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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第九十三話 熱光を制す


動いたのは尾を持つ異形だった。


頭部に被せられた麻袋の様なものを揺らしながら四つん這いになると、軽く屈伸して飛びかかってくる。


対してミシェルが頭部を蹴りあげ、そのまま頭目掛けて剣をフルスイング。

あの強靭な肉体と骨を切断するには至らず、異形は頭部がぐちゃぐちゃに潰れたような音と肉片の代わりに赤い発光を撒き散らしながら吹き飛んでいった。


そこへ残りの巨腕の異形と触腕の異形が踏み出す。

振るわれた巨腕を指を鳴らして起こした衝撃波で消し飛ばし、伸ばされた八本の触腕をレイズが全て切り落とし、ミシェルが吹き飛ばした異形にメルキアスが剣先から雷撃を放つ。


雷撃に撃ち抜かれた異形は体をビクビクと痙攣させるが、全身から赤い発光が沸き立つと全ての傷が回復し、肉体を膨張させた。



「ん?あれって発光に直接魔力送らなくても膨らむんだっけ?」


「雷というものは体内の細胞を直接攻撃できますからね。ついでにしばらく体内に残存するのでそれを勝手に吸ってくれるかと思ったのですが、当たりですね」


「…数を返されると厳しいな」



私達を観察していたカトロスはペンでも回すように杖を手元でグルンと一回転させると、杖の先の残した軌跡に光が走り、光輪が現れる。


光輪は勢いよく回転すると、地面に落ちて車輪のように転がってくる。



「さっきからあいつどういう系統の魔法使ってるわけ?イマイチ統一性が掴めないのよね」


「さあ?カトロスはあまり長期戦をさせてくれませんから、中々情報を得られないんですよ、ね!」



向かってきた光輪をメルキアスが剣で弾く。

勢いで跳ね上がった光輪は弧を描いて地面に落ちると、その場で大きく跳ねると、空中で向きを変え、地面に着いてから再びこちらに転がる。


追尾(ホーミング)というよりは遠隔で操作されているような方向転換の仕方だ。

ならそれを動かすのは…とカトロスを見ると、その場を動くことも自身が攻撃に加わろうとすることもせず杖を揺らしたり傾けたりしている。



「ミシェル、メルキアス、あいつ今無防備っぽいわよ」


「お、確かにあの光輪と繋がりが見えるね…どうせ今狙っても解除して防がれるだろうけど」



軽く権能を使ったのからか、一瞬目をギュッと瞑ったミシェルは後ろ向きな事を言う。

ちょっとムッとしたので背中を叩く。



「何さ…」


「メルキアスと行ってきなさい。二人がかりなら押せるでしょ」


「私は構いませんが…異形三体を抑えられますか?」


「やってみなきゃ分からないわね。というわけあんたも踏ん張りなさい」


「えー…僕あーいう力押ししてくる奴結構苦手なんだけど…」



不満そうに言いながら再生しては伸びてくる異形の触腕を切り落とすレイズ。

強いっちゃあ強いのは分かるが、未だその力の本領を見せてないらしい彼にもまた興味があるので、この辺りで力を出し切って貰いたい。

好奇心は否めないが、普通に連携に支障が出るのも困るだろう。

それを察してかレイズは軍服の袖から細いガラスで出来た筒のような物を二本取り出すと、片方をフィリアに投げて寄こした。



「説明するの難しいから、見て慣れて。二回見せるからそれで慣らし、三回目で一気に落としてもらわないと困る。それは君たちで考えて有効に使って」


「…分かったわ。ミシェル、メルキアス!頼んだわよ!」


「はいはい、りょーか…いっと」


「分かりました…!ここが今のところの山場ですしね!」



ミシェルが巨腕の異形の振りかぶられた腕を受け止めながら、メルキアスが尾の異形の胴を両断し、その際に独立した下半身の尾による一撃を脚に掠らせ血飛沫を飛び散らせながらも答えた。

…普通に異形が強い。

この戦力でもこのままだと持久力の差で全滅しかねない。


その打ち合わせの様子を見ていたカトロスは動かれる前に崩そうとしたのだろう。

転がる光輪を自身の元まで戻すと、それを杖に引っ掛け、フラフープのように杖の周りで回した。

そして杖ごと大きく振り上げたと思えば、光輪を投げつけて来たのだ。


これを巨腕を弾いたミシェルが剣で受け流そうとしたが…光輪は急に浮き上がり、ミシェルの頭上を過ぎる。

その光輪の向かう先は…私だ。



「後ろから支援してくる奴は、先に落とすよね!」


「合理的ね、私も昔はよくやったわ!」



魔法陣型の障壁を展開する。

光輪は障壁に激突し────一拍も置かず突き抜ける。



「っ!『隔壁』!」



咄嗟に空間系統の防御魔法、同じ空間系統の魔法には脆弱なものの、それ以外に対しては絶対な防御力を誇る防壁で自身を覆い、光輪を弾いた。



(光輪を杖で回してた時に魔力を足してた?メルキアスが受け止めてたのと同じ威力だと思って油断した…!)



