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第49話「えっ……あーん」

 料理の前に炊飯器を見る。オタク君の予想通り米を炊いた形跡はない。

 なので電子レンジにコンビニで買ったチンするごはんを入れて、タイマーセット。


 ごはんが出来る間に、冷蔵庫を開けて食材を確認する。

  

「そうだな。卵と、長ネギでおかゆかな」


 お湯を沸かしながら、手際よく長ネギを細かく刻み、卵を準備する。

 チンという甲高い音がする。ごはんの準備が出来たようだ。

 それらを小さめの鍋に、お湯と共に入れておかゆを作っていく。


「相当汗をかいてるだろうから、スポーツドリンクがあると良いけど……無いか」


 仕方がないと言いながら、冷蔵庫からミネラルウォーターと調味用のレモン汁を取り出すオタク君。

 ミネラルウォーターをコップに注ぎながら、調味料のレモン汁と砂糖と塩を混ぜる。

 自作のスポーツドリンクである。


 別のコップに少量移し替えて飲んでみたが、少々味は薄かったようだ。

 とはいえ病人に飲ませるものだから、薄いくらいが丁度良いくらいである。


 優愛の部屋の前まで行くと、ちゃんとノックをするオタク君。

 漫画やゲームでは、ノックせずにヒロインの部屋に入ればラッキースケベ展開がある。


 しかし、現実でそれをやってしまえば、シャレにならない事くらいオタク君は分別が付いている。

 なので、ちゃんと入って良いか返事を待ってから入る。


「優愛さん、ありあわせの物でおかゆ作りましたけど、食べますか?」


「すごい、ちゃんとしたご飯だ!」


 ベッドで寝ていた優愛が、ガバッと上半身を起こした。


「いえいえ、口に合えば良いですが」


 謙遜するオタク君だが、一般男子高校生がこれだけ出来れば十分だろう。

 おかゆの作り方も適当ではなく、ネットで検索して下手に手をくわえずにレシピ通りに作っている。

 出来るオタクである。


 どうぞとおかゆと自作スポーツドリンクをお盆に乗せて、優愛の膝の上に置く。

 ジーっとおかゆを見た後に、優愛が口を開けた。


「あーん」


 そう言って口を開け、オタク君を見る優愛。

 鈍感なオタク君でも、それが何を意味するかくらいは理解できる。

 あーんしてくれという事だ。


 この機に乗じてオタク君に甘えようとする優愛。

 とはいえ、流石に恥ずかしかったのだろう。顔を赤らめている。


(そっか、心細かったから、誰かに構って欲しいんだな)


 やはりやめようと思い、口を閉じる優愛。

 だが、オタク君は躊躇うことなくスプーンを手に持ち、おかゆをすくうとフーフーと息をかけて冷まし始める。


「はい、どうぞ」


「えっ……あーん」


 そのまま一口でパクリといく優愛。

 口の中にはおかゆの優しい味が広がっていくが、それ所ではなかったりする。


「大丈夫ですか?」


「う、うん大丈夫だよ!」


 熱さ的な意味では大丈夫だっただろうが、優愛自身は大丈夫じゃないようだ。

 一口貰うたびに顔が赤らんでいく。思ったよりも恥ずかしかったようだ。


(優愛さん顔が赤い……熱が相当あるんだろうな)


 THE勘違いである。

 熱があって熱いだろうなと思い、わざわざ飲み物を取って口元まで運んであげる優しさを見せるオタク君。


 オタク君が優しくすればするほど、優愛の熱が上がっていく悪循環である。

 いや、これはこれで好循環でもあるのか。


「えへへ」


 まるでお姫様のような扱いに、思わず笑みが零れる優愛。

 気が付けば、おかゆを入れた容器は空になっていた。 


「ご馳走様でした」


「はい。そうだ、台所片づけちゃっても良いですか?」


「えっ、いいよいいよ。そこまでやってくれなくても」


「いえ、僕が気になるので」


 台所の惨状を見て、このままにして帰るのはどうかという意味で言ったオタク君。

 だが優愛には、オタク君が気になるレベルで酷いと言われた気がしてショックを受ける。

 実際酷いのだから間違ってはいないが。


「じゃあ、お願いしようかな」


「はい、任せてください」


 お盆に食器を乗せてオタク君が立ち上がる。


「オタク君」


「はい?」


「……ありがとね」


 そう言ってニコッと笑う優愛に対し、笑顔で答えるオタク君。


(さっきの優愛さん、可愛かったな)


 そう思うと同時に、自分が先ほどまでしていた事を思い出すオタク君。

 冷静に考えれば同世代の女の子に、フーフーしながらアーンをしていたのだ。

 思わず顔を赤らめ、その場で悶えそうになるオタク君。


「さ、さぁ片付け頑張るぞ!」


 必死に恥ずかしさを忘れようと、台所の片づけを始める。

 作業はそれほどかからなかった。ゴミは多いものの同じ種類のゴミが多いので分別は楽だった。

 洗い物もたいして食器を使っていないので多くはない。


 片付けが終わり、ふと外を見ると日が沈みかけている。

 そして窓の外には、洗濯物が干しっぱなしである。


「ついでだし、取り込んでおこうかな」


 窓を開けると、そこには優愛の衣類が干してあった。

 当然、下着も。


「……」


 思わずフリーズするオタク君。

 流石に下着まで勝手に取り込むのは問題があると判断したようだ。

 しかし、下着だけ放置というのも問題だろう。

 もし下着泥棒が居たなら、盗んでくださいと言わんばかりである。


「優愛さん、外に干してある洗濯物ですが……」


 なので、一応本人に断りを入れる事にしたようだ。


「入れてくれるの……ありがとう……」


 どうやら安心して満腹になったせいか、眠いようだ。

 半分夢見心地で、むにゃむにゃと返事をしている状態である。

 そのまま規則的な寝息を立てて、完全に寝てしまった。


 年頃の男の前だというのに、完全に無防備である。

 それだけオタク君を信頼しているという事でもあるが。


「優愛さんに頼まれたんだから、仕方ないよね」


 言い訳をしながら洗濯物を取り込むオタク君。

 下着を取る時に顔を真っ赤にしてキョロキョロしているが、傍から見れば完全に下着泥棒である。

 不審な行動はしているオタク君だが、不穏な事は何もしていない。紳士である。


 最後に書置きをしてから、オタク君は優愛の家を出て行った。


『鍋の中におかゆを作ってありますので、温めて食べてください。鍵はかけてからポストの中に入れておきました』


 しばらくしてから起きた優愛。

 片付けられた台所と、作りおきのおかゆを見て「おぉ」と歓喜の声を上げた。

 そして、キチンと畳まれた洗濯物の中に、自分の下着も畳まれて置いてある事に気付く。


”優愛さん、外に干してある洗濯物ですが……”


 あの時オタク君が声をかけてきた意味を理解し、顔を赤らめうずくまる優愛。

 完全に後の祭りである。

 

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