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第157話(リコルート)「あー、こっちもよそ見してたし、悪かった」

「小田倉は何か見に行きたい物あるか?」


「特にないですね。リコさんは何かありますか?」


「アタシも特にないかな」


 文化祭で華やかに飾り付けられた廊下。

 そんな廊下を、あてもなくブラブラと彷徨い歩くオタク君とリコ。

 第2文芸部のゲームカフェ「バーボンハウス」は大盛況なので、人口密度を減らすために休憩に出向いたオタク君たち。

 最初はリコだけでなく、優愛と委員長も一緒に文化祭を周るつもりだった。

 だが、優愛は両親が「バーボンハウス」に足を運んだので、普段中々出来ない親孝行の為に部室に残り。

 委員長は、文化祭実行委員として呼び出しを受けたために、オタク君とリコの二人きりになってしまったのだ。


 この手のイベントには、あまり積極的ではないリコ。

 そんなリコよりも、更に積極的ではないオタク君。

 当然、行き先など決まるわけもなく、ただただ廊下を歩き回るだけである。


(小田倉とこうやって二人きりで歩いてたら、周りからは恋人っぽく見えるかな)


 とはいえ、リコ自身はオタク君とこうして肩を並べて歩くだけでもそれなりに満足だったりする。

 すれ違う生徒たち。男女ペアの生徒は、大抵がカップルばかりである。

 手を繋いで、仲の良さを周りに見せびらかすような者も少なくはない。


(そういえば、小田倉とああやって手を繋いだことってないな)


 チラリとオタク君の手を見て、頭をブンブンと振るリコ。


(流石に知り合いがいる学校で手を繋ぐのは、恥ずかし過ぎるだろ)


 もしオタク君と手を繋いでいるところを知り合いに見られれば、特に去年同じクラスだった友人二人に見られれば確実にからかわれるだろう。

 なんならオモチャにされる。それくらいリコも心得ている。

 だが、そうやってからかわれたりするという事は、逆を言えば恋人同士に見られているという事にもなる。

 手を繋いでるところを見られたら恥ずかしい気持ちと、手を繋いでるところを見られたい相反する気持ちがリコの中で渦巻く。

 そんな時のリコは、決まってこう考える。


(ま、まぁ小田倉がどうしてもって言うなら、手を繋いでやっても良いけど)


 本当は自分がしたい癖に、オタク君のせいにしようとする。

 だが、そのおかげで大胆な行動を取れるのだから、一概に悪いとは言えない。

 オタク君のような自己評価が低い男子にとっては、女子の方からアピールしなくては何も起こらないので。

 そわそわした様子で、オタク君の手をチラチラと見るリコ。手を繋ぎたいアピールである。 

 これだけわかりやすい行動をリコが取っているというのに、全く気付かないオタク君。


「ん? リコさんどうしました?」


 リコの気持ちには全く気が付かないが、リコが挙動不審な事には気づいているようだ。

 鈍感と気遣いの合わせ技である。


「いやぁ、たまにはこうして二人で歩くのも良いかなって」


「はい、そうですね!」


 リコの言葉に、笑顔で答えるオタク君。

 対してリコは、そうだなと顔を赤らめて俯いている。

 好きな人に「二人で歩くのも良いかな」という問いに対し、肯定されればそうなるのも仕方がない。

 半ば告白のようなものだが、オタク君は真意に気づかない。


(さっきからリコさん、変だったけど、実は嫌だったから変な動きをしていたわけじゃなかったんだ!)


 何故なら、オタク君はオタク君で、いっぱいいっぱいだったからである。

 もしかしたら、自分と二人きりなのは嫌なんじゃないかと思い。

 というのも、リコと二人きりで出かけたりする時は、どちらかというと知り合いとエンカウントしなさそうな場所をリコは選びがちである。

 単純にリコは、家族や知り合いに見られたイジられるのが恥ずかしいからそうしているだけなのだが、自己評価の低いオタク君は他人に見られたら恥ずかしいと思われているからじゃないかと時折不安になったりしているのだ。