空間系統の魔法は魔力消費が多い上、カトロスも空間系統の魔法を使ってくる可能性もあったので、使用を控えていた。

ここから押し切らなければ行けないという時にこの消耗は地味に痛手だ。



「フィリア!大丈夫!?」


「ええ…だけど…」


「反撃なんてさせはしないよ。このまま上から捩じ伏せる…」



カトロスは杖を持っていない方の腕を天にかざし、握りしめるような動作をとった。

あれは確か…うろ覚えだが、神教国で交戦した時に意識を失う寸前にあいつがとっていたのと同じ動作だ。



「っ!全力で防御!」


「…!メル、頼む!」


「はい!」


「私も…『白夜の天蓋』!」



メルキアスは全員を覆う半透明の膜のような結界を、ミシェルは狂ったように回転する光輪を私達とカトロスの間に割り込ませる。



(…このままだと不味い気がする。あの攻撃と同じものなら、どうすれば防げる?直前にグレンと戦ってたからと言って、私達が一瞬で意識を失うような魔法…?それとも…)



あの時、意識を失った私達にトドメを刺さずに撤退したのは近くにハルトマンが伏せていたことに勘づいていたのも一つだろうが、それに起因して、ハルトマンと戦うことが出来ないような状態にあったからなのではないだろうか?

となると、余裕を持って現れたあの状態でそこまで消耗するとしたら、あの技にはかなりのデメリットがあるはず。

逆に言えば、今それを使うということは、私達にはもうそれを防げないと判断したからか?



(あの後現場がどうなってたのかフロウかハルトマンに詳細に聞くべきだった…けど、確か火傷してたって言ってた。特徴からオルターヴで共闘したオウガの使ってたあの炎の魔法と同じものじゃないか?ってフロウは推測してたけど…)



必死に頭を働かせる。

ここで負けると本当に死ぬ。

どうしても防げそうになかったら最悪帝都のセレナ達が移送用で使っていた転移魔法陣を辿って全員飛ばすが…そうなるとオルターヴは壊滅するだろうし、ここに釘付けにしているカトロス…はともかく、異形達が他の戦場に向かって戦線のバランスが崩れるだろう。

一か八か、やるしかない。


ここまでの思考はほんの僅かな一瞬。

こんなにも短い時間で考えたのは大戦の時にミシェルとやり合った時以来かもしれない。



「『凍結世界(ニヴルヘイム)』!」



使ったのは、純粋な低温化。

対象は、メルキアスが覆う結界内。



「ちょっ…!?」


「な、何を!?」



突然の極寒にメルキアスとレイズは抗議の声を上げるが、それを無視してさらに温度を下げる。

カトロスがその行動に驚きつつも、天にかざした手を振り下ろした。



「『招来:恒星(エントリー・サン)』」



─────白い光が視界すべてを埋め尽くす。




























「──────〜〜っ!!あっつぅぅい!」



ミシェルの苦悶の声が響いた。

白い光が晴れたと思えば、当たりは焼け焦げ、至る所で火災が起きて黒煙が燻っている。

人的被害は…ミシェルの翼がちょっと燃えていたり皆所々火傷したりしているようだが、致命傷にまでなっている者はいなさそうだ。



「はぁ…はぁ…なんですか、今の…?」


「多分…太陽の熱を直接地上に運んだんじゃない?」


「はぁ!?」



この世界の技術体型はまだ勉強不足だが、魔法的な防御というものが開発される過程で安全のためにある仕組みが組み込まれる筈だ。


それは、()()()()()()


物理的な遮蔽効果を持つ結界が自然光を遮ってしまえば、結界の中は常に真っ暗闇になってしまうし、光が通らないのだから外を肉眼で観測することも出来なくなる。

そのため、結界や魔法障壁は基本自然光を透過する。

その際、光と共に熱も透過してしまうのだが、自然光にそこまでの高熱が含まれることなど普通は無い。


カトロスが扱う攻撃は、恐らく太陽の直近に転移門のような物を開き、その熱量を直接地上に解放しているのだと思われる。


あくまで自然光だからこちらの防御は透過するし、太陽…恒星という自然界において限りなく最高熱の物体から放たれる熱量は天使や悪魔(わたしたち)の体力すら一瞬で奪う。

あの時ノフティスは神器と権能を併用した強化状態にあったからあれにも耐えられていただけで、普通人間に耐えられるような性質の攻撃じゃない。


防げないなら、逃げるか、耐えるか。

今は耐えるを選ぶしかないのならば、高熱に耐えられるだけの低温空間を作り出すしかなかったのだ。

魔法による冷気は特殊で、ある程度物理法則を無視出来る。

超高熱により空気を熱された瞬間に冷やし、一定の温度を保ち続けることだって可能だ。

まあこの高熱なら、それを行うために凄まじい魔力を持っていかれるので耐えるにも限界はあるが。


しかし限界が来る前に放熱は終わった。

自分はこの場から一旦離脱していたのか、様子を見るような感覚でふらっと転移で現れたカトロスは驚愕に目を剥いた。



「…見くびってたよ。逃げられない状態で確実に全滅させようと思ったけど…やっぱり無理してでも君達はあそこで殺しておけばよかった」


「残念だったわね。とはいえ、地上から遥か天空の恒星まで転移門を繋げるその技量には敬服するけど」


「嬉しくないよ…」



露骨に嫌がるような声色で答えたカトロスは、ため息を吐いて自らの杖を両手で横に持った。



「?」


「…途切らせ、分かて!『忘剣 ニールスフェース』!」


「…仕込み杖…神器?」



カトロスは杖から細い長剣を抜き放った。

刀身は青く、杖の形に合わせて少し曲がっている。



「ここで全てを使い切って君達を殺す。ここで終わらせる!」


「…行くわよミシェル」


「うん、さっきは助けられたけど、今度は私が助けるから」


「ふっ…」



正直この時点でここまで消耗する気は無かったのだが、仕方ない。

それほどに相手が厄介なのだ。

他の軍勢の相手は皇国連中に任せるとしよう。












「助けられてばっかりだと格好悪いものですね、レイズ」


「残念ながらメル、あの二人がいないともっと前にだいぶ格好悪い事になってただろうからね。今更だよ」


「なら私達も恩に報いるように頑張りましょうか」

位相の騎士との戦いもついぞ大詰め────

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