閑話「3次元の誘惑(前編)」
残暑も和らぎ、過ごしやすくなった11月。
授業も終わり、帰る支度をしているチョバムの元に、エンジンが近づく。腕を組み、うんうん唸りながら
朝から、なんなら数日前からこんな調子の友人を見て、チョバムが声をかけるべきかどうか考えあぐねていた。なんとなくエンジンが何で悩んでいるか予想がついているから。
「エンジン殿、どうしたでござるか?」
だが、このままうんうん唸られても正直うっとおしいので、聞いてあげることにしたチョバム。
そんなチョバムに対し、口を開こうとして、またうんうんと唸るエンジン。
「どうせ、詩音殿にメイド服着た姿見せて貰いたいけど、言い出すきっかけがなくて悩んでるのでござろう」
「何故分かったですぞ!?」
ズバリ、心中を言い当てられ驚きの声を上げるエンジンに、チョバムがドヤ顔で返す。
「文化祭で詩音殿と仲良くなった後からずっとその調子だから、すぐわかるでござるよ」
既に2年近い付き合い。
毎日顔を会わせバカをやっているのだから、お互いに多少の事はお見通しである。
ここで下手に照れたり言い訳をしたりしても意味がない。心中を察せられているから。
なので、素直にチョバムに相談をするエンジン。
メイド服を着て欲しいけど、下手な頼み方をすれば体が目的だったと思われるかもしれない。
それが原因で別れ話になってしまうかもしれない。
でも、メイド服を着た彼女が見てみたい。
一通りエンジンが話し終わり、チョバムが「なるほど」と言いながら顎に手をやる。
(途中、ただの惚気話がいくつか混ざっていた気がするでござる)
エンジンの惚気気味な話に、少しの嫉妬と、友人が上手くいってる事の喜びを感じ、チョバムの口元に自然と笑みがこぼれる。
「いたっ、なぜ殴った。ですぞ!」
それはそれとして、やっぱり腹が立つのでエンジンのみぞおちに軽くパンチをする。
「良い案を思いついたでござるよ」
「良い案? それと今殴った事は何か関係あるのですかな?」
ちょっと涙目のエンジンが、みぞおち辺りをさすりながら、今の会話と殴った関係性を問い詰める。
そんなエンジンを無視してチョバムは話を進めていく。
「詩音殿とプリ機を取りに行くでござるよ」
「プリ機を? それで、某を殴った事とどんな関係が?」
「最近のプリ機は、コスプレしながら写真が撮れるように、コスプレ衣装の貸出があるでござるよ」
「なるほど。それなら自然な流れでコスプレする事が出来ますな!」
それはそれとして、なぜ殴ったかしつこく問い詰めたいエンジンだが、彼女のメイド姿と天秤にかける。
「この後暇があるか、メッセージで聞いてみるですぞ」
どうやら詩音のメイド姿を見たい欲望が勝ったようだ。
スマホを取り出し、エンジンが早速詩音にメッセージを送る。いや、送ろうとする。
何度も同じような文章を書いては消してを繰り返しているので、中々送信にこぎつけないのである。
「ポチっとな。でござる」
「チョバム氏!? チョバム氏!!??」
業を煮やしたチョバムが、エンジンのスマホの送信ボタンを横からぽちっと押す。
あまりに唐突過ぎたせいで、文句を言いたくても思いつかず。クラスメイトが振り返るのも気にせず、エンジンは大声でチョバムの名前を呼び続ける。
『うん。空いてるよ。もしかしてデートの誘い?』
エンジンのスマホから、ピロンと音と共に、画面に映るメッセージ。
慌てて「はい」とだけ、短い返事を返し、エンジンがチョバムを睨みつける。
凄みはするエンジンだが、微妙にニヤケてしまっている口元のせいで全く効果がない。
その間にも、ピロンピロンとエンジンのスマホは鳴り続ける。
詩音からの「どこにデートに行く?」などのメッセージで。
スマホにメッセージが届くたびに、口角が上がるエンジン。
そんな友人の姿を見て、チョバムもどこか満足そうに笑みを浮かべる。
「チョバム氏、某これからちょっと用事が……」
「分かってるでござるよ。小田倉殿には適当に言っておくでござる」
「かたじけないですぞ!」
浮足立った様子で、エンジンが教室を後にする。
その姿を見送った後、チョバムはその足で第2文芸部へと向かって行った。
そして、第2文芸部の部室のドアを開け、開口一番に叫ぶ。
「エンジン殿が詩音殿とこの後デートでござる!!」
「な、なんだってー!!」
見事な裏切りである。
一方その頃。
詩音との待ち合わせ場所についたエンジン。
「お待たせ、です、ぞ?」
詩音の姿を見つけ、声をかけるが、どこか戸惑い気味である。
そんな戸惑い気味のエンジンに、詩音が申し訳なさそうに眉を下げて愛想笑いを返す。
「おっ、エンジン君おまたー」
「あははー……」
何故なら歌音も居たからである。
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