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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第八十九話 皇国侵攻

設定資料:アルカディア

ミシェルとフィリアが終戦後に天使と悪魔の関係を良好にするために立ち上げた国。

天界と魔界(地獄)の間にある遠き大地に建国された。

天界において国は神が作るものであり、ただの天使や悪魔である彼女らが建国を行うというのは異例中の異例であり、建国の際もミシェルの主神から許可を貰っている。

これに関して、アルカディアが正常に統治できていることを一定期間ごとに主神に報告する義務が課され、その際はミシェルが主神の統治する理想たる神の国に出向いていた。

建国当初は住人を入れる事と住人が暮らせる家を作ることに苦労したが、互いに大戦時代から慕われていた後輩達を初めとして協力者が集まり始め、形が出来上がって国家の運営に余裕ができてからは獣人や精霊、妖精等も受け入れるようになった。


「神教国が…挙兵?」



雪もほとんど溶け切り、空気も暖かくなり始めたこの頃。

たまにはフィリアがクッキーでも焼いてみようと息巻いていた時、家の戸が叩かれた。

出迎えたのは皇国の軍服を着たオルターヴに駐屯している兵士で、尋ねた理由についてはお察しだ。



「はい、現在他の住民にも避難を促しており、ひとまずリリエンタやハルテノトイルに移って頂いてます。移動の足や費用については国が負担しますので、御二方も移動をお願いします」


「ふ〜ん…国の防衛体制はどうなってるのか聞けるかな?」


「あ…えー、一応御二方は身分上の所属として皇国の軍部扱いになっているようですし、機密以外なら…」


「そういえばそんなことになってたわね…今度正式に書き直してもらいましょうか…」


「まあ自分もただの一兵に過ぎないのですが、国側の対応としては───」


















「最近の戦況はこっちが押していた。神教国の国境に前線を食い込ませ、国境付近のいくつかの都市の占拠と─────も完了していた。だから連中もそろそろ仕掛けてくるだろうとは思っていた。異形を差し向けてきたことや、ロマンテが出ていた戦場で連中が妙な行動を取ってきたり、嫌な予感はしていたが…まさか戦力の殆どを投入してくるとはな」



帝都の王城にて、会議室に集まる皇国の重鎮たる面々。

全員は流石に集まれなかったものの、とりあえずはある程度やりたいことはできる。

しかし、陛下含めたこの連中の前で仕切るのは普通に緊張する。

だが仕事は仕事、ようやく気温が上がってきて過ごしやすくなったので割と調子が良い私は話を続ける。



「さて、状況の確認だが、こちらが占拠していた神教国側の都市は全て取り返された…というより、年ごと置いていた兵士が潰されたな。その際侵攻に参加してきた聖騎士の第二席、ウォンフォスと最前線で指揮を取っていたレイズが交戦。その際戦いを見守っていた兵士の証言によると、以前オルターヴを襲おうとした異形と類似した特徴を持つ二体の怪物がウォンフォスに加勢。その後レイズは敗北、駆けつけたロマンテが回収できたから一命は取り留めたものの、暫くは戦わせられんな。奴らの動きについてはエミュリス。確認できた範囲で頼む」


「りょー。知っての通り私の権能でできる索敵の範囲は皇国の領土のほとんどはカバーできるわけだけど、そこから割り出した連中の動きについては、現在主となる軍隊を二つに分けて片方はスクエラート、もう片方はオルターヴに向けて侵攻中だね」


「あ?なんでオルターヴの方に向かってんだ?距離ならアルネスタシアの方が近いだろ」



エミュリスの説明に疑問を覚えたワズベールが律儀に挙手して理由を聞いた。



「ヨグナ・ミーオ山脈からナルユユリが散歩にアルネスタシアの近くに来てるみたい。少し前まではナルユユリにまでちょっかい出そうとしてたみたいだけど、それをちゃんと避けてきてる」


「はっ、それだけで本気で攻めてきたってことが分かるな」



勿論ナルユユリと戦っても連中といえど壊滅は免れない。

だから普通は避けてくるのは当然のことだが…竜すら滅ぼそうと考えている神教国ならなにかしら工作の一つでもしていておかしくない。

何より味方の犠牲も厭わない連中の事だ。

この前のハナユクラの時のように暴走を促して巻き込みを測って来ることも考慮していたから故に、あの辺も守りを固めていたが…それも無視されると面倒だ。


と、そこにメルキアスも挙手をした。



「フロウ、先程の話ですが、ウォンフォスに加勢した異形に似た怪物について他に情報は?」


「詳細は現場にいた兵士がメモを取っていたから、それの写しを後程全員とその他各部に回す。それに伴ってエミュリス、続きを頼む」


「うん…今回侵攻してきた二つの軍隊だけど、スクエラートに向かう方にその異形に類似した怪物が最低七体、オルターヴに向かう方に最低十三体同行してるみたいなんだよね」


「…あれを量産したってか?ちっ、面倒くせぇ…」



実際オルターヴを襲撃しようとした異形と交戦したオウガが舌打ちをして悪態を着く。

実際レイズが交戦した方もバラバラに切り刻んでも再生するような不死性を持っていたようだし、確認した怪物共が全てそのような特性を持っているのなら、攻略はかなり困難だろう。



