閑話「想い出にかぶる君(前編)」
コミック「ギャルに優しいオタク君」
4巻は2月12日に発売です!
太陽が照りつつも、まだまだ寒い気温の続く3月。
そんな土曜の昼下がりに、商店街で怪しい男女が2人。
ロングコートはともかく、帽子にサングラスにマスクまでかけていれば流石に怪しい風貌と言わざるを得ない。
そんな男女がコソコソしていても、お巡りさんから声をかけられないのは、見ようによっては花粉症などの対策っぽいく見えなくもないから、ギリギリセーフなのだろう。
「ねぇ彩輝さん。本当について行く気ですか?」
「勿論です。あっ、浩一さん隠れて!」
怪しい風貌の男女は、美容院「MAGIC」の店主であり、オタク君こと小田倉浩一と、その妻である委員長こと小田倉彩輝である。
浩一は普段着の上からコートと帽子マスクサングラス姿だが、妻の小田倉彩輝は、トレードマークのピンク頭は黒髪のウィッグで、いつもの地雷系メイクはナチュラスメイクに変えており、一目では正体がバレない変装をしている。
それだけ気合が入っているという事だろう。
浩一の腕を引き、物陰へと隠れる彩輝。
完全に物陰に隠れられたのを確認すると、浩一と彩輝が警戒しながら、物陰からそっと顔を出す。
彼らが様子を窺っているのは、地元では待ち合わせ場所として有名なスポットの一つ。大きな招き猫がある広場。
その広場に居る、一人の高校生くらいの少年。そして、その少年に「おーい」と声をかけて小走りで近づく少女。
「ごめん。待った?」
少しだけ間延びした、少女特有の可愛らしい声。
なのだが、声とは対照的な、やや吊り目感の出ているメイク、金髪にブルーのメッシュ、そして極めつけはウルフカットというド派手な少女。
もちろん、髪型に負けないくらい派手なパンクファッションを決めている。
少女は、かつて美容院「MAGIC」に、好きな人の趣味に合わせるために変身しに来た子である。
その特殊な髪型を維持するために、今ではすっかり「MAGIC」の常連となっている。
少女は特に彩輝に懐き、来店するたびに恋バナで盛り上がっていた。
何度かの恋バナで進捗を聞き、そして、ついに少女がデートの約束を取り付けた事を聞いた彩輝。
かつての自分のような少女がデートをするというのだ。店を臨時休業にして、夫を連れ出し尾行をするのは当然と言えよう。
「あの子が……ふぅん……そうねぇ……(訳:見て見て浩一さん! あの男の子がいつも話してた好きな人かな!? なんだか爽やかで良い感じの子だね!)」
「多分、そうですね」
少年の事を、瞬きを忘れるくらいガン見する彩輝。
目の周りには血管が次々と浮き上がり、今にでもビームを出して少年の身体に穴を空けそうな程に。
良く知らない人が見たらホラーに見えなくもないが、浩一は知っている。彩輝がそれだけ少女に入れ込み、真剣になっているだけだと。
そんな浩一と彩輝に気づくわけもなく、少年は気さくに笑う。
「大丈夫大丈夫。来てまだ10分くらいだし」
「えっ、10分も!? ごめんね」
「そんな畏まらなくても良いって。スマホで見たい動画とか見てたところだし」
少女が、申し訳なさそうに眉を下げ頭を下げると、少年は笑いながらスマホの画面を少女に見せる。
「変なもの見せてないでしょうね?(訳:浩一さん、彼のスマホ画面、見えますか?)」
「ただでさえ遠いのに、サングラスかけてるから余計見えない……」
一体何を見せているのか気になる浩一と彩輝。
だが、スマホの画面を見た少女が少しだけ笑顔で何かを言うと、少年も笑顔で答えている。
少年と少女が何を話しているか距離があるせいで浩一と彩輝には分からないが、それでも少年と少女の表情から良い雰囲気である事は察しがついている。
そんな少年少女の良い雰囲気を見て、ほっこりと笑顔を見せる浩一と彩輝。
「初々しいカップルを見てると、昔を思い出しますね」
「ソ、ソウデスネ」
笑顔を見せる彩輝だが、浩一はどこかギコチナイ笑顔と返事を見せる。
高校3年生以降の昔の話ならギリギリ問題がないが、それ以前の昔の話をすると浩一は地雷だらけなので。オタク君が鈍感なせいで。
浩一が過去の自分が鈍感すぎた事を自覚しているのを、彩輝は知っている。今更昔の事をどうこう言う気はないし、素直になれなかった自分に非がないとも思っていない。
ただ、好きな人がそんな風に困った顔をするものだから、もうちょっとだけ困らせたいなと思い、彩輝が意地悪な笑みを浮かべてしまうのは、きっと可愛げというのだろう。
少年少女の恋模様そっちのけで、いちゃつき始める浩一と彩輝。
いちゃついている間に、2人を見失ってしまった事に気づくのは数分後の事である。
次回2月12日更新予定
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