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第九話 聖女様が見てる


「聖女様の!お成~り~!」


澄み切った青空の下、

さわやかなイケメン小姓の声が

カンブリア宮殿にこだまする。


皇帝と聖女カリスの住まう宮殿に仕える貴族達が

次々と出仕する。


なかでも、聖女カリスに仕える事を許されているのは

名門貴族の出身で選りすぐりの美男のみ。

高貴な生まれの心身を包むのは

Anomaguchi Carisという

イニシャル入りの制服である。


カリスの乗った輿を担ぐ彼らは

今日も元気に宮殿の廊下を歩き、

彼女を目的地まで運んでいた。


「聖女カリス様。

前方からオレノイデス殿下と取り巻き集団が

こちらに向かって来ております」


迂回しますか?と先導の小姓は

輿に乗ったカリスに訊ねる。

彼は白金の髪に緑の瞳の素晴らしい美少年である。


「構うことはありません。

進みなさい。私は救国の聖女カリス!

小舅(こじゅうと)ごときに譲る道はありません。

私が道を譲る御方は

未来の夫である皇帝陛下ただ一人です」


無情にもそう告げると、小姓は

「かしこまりました」と

引き続き先導を再開した。


―間もなくして、カリスを乗せた輿と

オレノイデスご一行が廊下でかち合う

決定的″瞬間(トキ)″が訪れる。


賑やかに笑いさざめき、遠足の様にはしゃいでいた

オレノイデス率いる取り巻き(パリピ)集団は

聖女カリスの旗印に気付いた瞬間、

全員が顔色を失い凍りついた。


次の瞬間、我に返ると

一斉に壁際に張り付きカリスの為に道を空け、

壁と同化し存在を消す。

指一本動かさない。


…この世は弱肉強食だ。

ある日突然カンブリア帝国に現れた聖女カリスは、

それまで権力の頂点に居た王族を

猫が獲物をなぶる様に容易く蹂躙した。


圧倒的な力を見せつけ王侯貴族らを

恐怖に陥れたのだ!

我々は彼女の前では無力な獲物でしかないのだ!

一秒でも早く聖女一行がこの場を通過するように

神に祈りながら冷や汗をかく。


オレノイデス公だけが、

顔面蒼白ながらも辛うじて意識を保ち、

通路に踏みとどまって話しかける。


「これは…聖女カリス殿。

ご機嫌いかがですか。

薔薇の花とて色霞(いろかす)む貴女のその美しさは、

御簾(みす)ごときでは到底隠しきれませんね」


先日のブローチ事件で

カリスに突然の火の粉を浴びせられた

オレノイデスはショックから立ち直れずにいた。

また陰謀に巻きこまれるのではないか、と

ビクビクしつつもカリスをおだてて

この場をやり過ごそうとしたのだが


「なんですか、この趣味の悪い御輿は?」

突然、オレノイデスの背後から声が響いた。


「どれどれ…

聖女カリス参上ですって?

そんな名をしたチンクシャが

いま世間を騒がせている様ですが。

アタクシ達はそんないかがわしいコムスメ、

少しも信じておりませんわよ」


オレノイデスの後ろにはいつの間にか

カンブリアの暴走3姉妹と言われる

3人の姉が立っていた。

好戦的かつ武闘派が過ぎて、

国内はおろか海外でも

ヨメの貰い手が無かった3人組だ。


地獄の番犬ケルベロスの様に獰猛な

彼女達のモットーは、退かぬ、媚びぬ、省みぬ。

命を惜しまず、

死に進むを知って生に退くを知らぬ彼女達は

聖女カリスの逆鱗に全力で触れていた。


「ナラオイア姉上、クアマイア姉上、シンダレラ姉上。

あの世でもお元気で」

オレノイデスが神妙な面持ちで今生の別れを告げる。


「フフ。

何処までもフザケおって…ちゃうわ!」


ナラオイアに掴まれブン投げられた

オレノイデスは破壊音と共に壁にめり込んだ。

取り巻き集団は悲鳴をあげて

蜘蛛の子散らし状態で逃げていく。

数人の忠義者だけが

死を覚悟してその場に留まり、

壁にめり込むオレノイデスに付き添った。


「聖女カリス様。

皇帝陛下の姉君3人衆と遭遇しました。

左から長女ナラオイア殿下、次女クアマイア殿下、

三女シンダレラ殿下。

従軍経験もある一騎当千のつわものです」


如何しますか?と先導の小姓は

輿に乗ったカリスに訊ねる。


「死ェヤ!!」


返事の代わりに電光石火の素早さで

カリスが藁人形に釘を打ち込んだ。

人形には今しがた聞いたばかりの

ナラオイア(長女)の名が記されている。

ナラオイアは胸を押さえると

地面に倒れて動かなくなった。


姉上~ッ!と残り2人が喚き、騒ぐ。


一番態度のデカい長女さえ仕留めてしまえば

妹二人はどうにでもなるとカリスは踏んだ。


「勝敗は既に決しました。降伏して下さい」


先導の小姓が残る2人に静かに促す。


「ナメるなよコムスメ!」

「我ら姉妹に退く道など無い!死ねやコラーッ」


目の前で姉が倒れても怯むどころか激昂し、

カリスの輿に飛び掛かる。

惚れ惚れする様な益荒女(ますらめ)ぶりだ。

カリスが更に2撃打ち込み、

2人の皇女は地面に倒れた。


「見事なり。

小姑(もののふ)とはかく有りたきモノですね」


カリス一行は倒れた3人に手を合わせ、

勇敢な最期を称える。


皇女3人は、

王族にかかる費用が国庫を圧迫してるという理由で

(実際は聖女カリスの服飾費だが)


修道院に入るか、

宮殿を去り姉妹名義の城に住み

自費でやりくりするか選ぶ様

皇帝(おとうと)に求められていた。


「王族は日に パンは三斤 布団は一組有れば十分」


と聖女カリスが皇帝に提案したのだ。


それに激怒し、

皇帝(おとうと)をシメ上げる為に

向かっている最中の出来事であった。


先代皇帝に溺愛され、

嫁には行かず戦争に行きさらには

歴代の寵姫達と連日連夜激しい戦闘を繰り広げた

カンブリアの皇女3人衆は

異世界人阿ノ間口カリスの手によって

ついに倒され、

今は静かに自らの領地で暮らしている。


(本物のいくさ人は運も強い。

3人共死んだかと思いきや

気絶していただけだったのだ)


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