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絶滅危惧種の淫魔には認識に齟齬がある  作者: 塩谷 文庫歌
第一章【 魔 力 の 充 填 】
1/11

宅配員はチャイムを2度も3度も鳴らす ①

 玄関チャイムが鳴りましたが現在平日昼間の3時、全スルーしております。



  ピンポーン♪



 平日の真っ昼間、在宅中とは思っていないだろう。

 自宅療養の罪悪感がムクムクと湧き上がってきた。


 薬の効果だろうか、曖昧に押し流されていく。



  ピンポーン♪



 やはり私の頭はおかしくなってしまったのか。

 緩慢にしか動かない精神、取り付く島もない。

 しかし、あまりお待たせするのも気が引ける。


 よっこいせ。



  ピンポーン♪



「う、あぁ。 は ―――― ぁ い」



 気怠い身体を起こして玄関の扉を開く。

 いつもの好青年と大型家電でも入っていそうな段ボール。

 配達のお兄さんが見慣れた段ボール箱の隣に立っていた。



「サインか判子、お願いします」

「判子で。 ……にしても、これ、いつにも増して巨大な」


「でっかいッスね。洗濯機……冷蔵庫ですか? あ、ども」

「どうもどうも」



 相変わらずの過剰梱包に失笑しつつ配達のお兄さんが一礼して、「カシャン」と扉が閉まる冷たい音の後で気配が遠くなっていく。


 玄関は寂しいほど静かになった。


 数か月間忙しすぎた、ここ数日は色々あって記憶も曖昧。

 なにを注文したのか思い出せない随分と大きな買い物、不思議な気分で手にした伝票を見下ろすと海外から直接届けられた荷物、品名欄には下手糞なうえに擦れたカタカナで「  マ モ ノ 」と、後半の3文字だけが読み取れた。



「生ものか。実家から?懸賞に当選したとか」



 どうも思い出せない。

 どうせ中身は拍子抜けする大きさだろう、玄関先で開こうと下駄箱の上にあったカッターを手に取り振り向くと【カッター・はさみ 厳 禁 】の注意喚起シールが目に入ったので、カタリと戻した。


 この大手通販サイトの大小様々な段ボールには大抵ミシン目でバリバリ剥がせる場所がある、この大きさは初めてだが→マークから上をグルリと一周か。


 指示に従い引っ張りながら周囲を回る。

 大荷物だ、重さもある、だから珍しく粘ったのだろう。

 元の位置に戻り、視界に入った違和感に手が止まった。



「ganges.co.jp……ガンジス?河川名が違う」



 問題はそこではない、この通販サイトや企業を知らない。

 利用したことは勿論無い。


 誤配、他人宛ての荷物だ。



「あ、やっちゃった。生もの勝手に開封してどうする」



 待て待て冷静に、後悔先に立たずだ。

 中身は生もの、冷凍か冷蔵?他に注意喚起のシールは無いから常温で腐るようなものではないようだが、とにかく配達のお兄さんに電話して指示を仰ごう。


 もう開けてしまったんだ、ちょっと拝見。発泡スチロールじゃない。

 それなら急がせる必要もないか。

 木箱入りにしても独特の見覚えある形状……洋画なんかで見たことが?



「 ッ ヒ ィ イ ! 」



 思わず飛び退いて下駄箱に背中を打ち、撥ね返って衝突、玄関で倒れた段ボールからズルリと長い木箱が8割方流れ出た。ここまで見えれば間違いない。


 土葬するシーンで何度か見た、これは海外で使う棺桶だ。



「これ()()()って……まさか、死体」



 死体って宅配業者に頼めるものか?


 殺人事件……だったらわざわざ棺桶に入れたりしない。宗教観が大幅に違う国では遠方で亡くなった方を宅急便で送れるなら、感覚が大幅に違う外国人がここ日本も大丈夫と思い込んで持ち込んだのかも。


 経緯はどうでも結果的に我が家の玄関が死体遺棄現場になった。


 いや待てよ?

 なにも中身が入っているとは限らない。



「確かめる……?」



 事と次第によっては電話すべきは配達のお兄さんから110番に変更だ。

 この結構ブ厚い木製洋風棺桶を映像では数人で運んでいた、端を少し持ち上げてみると重い、重すぎて……この重量から中身の有無は想像できない。


 となれば……目視で確認。


 上蓋は和式と随分違うようで大胆に上下2分割され鍵などは無い。

 恐る恐る持ち上げていくと隙間から布団が入っているのが見えた。


 よぉし、なるほど合点がいった。


 近所の葬儀屋かどこかで通販を利用して海外の御洒落な棺桶を取り寄せたのだ。そうしたら配達先を間違えた。いやはや驚いた、伝票やらの極々少ない情報から、勝手に早合点。


 宅急便が運んできた棺桶の中に死体が入っているわけがない。

 安堵して「なぁんだ」と一気に蓋……扉?を持ち上げていく。



「 え ? …… う そ 」



 まず布団、そこに横たわる少女。


 光の加減か赤とも黒とも見える艶やかで整った髪、透き通るほど薄く輝く玉肌(ぎょっき)、溜め息を漏らすように薄っすら開いた瑞々しい桃色の唇、長い睫毛、個性的な形の眉、夢見るように安らかな寝顔。

 歳の頃は17歳前後、通っていた学校の制服だろうか、セーラー服を着ているが近所では見かけないもの、どこの学校とまではわからない。


 少女が棺桶のなかで眠っている。

 人間離れした美しい容姿だが微動だにしない。

 外国では念入りに死化粧を施すものだと聞く。



 …… 少 女 の 屍 体 ?



 にしても、これはまるで ――



「すぴー、にひひっ?」

「 っひ い ぃ い !! 」


「 も ぉ ん …… た べ ら り ぇ な ぃ ろ …… 」

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはまた面白そうなお話が始まったのです〜(*´艸`*)
[一言] わーい、ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーンピンポーンピンポーンε≡≡ヘ( ´Д`)ノ←怒られるぞ 最近我が家の宅配さんは、玄関において帰られるのですよ。(息子のサバゲー銃が置いてあった時に…
[一言] 生きてるやん(笑)
2022/03/22 19:18 退会済み
管理
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