 あれだけ二人きりで出かけたり、一緒にコスプレしたりしているというのに、いまだにそんな不安を持つのもどうかと思うが。

 なんならキスをして、小田倉がどうしてもって言うなら、またキスしてやっても良いとまで言われているのだし。

 どうやって手を繋ごうと言わせるか、そんな事を考えながらオタク君の手をチラチラと見て歩いていれば、人とぶつかるのは当然である。


「あっ……」


 しかも、そんな時に限って、相手が飲み物を持っており、それが制服にかかってしまったりする。

 ぶつかった相手が手に持っていたドリンクが、リコの制服にべったりとかかり、制服の色を染めていく。


「わ、わざとじゃないわよ!」


 謝罪の言葉よりも先に、ドリンクをかけた相手が言い訳を始める。

 その相手に、オタク君もリコも見覚えがあった。

 かつてリコをイジメていた主犯格の少女。


「確かに私もよそ見してたのは悪いけど、アンタからぶつかってきたんだから、おあいこなんだから!」


 わざとやったわけじゃない。そんな言い訳を矢継ぎ早に口にする少女。

 その必死さから、わざとではない事はオタク君もリコも分かっていた。

 

「あー、こっちもよそ見してたし、悪かった」


 わざとやったわけじゃないなら、お互いにごめんなさいをして、この場は終わりにしたい。

 優愛のおかげで、彼女からイジメられることもなくなり、関わってくることがなくなった。

 とはいえ、彼女にされたことを忘れたわけでもない。リコの中のランク的には、嫌いな奴である。

 なので、適当に謝罪の言葉を言って、横をすり抜けようとするリコ。

 なんとなくリコが、かつてイジメていた少女の相手をしたくない事を感じ取ったオタク君も、適当に「それでは」と言いながらリコの後をついて行こうとした時だった。


「ちょっと、待ちなさいよ」


 リコとオタク君が穏便に済ませようとしているのに、わざわざ少女は二人を呼び止める。

 舌打ちをしたいリコだが、それをすれば話がこじれてめんどくさい事になるかもしれない。

 仕方なく「なに」とだけ答え、足を止める。


「服、そのままだとシミになるし、そんな恰好で歩き周るのも嫌でしょ」


 まさかのリコを心配するようなセリフに、思わず目を丸くするオタク君とリコ。

 二人がどこか行かないように「ちょっと待ってなさい」を何度も言いながら、少女はスマホを弄る。


「演劇部で服借りれるようにお願いしといたから、ついでに制服洗ってくれるって」


「お、おう」


「良い? わざとじゃないし、ちゃんとアフターケアもしたんだから、また鳴海をけしかけたりしないでよ」


 どうやら少女が必死だったのは、この後リコが優愛に泣きついて報復される事を恐れたからだろう。

 皆の前であれだけやられたのだから、報復を恐れるのは当たり前である。


「ほら、さっさと行ってきなさいよ」


 腕を組み、鼻を鳴らしてそっぽを向き、演劇部の部室とは反対報告に歩き出す少女。

 しばらくその様子を見守ったオタク君とリコ。


「どうします?」


「そうだな。確かにこのままでいるわけにいかないし、シミになると困るから演劇部に行くか」


 演劇部の部室に着いたオタク君とリコ。

 事情を事前に聞いていた部員が、リコを部室に招き入れる。


「着替えるから、キミはここで待っててね」


「あっ、はい」


 部室に入って行くリコを見送るオタク君。

 着替えに時間がかかっている事で、オタク君の中である不安が脳裏をよぎる。

 もしかしたら、実は先ほどの少女の罠かもしれない。

 そんなオタク君の予感が的中したかのように、ドアが少しだけ開くとリコが顔だけ出しながら、顔を赤らめて言う。


「だ、だまされた」


「大丈夫ですか!?」


 中で争った形跡はなかったから、大丈夫だと思い込んでいたオタク君。

 だが、目の前のリコは、顔を真っ赤にして、なんなら少し涙目だ。

 一体中で何が、このままドアを開けても良いのか。もしかしたら制服を取られ裸にされているのかもしれない。

 そんな一瞬に満たない時間の間に、葛藤するオタク君。


「合うサイズがこれしかないって言われた……」


 ドアから出てきたリコは、お姫様のようなドレスに身を包んでいた。

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