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【完結】ギャルに優しいオタク君【コミカライズ&書籍化】  作者: 138ネコ
委員長ルート

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委員長ルート 7

 迎えた文化祭。

 文化祭の開始と共に、部や有志の出し物を見ようと、体育館には大勢の人が押し寄せていた。

 しばらくして、暗幕がかけられ窓からの明かりは遮断され、照明が次々と落ちてゆき、段々と薄暗くなっていく体育館。

 だが、暗くなった室内とは対照的に、場は盛り上がり始めていた。


 ステージの上では演劇やコントが行われ、時折笑い声が響く。

 そんな体育館にあるステージ脇で、オタク君たち第2文芸部のメンバーは待機していた。


「緊張しますな」


「そうでござるな……ところでエンジン殿、マジでゴーグルは付けたままやるつもりでござるか?」


「当然ですぞ! これを外したら演奏できないですぞ」


 VRゴーグルを付けたまま、ドヤ顔を決めるエンジン。

 最初の頃はVRゴーグルを付けた姿を見られるのを恥ずかしがっていたエンジンだが、今では体の一部と言わんばかりに、威風堂々とVRゴーグルを装着している。

 むしろ、一緒にいるオタク君たちの方が恥ずかしがっているくらいである。


 それぞれ音が漏れないようにしながら、楽器や歌詞の最終チェックを行っている。

 ちなみにこの最終チェックが最終と言いながらも既に五回以上行われている。何度チェックをしても不安になってしまうのだから仕方がない。

 もしかしたら本番で何かやらかすかもしれないと思うと、チェックせずにはいられないのだ。


 それは何もオタク君たちだけではない。

 同じようにバンドメンバーを集め、演奏をする生徒たちの誰もが緊張の面持ちで、自分たちの出番が来るギリギリまで機材の確認をしている。

 とはいえ、オタク君たちと比べれば、他の生徒たちは幾分か余裕を感じられるのは、それなりに場数を踏んでいるからなのだろう。

 去年もステージで演奏していた者、ライブハウスで演奏経験がある者、路上で普段から演奏している者。経験の差はあれども、誰もがなんらかの経験者ばかりである。

 というか、経験者だから文化祭でバンドをしようと言えるわけで。

 三年生になってアニメの影響でバンドやってみましたなどというのは、オタク君たちだけだろう。同じような事を考える生徒はいただろうが。


 最初で最後の挑戦。

 

「わりぃ、ちょっとトイレ行って来る」


「あっ、私も!」


 優愛とリコが何度目かのお手洗いに行く。

 これで何回目だなどと、そんな事を誰も突っ込んだりはしない。何故なら他のメンバーも同じように何度もトイレへ行っているので。

 いくら緊張しても緊張し足りない。あのおしゃべりな優愛ですら、今は黙ってスマホで歌詞を見直している。

 煩い程にドラムとギターの音が響いて来るというのに、オタク君たちはまるで静寂の中にいるようにひっそりとしていた。

 だが、どれだけ緊張しようが、時間は無常に過ぎて行く。


「次の演奏は、第2文芸部です!」


 演奏が終わり、司会者がマイクを片手に、第2文芸部の出番を告げる。

 オタク君たちの前のバンドメンバーが、笑顔でオタク君たちの脇を抜けていく。


「頑張れよ!」


 バンドメンバーの誰一人オタク君たちとは顔見知りではない。

 だが、自分たちの出番が終わったという安堵感から、口々に次の出番のオタク君たちに声をかけていく。


「えっ、あ、ひゃい!」


 急に声をかけられ、思わず裏返った声で返事をするオタク君。

 声をかけたバンドメンバーがそのまま片手を上げて去っていく姿は、自由を得た囚人のようである。

 オタク君の裏返った声を、小さく笑う第2文芸部のメンバーたち。

 頬を掻き恥ずかしがるオタク君だが、メンバーの顔を見て、これで緊張も解けたなら悪くないかと思う。

 そして、そう思った途端に、自分の緊張も徐々に解けていく感覚を覚えた。


「それじゃあ皆、行こうか!」


「うん」


 眩しいくらいに輝くライトに照らされたステージ。

 それぞれが配置につくと、オタク君が一礼をしてマイクを手に取る。


「初めまして、第2文芸部です。前にバンドのアニメの影響を受けてバンドをやってみようという事でバンドを始めてみました」


 オタク君のMCに、なんじゃそりゃと笑い声が響く。

 笑わせるために考えたMCに、手ごたえを感じるオタク君。

 大衆の面前だというのに、オタク君には緊張という感情はなかった。

 代わりに、高揚感がオタク君を支配していた。

 噛む事もなく、どもる事もなく、順調にメンバーを紹介していく。

 メンバーが紹介されると、どこからともなくその名前を叫ぶ声が聞こえる。

 友好関係の広い優愛はともかく、リコ、委員長、チョバム、エンジン、めちゃ美。そして。


「おたくらー!!!!」


 オタク君にも、名前を呼ぶ声援が届く。

 それは、クラスメイトだったり、友人だったり、オタク君が手伝いをした部のメンバーだったり。 

 この声援こそが、オタク君が紡いできた絆の証である。

 クラスの隅で、ひっそりと目立たぬようにしていた少年は、もうここにはいない。


 チョバムがドラムスティックでカウントを取る。

 そして、第2文芸部の演奏が始まった。

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