「…それでもう一つ、最悪なのが…スクエラートに向かう方を率いてるのが、ロズヴェルドってこと」


「!」


「奴が…遂に直接攻めてきたのか…」



その場に一気に張り詰めた空気が走った。

怪物については未知数だが、少なくとも実力者の数はこちらの方が多い。

聖騎士の五席以下は黄道十二将星(セレスティアルライン)の敵ではないし、四席以上についても負ける適材適所を当てれば問題ない。

だが、ロズヴェルドが出てくるのなら話は別だ。


二十年前の神教国攻略作戦…当時の黄道十二将星(セレスティアルライン)が全て集い、兵士の大半も総動員して行われたその作戦は、ロズヴェルドたった一人により瓦解した。


その時の戦いに参加していたハルトマンは目を細め、ロマンテも忌々しげに呟いた。



「それに同行しているのがウォンフォス、ついでに下位と思われるのが一人。オルターヴの方に着いているのがグレン、カトロス、デュスティネの上位三人と、下位が二人だね。ついでに言うと一般兵の小隊が細かく散らばって行動してるみたい」



五席以下に関しては地味に情報が無い。

以前捕らえた七席のオスロンについてもあの時のノフティスの遭遇が初見だ。

というのも以前最後に下位の聖騎士の五、六、八席を討ち取って以降、後に下位の聖騎士が戦場に出てくることが無くなった。

故にその間の代替わりは把握出来ていない。



「情報が無い故に下位も油断出来ない。戦力配分を間違えれば容易に崩されるぞ?」


「そこについて、まず先にオルターヴに向かう軍に戦力の大部分を当てる」


「…ロズヴェルドを放置するのか?」



ロマンテから鋭い視線が突き刺さる。



「…先にオルターヴに向かう連中を殲滅し、余裕がある奴を直ぐにロズヴェルドとの戦いに回ってもらう。その間スクエラートに向かう軍を…ロズヴェルド達を抑える役目を担うのは、アレク、私、オウガだ。残りはオルターヴの方を任せたい」


「ロズヴェルドだけじゃないだろ?ウォンフォスや怪物共を含めた連中を、三人で抑えられるとでも?」


「勿論適当に当てているわけじゃない。そこは信頼してくれ、()()


「…」


「ロマンテよ。亡き盟友には失礼だが、今代の黄道十二将星(セレスティアルライン)は当時よりも良き人材が集まっている。それに、あの時は結果だけ見れば大敗を喫した訳だが、何もロズヴェルドと言えど我々を圧倒できた訳ではない。少なからずこちらの力は通じていた。だから…信じよう」


「む…」



私の判断に不満そうにしていたロマンテをハルトマンが諭す。


───あまりプレッシャーをかけられても困るのだがな…


「で、今回の防衛に参加出来ないのは先述したレイズと十二位の…ルーナか。私まだルーナに会ったことないんだが…」


「彼女はある仕事を任せてますので…」



未だ名前だけのみで性別すら知らなかったルーナ・ルーファスという黄道十二将星(セレスティアルライン)

名前の感じからなんとなくは察していたが、陛下のフォローで女性と確定したのは良いとして、連携が出来ないのもどうかとは思う。



「まあいい、オルターヴの防衛を先述した者以外の者が担当するとして、エミュリスは陛下の護衛も兼ねて王城から各戦場への援護をしろ。細かく散らばっている小隊相手なら一般兵でも対処は難しくない筈だ」


「うぃ」


「非常時において作戦を変更する際は適時連絡する。全員連絡用の魔道具(アーティファクト)は肌身離さず持っておけ。それと現場では臨機応変な対応を求める。各自指示がない時は自分で判断して動け…ぶっちゃけ何が起こるか分からないから明確な指示は出せん」


「分かった。早々に片を付ける…生き残れよ?」


「ふっ、任せてください」


「…では皆さん。この国を守るため、そして神教国に人外種を狙わせないために、この決戦に臨みましょう。私は…皆さんが生きて帰ってくることを望んでいます。どうか…」


「…」



陛下が激励の言葉を伝え、頭を下げた。

私達はそれぞれと顔を合わせると、一様に微笑んだ。

そして各自跪く。



黄道十二将星(セレスティアルライン)を代表し、一位にして統括、アレク・フルーハウト。陛下、貴方は我らの主、この国の皇帝です」


「…!貴方達、必ず勝って生き残ってください。これは命令です!」



声高らかな陛下からの命令(エール)に勢いよく答えた一同は、各自持ち場に着くために移動を始めたのだった。























避難を促しに来た兵士さんから皇国の主力が二手に分かれそれぞれの迎撃をしようとしていることを聞いた私達は、避難するとだけ言って兵士さんを帰らせ、オルターヴから離れた森に来ていた。



「…!各自臨戦準備!」


「やあ、本体の方から中々な殺気が出てて気付きにくかったけど、本隊から別行動を取って裏取りでもするつもりだった?」



森を行進していた十余名の白い鎧で統一された集団の前に立ちはだかる。

個々の実力ではヴィクティスの時に出会った聖騎士に匹敵する者は居ないようだが…



(かなり動きが洗練されてる…下手したらあの聖騎士一人相手するより手強いかも…)



中途半端な実力の個人を相手するよりも実力はそこそこでも連携の取れた集団を相手にする方が厄介な事が多い。

それでもヴィクティスでノフティスが纏めて無力化した兵士達よりもずっと手練だろうし…まあでも。



「行くよ、フィリア」


「ええ、せっかく落ち着ける家が出来たんだし、あの町気に入ってたし…」


「友人も出来たし、溜まり場になってるその店もあって今の日常好きだから…」


























「「それを壊すのは、許さない!」」


開かれた戦端、開闢する人類の守護者達───

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