第四話 皇弟オレノイデス
隣国との戦争はカンブリアの勝利で幕を閉じた。
リッチな隣国の肥沃な国土を奪い取ったことで
戦争景気が発生し、
城下町では呑めや歌えのお祭り騒ぎで
カンブリア民達は寝るのも忘れて踊り狂った。
なかでも、救国の英雄カリスの人気はうなぎ昇りで
猫も杓子もカリス・カリス
カリスの似顔絵、カリス人形、カリス飴…
カリス関連のグッズの売れ行きは大変なものだった。
「聖女カリスの似顔絵だよ!1枚1000ゼニー!」
市場では露天商が声高らかに商品を売り込んでゆく。
「安い!買った!
田舎の親戚にも配りたいからあと10枚くれ!」
「あたしにも頂戴!」
カリス関連商品の露天には即座に市民が群がる。
「順番ね!今から追加で書くから、待って!」
店主が大声で市民を宥めようとするも、
「押すな!騒ぐな!ワーワー」
カリスグッズを求める市民達の興奮はしばらく
収まりそうも無い。
―聖女グッズで蔵が建つ、という言葉も生まれた。
カリス人気で荒稼ぎをした目端の利く商人の中には
露天商から大商人へと成り上がった者も居るという。
国民達からの聖女カリス人気は
もはや皇帝すら凌ぐ有り様で、
さながら天下人の様だった。
…その人気ぶりに目をつけた1人の男がいた。
帝国一の美男子で
自称ロイヤル・エグゼクティブ・プロデューサー、
カンブリアのオルレアン公こと皇帝の実弟、
オレノイデス・A・カンブリア。
ロイヤルニート・ロイヤルパリピの
特A級のスネカジリである。
無芸、無能ゆえ誰からも期待されてないのだが
彼には野心があった。
玉座に座りたいと言う野望が…
今ある立場の恵みを享受し、皇帝を支えながら
取り巻き達と賑やかに華やかに過ごす、
という選択肢もあるのだが
彼の望みはあくまでも玉座だ。
その為には力が必要だ!
全てをひっくり返す巨大な力が…!
異世界人・阿ノ間口カリスこそがまさにそれだ!
乗るしかない、この″大波″に!
オレノイデスは即座に動いた。
今をときめく聖女カリス宛に
舞踏会の招待状を贈ったのだ。
用意の良いことに
舞踏会用のドレスの仕立て券、
会場までのエスコート券、
送迎用の馬車券付であった。
(全てドタキャン防止のためである)
「陛下…!
義弟オレノイデス公が私に憧れるあまり、
このような恋文を贈ってきました。」
招待状を受け取ったカリスは
ひとまず皇帝に相談することにした。
阿ノ間口カリスに招待状を贈ったオレノイデス。
この迂闊な行動が、
彼の身に多くの困難を与える事になるのだが、
いまはまだ誰も知る由もない。