りばかり。妾が子をなせば続く、しかして負担は大きく精々1人、どのみち遠からず絶えてしまうじゃろ」


「絶滅?」


「妾がここへ来た理由は存じておるかぇ?」

「それは、わかるけど」


「そうではないのじゃ」

「違う?」


「今、考えたことは違う。助けを求めてきたのではないのじゃ。ここにイガラシの後輩・佐藤はおるが、勇者グリシナ・ウィステリアとその一味はいない。こちらの法律に縛られ勇者のちからを持たぬ佐藤ならば、妾を殺す手段も、動機すらない。戻るなと言い含められて送り出された」


「居住区域から子供を逃がした、フィーネムは難民なのか」


「種族の資質で老化はせぬ、容姿はイガラシが思い描くとおり。しかし既に老体、勇者一味が攻め入れば何分もかかるまい。魔者という理由だけで迫害され無抵抗に虐殺される……なぶり殺しになろう」



 買ったばかりのスマホでアプリを起動した。

 画面は黒いまま、【盗撮】のボタンだけだ。



「そう。【盗撮】としか表示されとらんな……何故(なぜ)じゃ?」



 質問の意味がわからない。


 なにしろ一度だけ、どこか違和感のある風景の中で、明らかに地球上にはいない生物を相手取り、驚異的な身体能力で、不思議な斬撃を放って仲間達と戦っている佐藤の大活躍を15秒ほど見ただけ。


 此処(ココ)ではない何処(ドコ)かが表示できる。

 今思えば、それで十分に驚異的だけれど。


 ゲームアプリを偽装したなら寂しい画面構成、あのときは知った顔が表示された驚きが勝っていたが、初めから私を狙い撃ちにしていたのか。


 だとしても【盗撮】について聞いた意味はわからない。



「イガラシに相談せよと」

「佐々木さんが? ……今の説明をした?!」



 これを信じた?

 ありえないな。



「佐藤の件だが委細は話せぬと言った、ならばなにも聞かぬと答えた。包み隠さず事情を話して聞かせイガラシを頼れ、佐藤の間違いを正してくれたのは、いつでもイガラシだったからと後押しされたんじゃ」



 そういうことか。


 佐々木さんに〇〇ハラスメントのオンパレードだった、佐藤の若さゆえの過ちを逐一(主に握り拳からの説教で)訂正していたけれど。

 今回は少々規模が……もう虐殺犯なんだけど。


 フィーネムはゆるゆると首を振って否定した。



「今まではこちらで言うモンスターを狩っておったのだ。佐々木殿は大規模集落と聞いたようじゃ。次の段階に入ったと考えて相違あるまいて」



 魔者……より人間的な種族を相手取ろうと考え始めた。

 これはゲームではよくある自然な流れだ。

 それを警戒して事前に避難させたわけか。



「事情はわかった。フィーネムの希望は?」


「選択肢すら与えられず悪戯(いらずら)(とき)を浪費して、このままでは同胞に顔向けできぬ。他でもないイガラシにしか頼れぬことがある、一刻の猶予もないのじゃ。手伝ってはくれぬか?」


「私ならできることがある、構わないけど」


「せめて同胞の最後を看取ろうと、その分野に長けた魔者に依頼し用意したのが、イガラシの型落ちスマホに入れた盗撮アプリじゃ。なんとしても起動したいが以前イガラシが指摘したとおり、妾の魔力は底をついてしもた。起動には魔力が必要、大量の魔力を得たなら転移すら可能となる。なんにせよ、まずは……」


「魔力。やっぱりそこか」



 それぐらいだよなぁ。

 まだ睡眠導入剤は飲んでいないからルネスグだ。

 入眠儀式を始めるか……っとと!


 そこを掴まれていると台所に行けないんだけど。



「そうではない」

「また、違う?」


「包み隠さず話せば。魔力を得る方法が他にもある」

「それが私にしかできない方法か、それは助かる!」


「すいておる者から、直接に……その。吸い取れる」



 ああ、最初に戻ったな?

 直接チューチュー吸える……すいて、()()()



「フィニスが好きな人から何か吸うと、魔力になる」

「や? ……逆、妾を好いておる者から、なんじゃ」



 おいおい。



 逆 。 踏 み 絵 を 強 要 し て き た 。



 しかしフィーネム史上初の、サキュバスらしい要求だ。

 なにしろビジュアル面でそれとわかる要素が少なく、夢魔の代名詞とも言える、えっちな夢を見せる能力どころか、そんな知識すらないようだった。


 好きかどうかでなにが違う……喉越し?

 あまり関係無さそうか、消化吸収かも。



「そのぉ。味と効能はかなり変わるそうじゃ」

「効能はともかく、味? 好き嫌いがある?」


「生魚を丸呑みして魔力にできず無意味、青臭いが風変りで癖になる珍味、滋養に溢れ甘酸っぱくて美味などなど様々だとか。つまるところ、栄養素じゃろうか」


「恋愛感情希薄なら今日買ったスマホが真っ暗なまま?」

「できれば喫茶店で飲んだ、ああしたものを所望する!」



 所望って、効能云々の前に味でオーダーされても困る。

 すいてたらすいとれる、いきなりハードルがあるのに。


 好き嫌いで言ったら昨日会ったばかり。

 こちら色恋沙汰にはトンと無縁だった。

 まったくゼロとは思わないものの、原料にして魔力にする?



 変 換 効 率 、 未 知 数 す ぎ る 。



 生魚を丸呑み、フィーネムにとっても覚悟がいる。

 ドロドロで青臭い絞り汁だったら、我慢してくれ。



「ここに棒グラフで表示されると聞き及んでおる。ここで交流のある異性は一人、現状で可能性があるのはイガラシのみということじゃ」



 か な り 敷 居 を 上 げ て き た 。



 味・効能に加えて、棒グラフで表示するんだって?

 好感度の数値化だ、それが魔力を測定だとしても。

 5割なら逆に最悪、9割でも合格ラインとは言えないだろう。


 笑顔で「満タンですね?」と尋ねる佐々木さんが見えた気が?

 2人が知り合ったのはバイト先のガソリンスタンドと聞いた。


 冷や汗がひどい。

 うつ病の私にこんな精神的苦痛を、これは虐待じゃないのか?



 あ ッ …… ま さ か 。



「だからムード。電気を消した、どこまで話した?」

「相手の真意を確かめる行為に必要なのだそうじゃ」



 あ 、 「 行 為 」 っ て 言 っ て る 。

 も う 完 全 に 誤 解 さ れ て る わ 。



「……わかった、観念しよう。方法は」

「唇を重ね、接吻する。口移しとなる」



 口移しで吸って、魔力にする。

 だから、味って言ってたのか。


 サキュバスにしては控え目だ。



 ……だが。



「おおむね方法は理解した。 誤 解 じ ゃ な か っ た な 」

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