半分こ、しよう(百合? 大学生女子二人)
いつまで、こんなことが続くんだろう。
私は、バス停のベンチに腰かけて俯いていた。
手には、吸入器とハンドタオル。
苦しかった呼吸は落ち着いては来たものの、落ち込んだ心は戻らない。
目の前には、駅。乗るはずだった電車は、とうの昔に過ぎ去った。
のどかな郊外の駅では、人影もまばら。このバスロータリーにも、今はほとんど人がいない。
そんな昼下がり。遠くで、ツクツクボウシが鳴いている。
「大丈夫?」
「……先輩」
一緒に旅行に来ていた先輩が、私に何か差し出した。
素直に受け取ると、それは缶のお茶だった。冷えて、汗をかいている。
「すみません……」
「いいよいいよ、発作なら仕方ない」
先輩は笑って、私の隣に腰かけた。
せっかくの先輩との二人旅。
行きたいところをたくさん選んで、時間割を組んで。
さっきまでは、本当に充実して楽しかったのに。
どうして。
「こんなんばっかで……私、人に迷惑ばっかかけて……」
「んー? 私は別に迷惑だって思ってないよ?」
「でも……」
「けど、そうだね。迷惑じゃないけど、君自身が不安に沈んでいくのは、心配、かな」
先輩は、首を傾げると言った。
「あのね、確かに身体がしんどいと不安になるよ。それは仕方ない。でも、他の人のことばかり考えて、そのことで君が必要以上に不安になってしまうのは、心配だよ」
「……」
ぽん、と先輩が私の頭を軽く叩いた。
「素直に甘えなさい。せめて、私には。君は、少し不安を背負い過ぎているよ」
「……」
「大丈夫。私は、君から絶対離れないよ」
肩を引き寄せられ、私はコテンと先輩の肩に頭を乗せた。
視界が、じんわり滲み出す。
残暑でまだまだ暑いはずなのに、もたれた肩の熱が嬉しかった。
「ありがとう、ございます……」
「いいよ」
コツン、と先輩の頭が私の頭に乗った。
「落ち着いたら、そこの売店に入ろうよ。コーヒー牛乳の看板が気になってるんだ」
「……はい」
「ソフトクリームも良いね。二人で半分こしよう」
「はい」
「楽しみだね」
「はい」
先輩の立てる予定が本当に楽しそうで、私は涙を拭き、笑って答えた。
END.