閑話「拙者物語 4」
テニサーの飲み会から数日が経った。
チョバムは大学のサークル棟にある一室に来ていた。
そこは、チョバムが所属したテニサーではなく、扉にはA4用紙に「マイナー研究所」と手書きで書かれたサークル室である。
マイナー研究所のサークル室で、しょんぼりといった様子で椅子に座るチョバムの話を、エンジンと詩音が困ったように時折顔を見合わせたりしながら、チョバムの話を聞いている。
「という事があって、もうテニサーに近づけなくなったでござる」
「あー、うん……それはもう、近づくのは無理ですな」
テニサーに入って、盛大に自爆するチョバムを楽しみにしていたエンジンだったが、思った以上に真面目な内容だったせいで下手に弄る事も出来ず、ただただ相槌を打つだけだった。
事前に姉から話を聞かされてた詩音だが、それでも気の利いた言葉が思い浮かばず。
「いや、でもチョバム君、良い事したじゃん。立派だよ」
と、褒めてみるものの、チョバムは愛想笑いで返す程度。傍から見て心に響いていないのが良く分かる。
う~んと腕を組み、軽く悩む事数秒。詩音が聞くべきか悩んでいた疑問を口にした。
「ってかさ、そもそもその程度でテニサーに戻れなくなるもんなん? 別に出禁言われたわけじゃないっしょ?」
チョバムとエンジンが深刻そうに話しているから合わせていたが、詩音からすれば別にそこまで深刻な話には思えない。
気にせず「おっすおっす」と言ってテニサーのメンバーに話しかければ良いだけじゃないか、と。
机に肘をかけ、軽く言う詩音に対し、チョバムとエンジンが同時に首と手をブンブンと横に振りながら「いやいやいやいや」と返す。
「彼女目当てでテニサーに入った男は、飢えて乾いた狼ですござるよ!?」
「そんな肉食獣の前に置かれた水と食料を、あろうことか、このチョバム氏は横からかっさらって行ったんですぞ!?」
「酔って記憶もあやふやな女の子が、無防備に寝てるんでござるよ!?」
「これはもう手を出さないわけがないですぞ!! 据え膳食わぬは男の恥ですぞ!! こんなおいしい状況を、チョバムは横から奪って行ったんですぞ!!」
詩音に説明するために、あえて大げさに言うチョバムとエンジン。
2人の会話を聞き、神妙な顔をして頷く詩音。
話を聞き終える頃には、笑顔で頷いて立ち上がる。
「つまり、エンジン君は彼女が居るのに、酔って寝ちゃった女の子が目の前に居たら手を出すって事でOK?」
「そ、そんなことないですぞ!?」
「でも、さっき『これはもう手を出さないわけがないですぞ!!』とか言ってたよね?」
「くぅ~ん」
発言の内容はともかく、チョバムを元気づけるために、エンジンがあえて悪ノリに乗った事くらい詩音も分かっている。
目の前にいる彼氏は、そんな事しない。そもそもそんな大それた事をする勇気がない事も。
とはいえ、それはそれ。これはこれである。
彼女の目の前で堂々と不貞行為をする発言したバツとして、詩音から軽くシバかれるエンジン。
そんな光景を見て、少しずつチョバムの顔に笑みが浮かんでいく。
エンジンへのバツが終わる頃には、チョバムもすっかりいつもの様子に戻っていた。
「チョバム氏。元気出たか、ですぞ」
「おかげさまで、元気が出たでござるよ。詩音殿もありがとでござる」
「気にしないで良いよ。ウチはこいつシバいてただけだし」
そう言って、3人揃って笑う。
「チョバム君なら、その内良い相手が出来るって」
「はっはっは。拙者しばらくは彼女とかそういうの遠慮するでござるよ」
痛い目を見た。というほどではないが、自分にはそういった事は向いていないと十分すぎるほどチョバムは理解した。
もし真衣の件がなかったとしても、あの場に居続けて女の子に話しかけることが出来たかというと、無理だっただろう。
中途半端に居続けて、大学生活を無為にしなかっただけ良しとしよう。チョバムはそう自分に言い聞かせる。
せめて大学生活を謳歌しよう。
なので、まずはエンジンや詩音たちより遅れて入ったマイナー研究所で他のサークルメンバーと仲良くする。
その為の自己紹介を考えている時だった。
「おっ、噂のチョバム君はもう来てるかな?」
ガチャリと音を立て、ドアが開かれる。
エンジンや詩音にそう声をかけながら、入ってくるのはマイナー研究所のサークルメンバーだろう。
にこやかな笑顔の男性の後に、他のメンバーも次々とサークル室に入ってくる。
背筋を伸ばしながらチョバムが立ち上がり、まずはマイナー研究所サークルのメンバーに挨拶をしようとした時だった。
「そうそう。チョバム君の他にもう一人、新しくサークルに入るメンバーが来てるんだ」
男性の言葉と共に、サークル室に入ってきた女性を見てチョバムが目を引ん剝く。
「初めまして。斉藤真衣です。宜しくお願いします」
何故なら、新しくサークルに入ったメンバーは、テニサーでベロベロに酔っていた斉藤真衣だったから。
驚くのはそれだけではない。
テニサーの飲み会の時は、ちょっと田舎っぽい感じのどこにでもいるような女の子だった。
それが今はゴスロリにツインテールという、どこからどう見てもオタサーの姫のような格好をしていたので。
新作「お姉ちゃんを自称する年下の幼馴染にお世話される事になった~甘やかされ過ぎて、俺はもう弟で良いやと思えてきた~」を投稿しました!
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