第一話 赤字の聖女
異世界ファンタジーです。
拙い文章ですが楽しんでお読み頂ければ嬉しいです。
「朕は聖女なり」
皇歴2000年。異世界。
西の大陸、ナーロッパには莫大な国土と軍事力を
保有する巨大帝国カンブリアが君臨していた。
異世界の名門ハプスブルグ家とでも例えたい様な
巨大な帝国である。
今から400年ほど昔、
皇歴1600年頃のカンブリア帝国に
1人の異世界人がいた。
その名は【亜ノ間口カリス】。
当時、隣国との戦争に負けそうになり
自暴自棄となった第16代カンブリア皇帝が行った
秘術・異世界召喚の儀により
突如この国に現れたのが異世界人・
亜ノ間口カリスだ。
黒髪の若く清楚な女性であったと記録されている。
異世界人カリスは当初、自らが置かれた状況に
ひどく困惑し途方に暮れていたらしい。
が、皇帝の熱心な説得により状況を理解し、
受け入れると即座に行動開始した。
(一説では皇帝が金髪碧眼独身のイケメンだった為、
彼女が俄然やる気になったと言われている)
カリスは聖水で身を清めた後、
純白の衣装一式といくつかの道具を要求した。
(この際、要求された衣装について行き違いがあり
皇帝と教会を巻き込む大騒動となるのだが
今は省略する)
カリスは材料が揃うやいなや
珍妙な人形を作り上げた。
そのまま皆の制止を振り切って城を飛び出し、
隣国が見渡せる山に分け入ると
3日3晩ぶっ通しで異世界に伝わる呪いの儀式を
執り行う。
(その情報は敵国のスパイにキャッチされ、
光回線より速く敵王に伝えられた。
が、
報告を受けた敵王は恐怖で気を失って昏倒し、
頭をしたたかにぶつけて意識不明の重体となる)
そして4日目の朝、みごと崩御した。
かくしてカリスは敵王の討伐に成功する。
これにより戦況は一気にカンブリアに傾き、
大勝利を納めた。
カリスは帝国を窮地から救った英雄として
国中から称えられ、
その栄光は並ぶ者も無くカンブリアの聖女として
崇められた。
国民達は長い間、戦争で娯楽無き灰色の日々を
過ごしていたので
夢中になってハマれるものもなく、
むなしい毎日を送っていた。
その渇いた心に彗星の様に現れたのが、
救国の聖女カリス。
「待ってたゼェ…!?この"瞬間"をなァ…!?」
「乗るしかない!この"大波"に…!」
民達は狂喜し、聖女フィーバーに殺到する。
カリスの人気と名声は成層圏を突破し
宇宙に達し
関連グッズはどんな品でも瞬殺・入荷時期未定
となった。
女性たちは老いも若きもこぞって
カリスの姿形を真似たので、
道を歩けばカリスに当たった。
当初、カリスは万事において控えめで
はにかみ屋な性格だったと伝えられていた。
しかし、ある人物との出会いが
彼女の心を変えてゆく。
帝国一の美形で皇帝の実弟・オレノイデス公。
(曰く、カンブリアのオルレアン公)
後世ではカリスを奢り高ぶらせた元凶であり、
A級戦犯の大罪人、特A級のスネ噛りとされている。
―彼には野心があった。玉座を狙い、
セコい陰謀をセッセと練るのが唯一の楽しみだった。
カリスフィーバーに目をつけた公と取り巻き軍団。
彼らはまず、インドア派である彼女を
同じくインドア派の皇帝と引き剥がすようにして
社交界に連れ出した。
そこでカリスに贅沢を教え華やかな社交界を体験させ、
パーティーでは身銭を切って
セッセとシャンパンタワーを積み上げては
景気よく振る舞った。
オレノイデス公率いる、
LV99の最強パリピ取り巻き軍団に
誉められおだてられ
チヤホヤされ尽くしたカリスは
公の思惑にまんまとハマる。
―遊び相手としては最高だが、
絶対に結婚してはいけないタイプ。
(オレノイデス公に対して、後世の学者が下した
評である。
オレノイデスは美貌しかない無能だが、
ホストとしてなら一級品であり天賦の才を
持っていた、とされている。
この節にも賛否両論が有る)
冒頭の「朕は聖女なり」は
この頃のカリスが放った一言なのだ。
ちなみに公はカリスの教育と育成に大失敗し、
手塩にかけて育てた彼女に全財産を没収された挙げ句
帝国最強最悪と名高いブスティーヨ監獄に
幽閉されるが危機一髪で逃亡している。
(どうでも良いが二人は同年代である)
当時のカンブリア帝国16代皇帝が記した日記によると
【 聖女カリスは偉大だ。
その功績はあまりにも強大すぎる。
しかし、彼女にかかったあらゆる費用…
365日間の滞在の間にカリスが使った金は
我が国を傾けるほど巨額であり
小国なら破産するほどの額だ。
ここに、カリス御用達のモード商からの請求書がある。
ドレスひとつとっても、目眩がするほど高額だ。
ドレス1着…300万ゼニー
1日5着…1500万ゼニー
1週間分…1億500万ゼニー
365日分…天文学的な数字
女性が装うにはそれなりに費用がかかる。
装飾品も輿も馬車も城も、全て必用なものだ。
ましてや聖女は我が国の至宝…
聖女が威厳をまとうのは当然のことであり、
我が国の為でもあるのだ。
くっ!
何故か涙が…
この天文学的な赤字を解決するには
どう見積もっても孫子の代までかかるだろう…! 】
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皇歴2000年。
カンブリア帝国の王宮にある図書館の一室。
山の様な本を机に積み上げて読み耽る人物が居た。
目の前にあるのは今から400年ほど前、
第16代皇帝の時代を記した本ばかりだ。
今読んでいるものは皇帝ハルキゲニアの日記である。
その日記には、聖女カリスを召喚した日から
元の世界に帰還する日までの出来事が
1日も欠かさず記されていた。
第16代皇帝・ハルキゲニア・Z・カンブリアは
ずいぶんと筆マメな性格だったらしい。
今も残る資料では彼はバリバリのインドア派で
質素倹約、唯一の趣味は錠前作りとされている。
それにしても、そんな皇帝の治世に異世界から
召喚されて仮にも聖女と称えられた者が
金遣いが荒かっただと…?
小国なら破産するほど散財…?
ドレス高すぎないか。
400年前の話だから物価はよくわからないけど。
亜ノ間口カリスとは一体、
どういう人物だったんだろう。
これはカンブリア帝国に伝わる
奇跡を起こし、借金を残した
ひとりの聖女の物語である。