上中下の中
そもそもその土地のこと、鬼ごっこのことを思い出したのは、テレビを見ていたらインターネットの地図サービスの特集をやっていたからで、地図モードから航空写真モードへの切り替えとか、サービス提供会社が道を実走して人の目視点の風景を見られるとかやっていたので興味を持って地図サービスのサイトを立ち上げて、自分の家周辺とか行ったことのある旅先を見ているうちに、その土地の駅が目に入ったからなんだそうです。
もう何十年も経っているので駅周辺はすっかり変わってしまった、自分が住んでいたところも変わっているみたいだし記憶が薄れているしで(こんなんだっけかなぁ)と思いながら見ていたら、森と道は変わっておらず、採石場もあって、(あぁ、懐かしいな!)と。
昔を懐かしんで同居してる母親にこの当時のことを話たら、もう母親は高齢だしあちこち引っ越しているからその土地のことは覚えていないって言うんです。
ならばと兄に電話して、この当時の記憶の確認をしようとしたら、
「え?俺採石場では働いてないぞ」と。
Aさんびっくりしたんですがお兄さん続けて
「森林関係のところで少し働いていたんだよ。採石場は行かなかった。お前が一人で行って可愛がられたんじゃねーの?」とのこと。
変だなぁ、じゃあの鍵はなんだったんだろう。兄が働いていた森林事務所の鍵で、あのときは採石場の建物のドアは鍵が開いていたんだろうか。
と考えていて、他にも一緒に遊んでいたみんなの顔や名前も思い出せない、うーんなんだっけなぁとは思うのですが、やっぱり小さかった頃の記憶ってこんなにも無くなるものなのかと悲しく思う程度なんですね。
それで、普通でしたらこういう思い出せない思い出ってのはあって、それもまた忘れて日常を過ごすようになるんでしょうけど、Aさん、その後仕事でそっちの方に行くことがありまして、時間もありそうだからと当時住んでたところに行ってみることにしたんですって。やめときゃいいのにというか、やらなきゃよかったってんですがね。
そっち方面の仕事を終わらせ、忙しくない時期なんで有給を取って二泊予定を立てて、最寄りの駅近くのビジネスホテルに仕事道具を置いて身軽になって、バスに乗って住んでたところに行くんです。
まぁ当時も駅の方にはしょっちゅう行ってたわけでもないので道中の景色がどれだけ変わっているかもよく解らないんですけど、バス降りまして、区画整理でも行われたのか何軒もある家の配置も見覚えがない、当時の住所をたよりに住んでた家に行ってみると、やっぱり違うっぽい、その後来た人が家を建て替えちゃったんだなぁと。
ただ山に行く道は変わってなくて歩いて行くんですけど、森の中って逆にどこの森も変わらないじゃないですか、森の中で働いている人じゃなければ森の中の違いなんて区別着かないと思うのですよ、なのでAさん、いつか見知った場所に出るんじゃないかと歩き続けまして、採石場の建物が見えるところまで来ました。
さすがに採石場は変わらないんですよ、覚えているまんま、なのに奇妙なのは大型車両が一台もない、削られた山と建物だけが記憶のままで、逆に採石の範囲が広がってないのかが奇妙に思えるんです。
なんか記憶どおりなんだけど五十年近く経っているのに記憶通りっておかしくないか?と思うのですが、大型車両がないぶん、もう廃業しちゃったのかなとも思える。
建物が見える位置からまた三十分くらい歩くんですけどね、バスを降りてから、集落を通ってここまで来て、採石場に着くまで誰にも会わない、うーん、過疎なのかなぁと思いつつ、変わらず懐かしく奇妙に思う採石場敷地に入って建物まで歩きまして、そこでようやく気がついたんですが、
車を停める場所は敷地一杯にあるんですが、雨が降ったときでも濡れずに建物に入れるように、一階は駐車スペースになってるんですよ、車二台分くらいしかスペースないんですけど、雨も降るときは降りますからね、建物を作ったときに濡れるのが嫌だって人が設計したんでしょう、でトイレも一階にあるんです。作業してる人がトイレに行きたくなったとき、いちいち二階の事務所まで上がらずに済むよう、一階にもトイレはあるんです、じゃなんであのときの自分は二階に上がって二階のトイレを使おうと思ったんだろう?一階は汚かったのか?鍵を持っていたからかな?とよく解らないんですが、まぁ深く考えず階段を上りましてね、
ドアをノックしても返事がない。今日は休みなのかと思いつつ、ドアノブを廻してみると、廻るんです、ドアが開くんです。
外出してるのかな?とドアを開けますと、机があって椅子があって、机の上に何か黒い物があるんですけどそれ以外は何もなくてガラーンとしている。埃っぽくて、あぁ、やっぱりもう廃業したのか、と。




