第六話 金貨が無いならお馬をお売り
皇弟オレノイデスは絶句した。
出入りのモード商、
シー・ベルタンから請求書が届いたのだが、
そこに書かれていたのは
ドレス一着の代金としては破格の金額だった。
異世界風デザインのドレス…1着300万ゼニー
金銀宝石を散りばめた装飾品一式…1億2000万ゼニー
…正直、これほど高いとは。
オレノイデスは生まれて初めて後悔した。
が、自分から言い出した事であり
聖女の手前もある。
ケチな男だと思われたくないので
値切る事は出来ない。
諦めて払うしかない。
しかし舞踏会の費用も嵩む。
手持ちの金貨では足りない。
馬を一頭売ろう…
こうして、
阿ノ間口カリスはドレス一式を手に入れ、
オレノイデスは馬を一頭失った。
舞踏会の日がやって来た。
ベルタンの作った異世界風ドレスは豪奢で、
しかし聖女らしさも忘れない逸品だった。
ミュ◯ャの絵のごときそれは
白い布を体に纏わせたドレスと、
共布のフードの様な頭巾をかぶり
金銀細工の華麗な装飾品で飾られていた。
靴も金糸で刺繍されたトゥシューズ風の
美しいものだった。
オレノイデスは表面はにこやかにエスコート
しながらも心中で泣いていた。
しかし落ち込んでばかりもいられない!
自分は次期皇帝、
オレノイデス・A・カンブリアなのだから!
「ドンペリ100本入りました!」
「ドンペリタワーの入場です!
国一番の美男子、オレノイデス殿下のテーブルです!」
「帝国で、いま最も美しい!
異世界から舞い降りた我らが天使、
カンブリアの唯一絶対的女神!
聖女カリス様に乾杯!」
「カリス様かんぱーい!」
オレノイデス率いる、LV99の最強パリピ集団が
ホストクラブのごとく場を盛り上げる。
まばゆいばかりの蝋燭ライトが
天井に届きそうな程高くそびえ立つ
ドンペリタワーを映し出す。
「TE-KI-O-は」「どこだ!」
突如、ステージに舞台女優の声が響く。
会場内に作られた舞台で大人気の歌劇
「TEKIO-とSEIJYOカリス」の上演が始まったのだ。
詰め掛けた観衆は久々のステージに
期待で爆発しそうだ。
燭台を斜めに被りオーバーサイズの白ドレスを着て
小道具を手にしたカリス役女優が
ギヌロと観衆を睨みあげた挙げ句、口を開く。
「 おのれTEKIO-!サッサとSINEYO!
鬼のGYOUSO!カリスSANJYO! 」
(ドガ~ン ドガ~ン ドッガガガ~ン
ドガ~ン ドガ~ン ドッガガガ~ン!)
釘打ちプレイは絶好調だ。
観衆の熱狂もこわいくらいだ。
カンブリアの時代は始まったばかりだ。
そんなメッセージがカリス役女優の口から
飛び出していく。
本物の丑の刻MAIRIが、ここにあるのだ。
舞踏会は大盛況で、酔っぱらいながら舞台を見た
観衆達がこぞって頭に燭台をかぶり
髪が燃えるボヤ騒ぎが多発し
消防隊が出動する騒ぎとなった。
オレノイデス公のそびえ立つシャンパンタワーも
混乱の最中ぶっ倒れた。
一瞬の輝きであった。
髪を燃やしてしまった貴婦人達は
こぞって黒髪のかつらと燭台を被り、
カリスのコスプレをして街を闊歩した。
それを見た市民達もこぞって真似したので、
街を歩けばカリスに当たるという有り様であった。