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ワシの夏休暇

作者: 彩葉

 ジーワジーワとうるさい蝉の声で意識が覚醒する。


「……暑いのぅ……」


 枕元で充電していたスマホを確認すると十時を少し過ぎていた。

何て事だ、寝坊した。

ワシは寝てる間は冷房はつけない派なので、ちょっと寝過ごしただけでこの有り様である。

幸い今の時期は仕事の予定も無いのでそこまで慌てる事は無いのだが、如何せん暑すぎる。


 手探りでリモコンを手繰り寄せてスイッチを入れれば、聞き慣れた電子音と共にクーラーが起動した。


「ふぅ……」


 ゴロリ、と重い体で寝返りをうつ。

接触冷感のシーツとはいえそれまで寝ていた部分は完全に温まっており、寝汗も含めて気持ち悪いったらない。


 全く……「ジャパニーズ古民家? 涼しそうですなぁ」だの「周りにアスファルトがないなら涼しくて良いですねぇ」だのと適当な事を言う同僚達を、是非ともこの家に泊めてやりたいものである。

少なくとも我が家はめちゃくちゃ暑いのだ。

もっとも、赤道近くに住む者からしたらワシの住まいも十分涼しいのかもしれないが、その辺は触れずにおこう。


 早く室温が下がらないかと思いながら、ぼんやりと今日の予定を考える。


 ふぅむ……今日は久しぶりに車を出して麓の町まで買い出しにでも行くとするか。

あぁ、でも日差しが強いからな……出掛けるのは真っ昼間を避けて、夕方頃にしよう。

でもその前に、早く家庭菜園に水もやらねば。

この気温でお湯になってしまうと植物が可哀想だし、早く起きないと……


 モダモダと思考だけは目まぐるしく動かしながら枕に顔を埋めていると、カッポカッポと蹄の音が縁側の方から聞こえてきた。


 この軽やかな足音は……トトかな?

いや、勝手に扉を開けて脱走するのはヤンチャなナナかもしれない。

まぁ皆敷地の外に出る事は無いから叱った事も無いのだが──


『失礼します、朝ですよ』


「あぁ……起きてるよ」


『本当に起きてる人は既に布団から出て活動している筈です』


 トトだった。

どうやら真面目な彼女は、なかなか起きて来ないワシを心配して様子を見に来てくれたらしい。


「すまんすまん。すぐ起きるから心配いらんよ」


『それは良かったです。あと、顔を洗ったら水を取り替えに来て下さい。ぬるくて皆テンション下がってます』


 心配してなかった。

ワシは慌てて顔を洗うと、着替えもそこそこに彼女達の住まう小屋へと向かう。

急いでいたので喉元まで伸びた髭が拭ききらず、ポタポタと水が滴って不快だったが仕方ない。

今はこれ以上短くする訳にもいかないのだ。


 扉が開け放たれた小屋には暑がりのアカと面倒臭がりのイーちゃん以外誰も居らず、皆出払っていた。

自由か。


「待たせてすまんのぅ。すぐに水とご飯を替えるからな」


『本当ですよ。こちとらボロい換気扇しか無いんですからね』


『寝坊なんて珍しいね~。氷多めでお願い~』


「はいはい。さぁて、皆も呼んでくるとしよう」


 悪気は無かったとはいえ、家族同然のこの子達より睡魔を取ってしまった事に申し訳なさを覚える。

今度ボーナスが出たら小屋を改築して冷暖房完備にしてあげるとしよう。


「……ふぅ。それにしても暑いのぅ」


『夏ですからね』


 こちらを見ながらモグモグと食事をするアカにホッホゥと相槌を打つ。

麦わら帽子でパタパタと顔を扇ぐがあまり意味は無く、すっかり寂しく後退してしまった頭頂部からは止めどなく汗が流れた。


「オクラが収穫時だな」


『ミニトマトも良さげですよ』


 家庭菜園に向けたホースから放水される水がキラキラと眩しい。

……駄洒落ではない。


「……買い出しに行く前に、かき氷でも作るかのぅ」


『良いですね。沢山作って下さい』


『やったー』


『やったー』


 ポツリと呟いた一言で、食事に戻ってきていた全員から喜びの声が口々に上がる。

そんなに喜ばれるとワシも嬉しいものだ。

こういう時、二年前に業務用のかき氷機を購入したのは間違いでは無かったのだと心底思う。

奮発して良かった。


 水やりを終えたワシはホースをまとめると「よっこいしょ」と、腹を前に出して腰を伸ばす。

たまには運動しないととは思うのだが、どうにも腰が重くていかん。

自然の摂理とはいえ、歳は取りたくないものである。


「さぁて、かき氷でも作るかの」


『その前にご自分のご飯が先では?』


「おっと、いかんいかん。忘れておった」


 この子達の喜ぶ顔が早く見たくて、つい自分の事を後回しにしてしまった。

ワシの悪い癖の一つである。

口元を覆う髭を撫でつつ笑って誤魔化すと、トトに鼻先でつつかれてしまった。


『ちゃんと健康には気を付けて下さいよ。私達の為だけでなく、子ども達の為にも』


「分かっとる分かっとる」


『しっかりして下さいよ、サンタさん』


 もしワシに何かあったら、ワシが担当する区域の子ども達が悲しむからな。


「気を付けるよ」と彼女達の頭を順に撫で、ワシは朝食を食べに自宅へと戻るのであった。



<後書き>


お分かりだとは思いますが、彼女達=トナカイさんです。

(サンタクロースのトナカイは全部雌説に則ってます)


作中では全然活かせませんでしたが、一応名前の設定がありました。


アカ、ハナ、ノノ、トト、ナナ、カーちゃん、イーちゃん。

繋げると赤鼻のトナカイ……(しょーもなネタ)


最後までのご高覧ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい作品でしたね! あれ……? と思いつつ読んで後書きが出てきた時、おおっ! となりました。 ほっこりしました。(*´∇`) [気になる点] ワシは寝てる間は冷房はつけない派なので、 ↑…
[良い点] 名前をつなげると! なんと! 後書きを読むまで、まったくピンともきていませんでした。発想に感心です!! 私は夏のサンタさんというと、 『さむがりやのサンタ』(https://www.f…
[一言] 髭のあたりで「もしや」と思っていたのでラストにニマニマしてしまいました。あのお髭は日本の夏には苦しそうですね。子どもたちのために頑張って〜と言いたくなりますね。
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